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グローサー・マジック  作者: チャラン


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第10話 コンビネーション

「ここで帰ってきたモールベアに出くわすとは……少しばかり予測が甘かったな」


 ワイズはモールベアのつぶらな目を睨みつけ、対峙しながらも冷静さを保っているが、フラットの方はというと、あまりに想定外な事態を受け入れ切れず、パニックになりかけていた。


「ど、どうしたらいいんだ!? ワイズ!?」

「まず落ち着け! フラット! 落ち着いたらフェイクの魔法を放つんだ。それしかない」


 自分と比べ倍の高さはあろうかというモールベアを眼力で抑えつつ、ワイズはフラットに活を入れ、同時に指示を出す。状況を鑑みるに、この場を切り抜けるための的確な指示を発したはずなのだが、フラットはワイズの方をすぐ見返すと、戦法に欠陥があることを早口で伝えた。


「精神系の魔法って、図体が大きいやつには効きにくいんだ! お前も知ってるだろう!?」

「当然だ! だからこの黒鏡がある! この鏡面に向かってフェイクを撃て!」


 フラットの早口に対しワイズも早口で答えると、角度をつけて小さな黒鏡を持ち直し、黒鏡面に向けてフェイクを撃つよう、もう一度指示を出した。合点がいったフラットは、手鏡の黒鏡面に向け、


「フェイク!」


 ここしかないという角度で虚像の魔法を放つ! フラットの両手のひらから放たれた緑色の魔法光は黒鏡に反射し、強められた光がモールベアのでかい図体に吸い込まれた!


「グッ!? グオオオオォォッッ!?」


 フェイクは完全に効いている! 幻惑効果を受けたモールベアは混乱し、ワイズとフラットから視線を外すと、全く見当違いの所を攻撃し始めた! その膂力は凄まじいが、モールベアの脅威は今、2人から遠ざかっている!


「チャンスだ! ダッシュで逃げるぞ!」


 逃走で脅威を回避するには今しかない! フラットとワイズは、モールベアにかけた虚像の幻惑効果が切れない内に、巣穴の出口から脱出すると、命からがらその場から逃げ出した!




 クライムランドの大地に暁が訪れ、夜が白みかけている。


 フェイクの幻惑効果が切れたモールベアが巣穴に戻り寝静まるまで、フラットとワイズの2人は手頃な岩陰でしばらく待ち、休息を取っていたのだが、そろそろ動く頃合いのようだ。


 フラットとワイズは、再度、モールベアの巣穴に入ると、全体がL字型に掘られた巣の中で、大中小3枚の黒鏡を使った仕掛けを、協力しながら施している。


「このセットの仕方でいいんだな?」

「ああ、上出来だ。あとはこの手鏡に向けて後催眠の魔法を撃てば仕上げになる。最後にヘマをするなよ」


 どうやら2人は、L字型の巣の形状と黒鏡の反射を利用した、少々大掛かりなセットを作ったようだ。ワイズが角度をつけて構えている手鏡を加えた、4枚の黒鏡の配置状況は、図的に表すと次の通りになる。


           /      \      フ


                  \      /(ワイズの手鏡)



           熊


 全ての準備が整ったのを、フラットはもう一度確認すると、


「ダ・スリープネス!」


 ワイズが持っている手鏡に向けて、後催眠の魔法を放った! フラットの両手のひらから発せられた後催眠の魔法光が、4枚の黒鏡の鏡面で次々と反射していく! 4段階の反射により何倍にも強められた光は、巣穴の奥にいるモールベアに見事命中し、巨体に緑色の思念波が吸い込まれていった!


「うまくいったのか!?」

「ここまではな。ここからが最後の詰めだ」


 後催眠の魔法をかけ、巣の中を満たしていた緑色の魔法光が収まった後、ワイズとフラットは巣穴の最深部まで再度入って行く。


 巣の通路より一回り広い最深部の()()()では、モールベアが巨体を休めていたが、なんとワイズは、カンテラの明かりを照らしながら狙いをつけ、手頃な石を巨大動物の丸頭へ向けて投げつけたではないか!


「グオッ!? グルルルオオオッッッ!!」


 投石が当たった痛みにより目覚めたモールベアは、ワイズとフラットの姿を見るなり、敵意むき出しで向かってくる!


「お前、何やってんだよ!? 正気か!?」

「正気も正気さ! 全速力で逃げるぞ!」


 怒り狂ったモールベアは4つ足を使い、巨体に似合わない凄まじい瞬発力でワイズとフラットに追いつかんとしている! 2人は追いつかれまいと死に物狂いで巣穴の外まで逃げ、一手違いで巣穴から出てきたモールベアの攻撃をかわすが、


「グオオオォォォ…………」


 そこで後催眠の魔法の効果が現れ、モールベアは麻酔が回ったように倒れ込み、深い眠りに落ちてしまった!


 (すんで)のところで命を拾い、三度(みたび)巣穴に入り、新鮮なサッキン草を手に入れたワイズとフラットは、


「ハハハッ! 面白かったな、フラット! そう思わないか?」

「フフフッ! 終わってみればな! 正直死ぬかと思ったぜ!」


 お互いの肩を叩き、そう笑い合った。


 大笑いしている変人学者ワイズの顔を初めて見たフラットは、友人の新たな一面を知れて、大冒険から生還した喜びも一入(ひとしお)である。

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