52.キャスター
ベイはメリーの顔を見ながら「…どう…少しは人の話を聞けるように成ったかな?」「えっ?どう言う意味かしら?」「いや、だから、僕は何時も人の意見を聞かずに動く癖があるから…」するとメリーは首を傾げ「…貴方はいつも私達の話を聞いてくれて、私達の希望通りにしてくれたわよ」と言ってベイの鼻を人差し指で…チョコンと触った。すると先ほどまでむせて居たリンダが「ベイ博士、メリーの言う通り、私達は「嫌な事をさせられた」なんて言う風に思った事は一度もないですよ、何時もきっと何か理由があるんだろうなって思っていましたよ。悪魔の使いの事だって、世間から非難を浴びた時に全部自分の責任だって言うためですよね?」と言うと、隣でボブが小刻みに頷いた。ジョニーはオデコをコリコリと掻きながら「ベイ博士……皆んな…ベイ博士の事が大好きで…ついて来ました、何時もワクワクさせてくれ、ドキドキさせてくれ…そして最後に良い事をさせてもらったなぁって思わせてもらって…とにかくベイ博士が考えられる作戦…大好きです。女将さんと匠さんも大好きですよね?」「はい、大好きです…何回も言いますけど、考え方も行動も、そして人柄も大好きです」と匠が言えば、女将は頷きながら「だからこそ…私たち夫婦は、ベイ博士のサポート役を心の底から喜んで…させて頂いて居るんですよ」と言って微笑んだ時である…テレビの中に、リチャードスミス氏が映った…食堂に居る全員が「あっ…」と言いながらテレビの画面に注目した。マイクを持ったニュースキャスターの女性は見るからに興奮しているのが分かる、無理もない、世界を救ったヒーローインタビューに、多くのアナウンサーの中から自分が選ばれ…更に特別なコーナーまで用意してもらったのである。彼女は何度も、自分の心の中で練習を繰り返した。そして今「…テレビをご覧の皆さん、世界が終わるのではないかと思われた昨日から、一夜開ける事が出来ました。既にテレビやネットの映像で御覧に成られたと思いますが、世界中の空軍の方達が力を合わせ戦って下さったお陰だと思っています。今日は戦いの総指揮を取られた、リチャードスミスさんをスタジオに御招きしております」と言って彼女はリチャードに会釈をして「今日は朝からスタジオにお越し頂きありがとうございます。あの、すみませんリチャード隊長、お聞きしたい事が沢山あるのですが…よろしいでしょうか?」と言って微笑むと、リチャードは小さく頷きながら「はい、何でも答えさせて頂きます」と言って背筋を伸ばした「昨日の皆さんの働きで地球は救われました…ただ映像を見ると沢山のジェット機が…その…爆破されたように見えたと言うか…中にはエイリアンの飛行物体に自ら体当たりして行って…大破したように見えたのですが…」キャスターの質問にリチャードスミスは厳しそうな表情を浮かべ「太平洋上空での戦いは、先程もこちらの番組で流された映像の通りです…かなり多くのジェット機が爆破されました、特に日本のパイロットの方達は…自らのジェット機にミサイルが無くなると「後はヨロシク頼みます」と言って隊長が先頭をきって敵の母艦に突っ込んで行かれました。私は正直言ってびっくりしました。しかし次の瞬間、隊長の後を追うように副隊長も部下の方達も次々と「後はよろしくお願します」と言って敵に突っ込んで行くんです。ここで奴らを倒さないと地球は守れない…彼等の後ろ姿がそう言っているように感じました…本当にすごい方達です」「リチャードさん実は、日本のパイロットの方達全員が無事生還されたと言う情報を私どもの番組が手に入れているのですが」リチャードは(知ってるよ、スカイシップの中で一緒に生き返らせてもらったし…男同士で抱きしめ合ったし…お互いメチャクチャ尊敬し合ったし…)と思ったが、ワザと大げさに「えっー本当ですか、良かった、上手く脱出する事が出来たんですねー、本当に良かった」と言って微笑んだ。するとキャスターは「あの…私どものスタッフが映像をくまなくチェックしました所…リチャード隊長も敵の母艦に体当たりしているんですよね…こちらの映像をご覧下さい」リチャードは「えっ?」と言いながら振り返ると、スクリーンに自分が乗っていたジェット機が写っている(げっ…マジか…よく見つけたな…)と思っているとキャスターから「リチャード隊長も無事に脱出する事が出来たんですね…」「えぇ…そうなんです…」「でも映像を見る限り、ものすごい爆発で…脱出されたようには見えないんですが?」「そうですねー…この角度からは写って居ませんが…この爆破の後ろ側に脱出する事が出来まして…とてもラッキーでした」「本当に良かったですね。ところで話しは少し変わりますが…こちらの方達をご存知ですか?」