40.ふざけた奴ら
ホテルのソファーは、受け付けのカウンターの前に、大きなコの字型を描くように並べられている…皆んなはお互いの顔を見合わせるような感じで腰を下ろすと、ベイ博士に視線を向けた。ベイは皆んなの顔を見ながら微笑むと、いきなり立ち上がり日本語で「えらい事になって来たわ〜…」と言った、誰もが(あっ、遠足の時にベイ博士が紹介してくれた、田澤と言う小説家の言葉使いと一緒だぁ〜)と思ったが、言葉のイントネーションが少し違うので全員が吹き出してしまった。ベイは皆んなの笑顔を見ながら「これから僕が言う事は嫌な話なんだけど、今の様な笑顔で聞いて欲しいんだ。…ほんの少し前に、匠さんと女将さんから大事な話があってね…どうもよその星の住人が地球にやって来るみたいなんだ。」メリー以外の全員がロウ人形のように動かなくなった、しかしベイは皆んなの表情を気にする事なく、話を淡々と進めて行った「友達になる為に来るんじゃないよ、食料の調達のために来るんだって…食料の対象は、地球上の生き物全て…当然人間も含めてね、すごいね、好き嫌いが無いんだね、何でも食べちゃうんだね、と、ここで話が終わると悲鳴をあげたくなるけど、僕達には、匠さんと女将さんと言う強い味方が付いているから、全然大丈夫なんだよ。…実はね、すでに女将さんは、相手のAIの力量を70%ほど測り終わっているし、匠さんも、相手の武器の内容を60%くらい把握し終わって居るんだ、でもその事を相手のAIは、未だに分かっていない…もうその段階で、こちらの方が上だって分かるよね」皆んなは安心したのか、やっと動き出した。レイチェルの肩を抱き寄せるブラウン、トムに微笑みかけるニーナ。何時もなら、リンダもアンジーもルーシーも、このあたりでボブやジョニーやグレイに抱き着くはずなのに、ブラウン一家から先生と言われているせいか、甘えたい気持ちをグッと押さえて、微笑み合っているだけである…ベイとメリーは、そんな6人を見て可笑しくてしょうがない、だから思わず「ヘイ、皆んなどうしたんだい?嬉しい事があると、何時も抱きしめ合っている夫婦なのに、今日はノリが悪いじゃないか」と、日頃マジメな喋り方をするベイが、突然くだけた物の言い方をしたので皆んなは大爆笑である。しかし笑い声が収まると、ベイはまた冷静な喋り方で「よその星の住人が…地球に来て行動をし出すのは約5時間後…母船は地球から見て、月の後方70万キロの場所に居るんだけどね…奴らはまず、航空母艦(偵察船)6機を地球上に送り込んでくるんだ。アメリカ、ロシア、ブラジル、オーストラリア、中国、アフリカの上空に姿を現し、空から食料の調査を始める…各国の軍はおそらく何らかのコンタクトを取ると思う…しかしその行動は彼らにとっては、目障りでカンに触るものでしかない、なので、たぶん攻撃されると思う…さてその先はどうなるのか…」ホールの中はシーンっとなった、するとジョニーが手を上げ「ベイ博士、彼らの母船の大きさはどれくらいですか?」と尋ねた、ベイは間髪入れずに「月よりも少し大きい…」するとボブが「ベイ博士、航空母艦の大きさは…どれくらいですか?」「女将さんの話だと、高さが400メートルで、横が1000メートルで、長さが2200メートルの…見た目は、巨大なレンガのような型だよ」と言った、するとグレイが小さな声で「ベイ博士、そんな大きな、空飛ぶ戦艦に…各国の空軍の戦闘機は通用しますか…?」と尋ねた…この質問には誰もが(う〜ん、SF映画なんかでは…かなり厳しい結果になっちゃうんだよね…)と思った、しかしベイからは楽観的な答えが返って来た「地球の空軍は強いから大丈夫だよ」グレイは(えっ?そうなの?)