19.黒衣モード
港側の係の人達は唖然とした、そして口々に「もっ〜驚かせないでくれよ〜」「なんだ、番組の企画かよ〜」「もっ〜、何処にカメラが隠されているんだ〜」と言いながら、大笑いし出した。アンジーとジョニーは顔を見合わせてニヤリと笑った。…614名の人達が船から下りる時…港側から見えない船内の通路で、メリーとリンダとアンジーとルーシーが左右に並び、小さな紙袋を…大人も子供も関係なく、1人に1つずつ渡している「邪魔に成る物ではありませんから…」と言う言葉に、受け取る人達は口々に「ありがとうございます、この御恩は一生忘れません…」と言いながら涙ぐんだ。誰も袋の中身は「何ですか?」などと言う事は聞かない…聞かなくても解っているのだ…4人の女性の後ろでベイとボブとジョニーとグレイが1つの紙袋に3000ドルずつ、必死で詰め込んで居るのが見えているのだ。614名の人達は(命を助けて頂いて…その上…お金まで…)そう思いながら船を降りて行った。最後の1人は、質問をして来た22歳の青年である…彼は生き返らせてもらったその時から、ボブの顔をずっと見ていた。青年はボブに向かい「あの、間違っていたらすみません、ヘビー級・チャンピオンのボブさんですよね、あの、僕もボクシングをしているんです…」ボブは一瞬「えっ?」と言うような顔をしたが、小さく笑いながら「チャンピオンはギンバレーさんで、僕は挑戦者のボブだよ…」「えっ?あの、でもギンバレーチャンピオンが、対戦の次の日、朝のテレビ番組で「俺は引退する。次のチャンピオンは実力から言ってボブ選手しかいないと思う」ってテレビで言って居られましたけど…」「そうか〜、そんな事を言ってくださったんだ…でも俺は、対戦の夜に一度死んじゃって居るから…何も聴いていないし…だから、チャンピオンでも何でもないんだよ」「あの、でも僕はボブさんがデビューされてからズッとファン何です。反則は一切せず、常に前に…たとえ少し下がっても、次のラウンドでは更に前に出て相手を打ち破る。相手の選手に敬意を払い、丁寧な話し方と、優しい態度…ボブ選手は僕の憧れであり、僕はかってに心の中で、先生って呼ばせてもらって居ます。あのスミマセン…握手して頂けないでしょうか…」と言って、青年は、頭を下げながら手を出した…下を向いている青年の視界にボブの手が見えない(しまった〜、トップシークレットって聴いていたのに、ボブ選手ですよね、なんて聴いちゃいけないよなぁ〜、俺はバカだなぁ)と思っていると、ボブの両足が視界に入った、青年が(えっ?)と思っていると、ボブの力強い両手が青年の身体を包み込み「ありがとう、そんな風に言ってもらえただけで、本当に嬉しいよ、ありがとう…君の体格からするとミドル級かな?」「はい、そうです…」「今のミドル級のチャンピオンは強いぞ〜、頑張ってね」「はい、ありがとうございます。あの…ボブさんはもう現役に復帰されないんですか?」「1年以上リングから離れちゃったからね…もし次にリングに行くとしたら…セコンドかなぁ…」と言って微笑んだ。青年も嬉しそうに微笑みながら、ボブにしがみ付き、そして船を降りた。「えっ〜と、お客様で最後でしょうか?」と言う港側の責任者の言葉に青年は「はい、僕が最後です…」と言って一礼すると、何事も無かったように入国手続きを済ませ、町の中にその姿を消して行った。港側の責任者は部下に向かって「いや〜ここだけの話だけどさ、何処の企画番組だか知らないけど…迷惑な話しだよなぁ…海難事故だよ、正直言って、ふざけるな、って言ってやりたいけどさ、怒っている映像がテレビに出たら、女房と子供に、パパったらジョークが通じないのね〜、って言われそうだしなぁ」と言うと、部下達も口々に「迷惑な企画ですよね〜」「生死に関してはジョークでは済みませんよね〜」と言った。その時1人の女性職員が、上司の肩を叩きながら「あの…」「どうしたんだい?」「あの…船が居ません…」「船が居ませんって犬や猫じゃあるまいし」と笑いながら職員達が振り返ると、確かに…船が見当たらない「えっ?…どう言う事…」と言っている時に…責任者の携帯電話が鳴った。責任者が誰と話しているのか?何を言われているのか、周りの部下達には分からない、しかし責任者の顔色は見る見るうちに青ざめ、足が小さく震え出した…責任者は電話を切らずに「…スミマセンちょっと待って下さい」と言うと職員全員に向かい「皆んな、私達はさっき、614名の人達と接して居るよな…」と言った、部下達は(あれ、何の確認だろう?)と思いながら「はい、しました…」と口々に返答をした。責任者は電話を握りしめながら「海難事故は本当にあったそうだ…614名の人達は…船と、ともに…沈んだそうだ…私達が見た船は…あの乗客の人達は、誰だ?…だっ、誰か説明出来る者はいないか?…」港の職員達は、絶叫とともにパニック状態になった。。その状況をスカイシップから観て居る8人…ジョニーが思わず「…そりゃ…驚くよね〜、だけどさ、614名の人達が、本当に亡くなった事と比べたら…微々たる驚きだと思うけどね…」と言って腕を組んだ。。するとそこに、子供が縫いぐるみのクマさんを忘れたと言って、1組の家族が引き返して来た…港の職員達は、奇声を発しながら、全員でその家族を取り囲んでしまった。「えっ?