と言ってキャスターは一枚のボードを指し示した。リチャードはおもむろに視線を向けた…(えっ〜、またベイ博士達の写真…さっきも映像を出してたじゃん…秘密なんだよ…でも何で皆さんの写真が?…世界最高会議室の中って、簡単にハッキングされちゃうの…?)と思ったが、表情には一切出さず(知らないフリをするしかないな…)と思った次の瞬間である「リチャードスミスさんもここに一緒に写っていますよね…」と言ってキャスターが微笑んだ直後に…何処からか指示が出たのか「えっとスミマセン、今から我が社が入手しました映像を約5分間ほど見て頂きまして、その後にもう一度リチャード隊長から話を伺いたいと思います」と言ってキャスターは話を一旦結んだ。リチャードは胸をなでおろし(あぁ〜良かった…でも何でトップシークレットが漏れてるんだ?…なんて答えればいいんだ…テレビ局はどの辺までの秘密を知っているんだ…)と思いながら大きく息を吸った時である…キャスターが自分の胸元に付いているマイクを外しながらリチャードの耳元に顔を近づけた「リチャードさん、私どもはベイ博士の事を知っています。全ての事では有りませんが…ボクシング世界ヘビー級タイトルマッチの前日記者会見の映像の中に…ボクサーのボブ選手、マネジャーのリンダさん、ラジオの人気DJのジョニーさんとアンジーさん、天才シェフとしていくつもの雑誌に取り上げられたグレイさんとルーシーさん…そして色々な研究所を回られたベイ博士とメリー博士が写っている物を、私どもの、テレビ局のスタッフが見つけました。でも…あの方達8人は火事で亡くなっているんです…なのに世界最高会議室の中にパッと現れ…悪い奴らを大統領に引き渡しています…それに先ほどの映像の空中戦…素人の私が観てもパイロットの方が全員が助かったなんて信じられません…それに海岸沿いを襲った高さ90メートル級の津波…ご存知でしたか…何処の海岸も全部…大きな海水の壁が立ち上がり、町は何の被害も受けずに助かったんです、それに、島には海水のドームが張られ、船などは、大きなシャボン玉で包まれて沈む事もなく、無事今日と言う日を迎える事が出来たんです…でも常識で考えて…おかしくないですか…」キャスターの声は、早くて、小さくて、そして震えていた。リチャードは小さな声で「死んでいた方が良かったですか?」「ごめんなさい、そう言う意味ではないんです…会議室での映像…はじめの方が音声が入ってないんです…リチャードさんの声もベイ博士達の声も…何を話しておられたんですか?お願いです、教えて頂けませんか…」キャスターはすでに泣きながら喋っている、リチャードはハンカチで彼女の涙をぬぐいながら「世の中には、知らない方が…いい事もあります…ただこれだけは言っておきます…あの方達はとっても優しくて、強くて…そして正しい方達です…」「…知っています…知っているんです。私の妹は産まれた時から病気を沢山持っていて、何度も何度もオペを繰り返し…でも半年前に亡くなって、私と両親が泣き崩れて居たら…ジョニーさんとアンジーさんが壁の中から出て来て…そして妹を生き返らせて下さって…なおかつ病気も治して下さって…御礼を言いたくて声をかけたら「オレ達は悪魔の使いだ…気まぐれな事をしただけだ…」と言われて壁の中に消えて行かれました…リチャードさん、知っているなら教えて下さい、あの方達は神様ですよね…」するとリチャードは優しい声で「そうです…でも8人の神様達の事が世間に知れたら…あの方達は行動しづらくなると思いませんか?」キャスターは静かに頷いた「貴女は神様達に、御礼を言いたかったんですよね」キャスターはもう一度頷いた、リチャードは微笑みながら「今度あの方達にお会いする機会がありましたら…貴女の事を伝えておきますよ…ですから…今日のこの放送は、地球が何事も無くて良かったですね、と言う風にまとめて頂けませんか?」「…はい…取り乱してスミマセンでした」そう言って彼女はこの後…報道番組を上手にまとめ…終了させてくれた。ベイ博士達8人の耳元には、キャスターとリチャードスミス氏の会話も当然聞こえて居た、女将が、あえて聞かせたのである、ベイはテレビを観ながら「匠さんと女将さんの言う通りでしたね……悪魔の使いだ…何て言うキャッチフレーズは…僕の軽率な考えでした。皆んなにも嫌な思いをさせて本当にゴメンね…」と言うと、7人は優しく微笑んでくれた。メリーはベイの手を触りながら「ねぇベイ…」「なぁにメリー」「さっきのキャスターの方…本当は番組の中で私達の正体を明かしたかったのかしら…それとも本当に御礼を言いたかっただけなのかしら?」