と思いながらも、更に「あの、でも映画なんかでは、シールドなんて言うモノを張られて…ミサイルが効かない、なんて言う場面をよく見るんですけど…」と言いながら、ルーシーの顔を見た。するとベイは急に笑いながら「大丈夫なんだよグレイ…皆んなもグレイと同じ心配をしてるんだね」誰もが小刻みに頷いた、ベイはメリーの太モモをさすりながら「今ね、女将さんと匠さんが罠を仕掛けに行ってくれているんだ。前にも言ったと思うけど、大気圏辺りには、沢山の要らなくなった人工衛星が浮遊してるんだ…御二人は衛星に、細工を施してくれていてね、早い話しが、大気圏内によその星の戦艦が入ってくると、その戦艦はシールドを張る事が出来なくなる、そんな魔法ようなトラップを仕掛けているんだ、そうしたら、小回りのきく地球の戦闘機の方が有利な気がしないかい…まぁ相手は大きなレンガだから、体当たりで来られると少しマズイけどね…でも、さっきも言った様に女将さんと匠さんの方が何倍も相手よりも優れているから大丈夫だよ。ただ問題はレンガ状の航空母艦の中には100機の戦闘機が搭載されて居て…合計600機が地球上で暴れ回るんだ、どの国も速やかに、臨戦態勢をとって貰えると嬉しいんだけどね」ブラウン一家は揃って首を傾げた(えっ?ベイ博士ならアッと言う間にエイリアンを倒せるんじゃないの…)と思った、その雰囲気を察したリンダが「月の後ろにいる母船と、6機のレンガを同時に攻撃するのは…さすがに無理だと思うわ」と言って微笑むと、ブラウンは慌てた顔で「あっ、すみません…」と言って頭を下げるのでブラウン一家を除いた8人は思わず吹き出してしまった。ベイは咳払いをした後に「…今から僕の考えを言うね…」部屋の中がシーンとなった。なのに、ベイはメリーの太ももを触ったまま…「常に侵略者が入って来ないように、女将さんと匠さんは、銀河の端まで目を光らせてくれていました。奴等を見つけ、奴等の素性を調べている間に、ちゃっかりと月の後ろに隠れて居ました…なかなかの科学力を持っている奴等です…だったら、自分達の星の食料問題くらい何とか出来るんじゃないかと、僕が女将さんに尋ねたら…「食料問題は二の次で、彼らは根っからの戦闘好きな種族で、同族以外の死は、なんとも思っていません」とキッパリ言われてね…実は当初、奴等を適当に追い払って「二度と地球に来るなよ」って言う感じの戦いをしようと思っていたんだ…でも奴等が今までに侵略し、破壊し、食い潰して来た星の事を考えると…それじゃダメだと思った、ここで奴等を残して置いたら、よその惑星を侵略しつつ、またいつの日か地球に来ると思う…奴等との戦いは、最初で最後の戦いにするしかないんだ…」と言った。誰もが(おおっ〜、ベイ博士カッコイイ〜)と思った、しかしその反面…(なんで大事な話の時まで…奥さんの太ももを触ってんだよ…)とも思った…しかし皆んなが本当に心の奥底で思っていた事は(ベイ博士なら、絶対に負けない‼︎)…そう強く思う事が出来た。ここに来てやっと落ち着いたのか、リンダがボブにキスをすると…アンジーがジョニーに、ルーシーがグレイにキスをした。トムは自分達の両親もキスをしているのかなぁと思って首を極力動かさず横目で左側を見た…(おぉ〜パパとママもキスをしている…良かった〜)と思った次の瞬間、トムは右腕をギュッと引っ張られ(えっ?)と思いながら顔を向けると、いきなりニーナからキスをされ「お兄ちゃん、ベイ博士って本当にすごい人ね、地球は守られるわね」と言って抱き着かれた、トムは微笑みながら「そ、そうだね」と言ったが心の中では(ニーナ…ビックリするじゃないか…ダメだよお兄ちゃんに抱きついちゃ…)と思いながら、ドキドキしてしまった…そんな照れている時に、トムはベイ博士と目があってしまった、トムはベイ博士の視線が自分の心の中まで入ってる来るような気がして怖かった…その時、ベイ博士の口が…声を出さずに静かに動いた[大丈夫だよトム…大丈夫…]トムが(えっ?…)と思った次の瞬間…ベイの口はメリーの唇に奪われていた。トムは首を傾げながら(ベイ博士…大丈夫って…なんですか?)と思ったが、その答えを聞けるのは、まだ先の事となる。緊迫したような、してないようなミィーティングが終わり、皆んなでココアを飲んでいると、フリー・ベーが急に部屋の中央に飛び出し「皆さん、くつろいでいる時にスミマセン、女将様と匠様がホテルの上空に帰って来られました」と報告をしてくれた、ベイは頷きながら「ありがとう、フリー・ベー、女将さんにつないで」「かしこまりました…」ベイは椅子から立ち上がり「女将さん、匠さん、大変な仕事を押し付けてスミマセンでした」と言って頭を下げた。すると女将の声がロビーの中に流れた「ベイ博士、頭を上げて下さい、主人と一緒にする仕事に、大変な仕事など何もありません、むしろ楽しいくらいです」と言ってくれた、ベイが申し訳なさそうに頭をさすると、今度は匠の声が「ベイ博士、皆さん、準備は順調に進んでいます、安心して下さい。ただ、念の為に、ブラウン一家の皆さんを、スカイシップに乗り込んで頂きたいのですが…よろしいですか?」と言って来た、ベイはすかさずブラウン一家に視線を向けた…満面の笑みを浮かべながら大きく頷く4人の姿が…メリーが優しい声で「レイチェルさん、よろしいですか?」と尋ねると、レイチェルより先にブラウンが椅子から立ち上がり「喜んで、お受けします」と言って頭を下げた。ニーナは笑いながら「パパ、メリーさんはママに言ったのよ」と言ったので部屋の中は大笑いとなった。笑い声が収まった時、しっかり者のトムが「パパ、ママ、急いで身の回りの物を用意しないと…」と言って両親を見上げると、ブラウンとレイチェルは小刻みに頷きながら、ロビーを出ようとした…その時…女将さんは小さく笑いながら「慌てなくていいですよ、もう皆さん既にスカイシップの中に入って居ますので…」と言った。ベイ以外の全員が「えっ〜」と言いながら立ち上がり窓から外を眺めた…「えっ?草原も湖も見えるわ…」とニーナが言えばトムは「パパとママが大事にしている花壇もちゃんとあるしね…」と言った、すると女将さんが「今この部屋の本当の姿に戻しますね…」と言った次の瞬間、草原と湖はパッと消え…「あっ〜スカイシップの屋上デッキだぁ〜」と奇声をあげたのはルーシーである、グレイは驚きを隠せないと言った口調で「匠さんいつの間に…僕達は全員ロビーに居ましたが、ピクリとも部屋は動きませんでしたよ…」と言った、匠は嬉しそうな声で「ここだけの話なんですけど…私達夫婦って…かなり優れたAIなんですよ」と言った、全員が(最初からよ〜く知ってるよ)と思ったが、誰もその部分には触れず…アンジーが「女将さんと匠さんの技術力の高さには、本当に何時も頭が下がります」と言えば「もう、ビックリしました〜」とルーシーが言葉を続けた、すると匠が「喜んで頂けて嬉しいです」と言って、謙遜しながら照れ出した…その様子を見ていたベイは「匠さんも女将さんも…もう完全に人間ですね」と言った、女将は嬉しそうに「本当ですか?ベイ博士にそう言っていただけるなんて…本当に嬉しいです」と言うと、ベイは微笑みながら「僕だけじゃなく、皆んながそう思っていると思いますよ、自分の事を褒められて謙遜したり、照れたり、とっても人間らしいですよ」と言うと、匠が「更に女将と2人で知識を高め合い、人間性を磨き成長して行きます」と言って微笑んだ。。。。