「さぁ〜どっちかなぁ…でも結果として僕達の事を黙っていてくれた訳だから…助けてもらった感はあるよね」「後でお礼を言いに行かない?」「そうだね、8人で行こうか」と言って6人の顔を見ると、満面の笑みで親指を立てていた…皆んなの気持ちが…とてもいい感じに和らいでいる時、匠の隣にチョコンと座っている女将が申し訳なさそうな小さな声で「あの…ベイ博士」「はい、何でしょうか?」女将は匠と顔を見合わせ…「あの、実は私達夫婦は…皆さんに隠し事があるんです」「えっ?…そうなんですか…いま…私達に聞いて欲しいって言う事ですか?」「はい、そうです…」ベイは皆んなの顔を見回した後に「…分かりました、どうぞ…」と言った。女将は意を決したような表情で「…ホタル達を世界中に送り出してから、さまざまな報告が私達の耳に入って来ます。命にかかわる重大な事は直ぐにベイ博士に伝え…皆さんに世界中を飛び回って頂くと言う大変なご苦労をおかけしました…」「女将さん、苦労なんて思っていませんよ…」と言ったのはルーシーである、女将は微笑みながら「ありがとうこざいます…実は、亡くなった方々を生き返らせる事よりも、更に多くの報告がありました…」今度はアンジーが「何ですか?…」と尋ねた、女将は淋しげな表情で「…貧困と飢えです…ホタル達から、お金ではなく、食べ物を送って欲しいと要請が途切れる事なく入って来ました、お金を持って買い物に行くどころの話しではなく、今すぐに食べ物が無いと死んでしまうかも?と言う緊迫した状況の話しです…でも皆さんに、これ以上出動して頂くには無理があると判断した私達は…皆さんが寝ている間に…瞬間移動とホログラムを使い…世界中の困っている方達に食べ物を配りました…」するとリンダが「なんだか私…泣いてしまいそうなんですけど…私達が寝ている間に女将さんと匠さんは世界中を飛び回って下さっていたんですね。ごめんなさい…私達なんにも知らずに…もう本能のままに、愛し合って居ました…」と言ってボブの手を握った。するとベイは頷きながら「私がいたらないばっかりに、影でそんな苦労をされてたんですね、本当にすみません…食べ物を受け取られた方達は喜んでくれだでしょ…」「それはもう大喜びでした。ただ…いきなり食べ物だけが目の前に現れても、不審に思って誰も食べないだろうと思い…実は、皆さんの姿をホログラムにして、食べ物を配りました」8人はほぼ同時に「えっ?」と言って女将と匠の顔を見つめた。2人はその声のトーンで(しまった…怒っているんじゃないかな?)と判断したのか、皆んなからの視線を避けるように下を向いてしまった。ベイは慌てて「あの…匠さん、女将さん…えっと…そんな下を向かないでください。良い事をされたんですよ、私達は少しも怒って居ませんから…」と声をかけた、すると女将は「そうなんですか、良かった〜」と言って匠の顔を見つめ満面の笑みを浮かべた。8人は思わず(立ち直りが早いな〜)と思いながら笑い出してしまった。今さら匠と女将に何を言っても、8人は世界中の誰かに食べ物を手渡しているのだ…ずっと悪魔の使いだったはずが、自分達が寝ている間に神様の使いのようになって居たのだ。ベイは心の中で(本当に良く出来たAIだこと…僕の欠けている部分を、何も言わなくても良い方向に向けてくれて…AI主体の社会だって作ろうと思えば作れるのに…僕みたいな頼りない男に使えてくれて…女将さん…匠さん…僕は欲深くて、自己中心的で…大したことない人間ですよ…)と思っていたら…隣からメリーが身を乗り出し「私達ばっかりが世間から感謝されて…女将さんと匠さんも前に出て来られませんか?…前にベイが言ってたんですけど、優秀な御二人なら宇宙に君臨する事も出来るよ、って言ってましたよ」すると匠がキッパリと「興味がありません。私達二人は、ベイ博士の全てにおいて、完璧でない所が大好きなんです。何時もメリーさんの身体を、舐め回すように見つめる、あのヤラシイ目。のべつ幕無しメリーさんのお尻を触る、あのヤラシイ手。なのに、ほぼ同時進行で世界中の人達の幸せを考えている優しい心。口では「自己中心的な俺のどこがわるい」と言いながら皆さんの意見を聞きながら「そうだねぇ〜」と言って自分の意見を直ぐに引っ込める、心の広さ。私と女将は、そんなベイ博士が大好きです。なので自分達がトップに立ちたいなどと思った事は一度も有りません」と間髪入れずに答えた。するとボブも間髪入れずに「匠さん私達も御二人とまったく同じ思いです。ベイ博士は超天才で、何でも自分の思い通りになるだろうに…しないんです。私達はその部分が大好きなんです」と言ってベイの顔を見つめると、部屋中のメンバー全員が(その通りです)と思いながら…ベイの顔。を見つめた。。。。。。