私達が何かしましたか?」35歳の夫婦は、7歳の息子と5歳の娘をとっさに抱き上げ、周りを見回した。職員の1人が「あっ、いえ…あの…スミマセン、実は海難事故がありまして…あの…乗客の方達614名が…その〜船と一緒に海底に沈んだと…あなた方は幽霊、なんて言う事はないですよね」と言って4人の事を真顔でジッと見つめた。夫婦は見つめ合い(どうしようか?…)と視線で会話を交わした、その時5歳の娘が「あっ〜私のクマさんがあそこに居た〜」と言って母親の胸の中から抜け出し職員の中に…職員達は恐怖のあまり、サッと道を開け、女の子をジッと見つめ…(いやいや、どう観ても幽霊じゃないよね〜、透けてないし、足もあるし…)と思った。責任者は迷っていた(どうすればいい…警察を呼ぶのか、子供が居るんだぞ…だけど本来なら、この家族も、死んで居る事に成るんじゃないのか…でも生きてるんだよ、何なんだよ…)そう思っている時…副責任者が夫婦に向かい「スミマセンが…話を聞かせて頂けませんか?」と若干きつい口調でにじり寄って行った。すると夫は妻を抱き寄せながら「約束なので言えません…」と言い、妻も「私達はあなた方に、何か迷惑な事をしましたか?」と言葉を続けた。副責任者は(何もしていないよ、でも約束って、やっぱりなんか秘密があるんじゃない…)と思いながらも口をつぐんでしまった。スカイシップの中からこのやり取りを観ていたベイが「この御夫婦は約束を守るタイプの方達なんだ…」と独り言を言うと急に「フリー・べー、黒衣モード。女将さん、僕をあの場所に降ろして下さい」と言った。7人が(えっ?)と思っていると女将さんが「了解しましたベイ博士、降ろします」と言うと、メリーは慌てて「ベイ、私も行く、女将さん私も降ろして」と言ってベイの腕にしがみ着いた…ベイはメリーの頭を軽くポンポンとおさえると「メリー、下でキスをしちゃいけないよ」と言った。メリーは内心(あっ〜やっぱり、前の事…怒って居るんだ〜」と思った。ベイ博士は静かな口調で「フリー・メー、僕の妻にも黒衣モードを頼むよ…」と言ってメリーを抱き寄せた。。クマの縫いぐるみを抱っこした女の子が、母親の元に戻って来た…遠巻きに見ていた職員達が少しずつ寄って来る、夫妻は子供を抱きしめながら(えっ?捕まえるの?せっかく生き返らせてもらえたのに…)と思っていた…その時、黒衣をまとったベイとメリーが家族の前にパッと現れた、ご丁寧に2人の足元には黒い煙が渦巻いている、女将さんの粋な演出である。職員達は「うわっ…」と声を出しながら五、六歩後ろに下がった。子供達は「正義の味方が来てくれた〜」と言って喜んだ、夫妻もそう思った。ベイは職員達を睨みながら低い声で「…ビックリしたぜ、悪魔の俺がだぜ…誰か教えてくれないか…生きて居る人達を…海の底に沈める、その人間達の精神状態を…614名もだぜ。…凄いねぇ、俺達よりも、悪魔らしいじゃないか、見習わないといけないねぇ。今回は俺の気まぐれで614名を生き返らせた…何だかムカつくんだよねぇ、普通の人間どもが、俺達の領域に入って来る事がさぁ…人間の命をもて遊び、奪って良いのは…俺達、悪魔だけなんだぜ…良い子は…悪魔のマネをしちゃいけないなぁ…」と言って4人の家族の前に立った。誰も喋らない、聞こえるのは館内に流れているBGMだけである。するとメリーが腰をかがめ、両手をコンドルの翼のように広げると…低く恐ろしげな声で「フリー・メー、彼らから自由を奪って」と言った。フリーは賢いので「かしこまりましたメリー様」とは言わず、黙って職員達を動けなくした。メリーは広げた両手のままで「あんた達の命を奪うことなんて…造作も無い事なんだよ…」動けなくなっている職員達は(本当に悪魔っているんだ)と思いながら「ひっ〜助けて下さい…」と言って涙ぐんだ。メリーは更に「あんた達の事は何だって知ってるよ…肺ガンの女房、車椅子の娘、白血病の父親、心臓病の息子…誰から殺して欲しい…」該当する4人の職員は(何で、知ってるんだぁ〜)と思った。メリーは更に「助けて欲しければ…ひざまずきな…」と言った。港の責任者をはじめ、該当する人達が床にしゃがみ込んだ。ベイは「悪魔は気まぐれなんだよ…俺達がした事に、いちいち…詮索をするんじゃない」と言った後に、メリーに(もう行くよ)と目で合図を送った。ベイとメリーは家族を両手で囲むような形をとると「フリー・ベー空へ」と言った…4人の家族と2人の悪魔の姿は職員達の目の前から黒い煙に巻かれて、パッと消えた…なのに職員達の身体は動けないままである。球体の中の家族は少しおびえていた。生き返らせてもらった時は優しい人達だったのに、本当は悪魔だったの…と思えたからである、しかし空に上がるとメリーが「ゴメンナサイ、驚いたわよね〜」と微笑んでくれ、ベイも「メリー、皆さんを家に送ったら…その後で、職員の家族の病気を治して上げようね」と言って微笑んだ。すると男の子が「やっぱり神様だったんだ…」と言って両親の顔を見上げると、ベイが横から「はい、お家に帰って来ましたよ」と言って4人の顔を見た。4人は(早い、もう着いたの?)と思った時には玄関の前に立っていた(えっ?一歩も動いてないのに?)と思っていると「いつまでも御幸せに」と言うメリーの声が聞こえた、4人が振り返るとベイとメリーが手を振ってくれている…4人が手を2回ほど振った時…ベイとメリーの姿がパッと消えた。女の子は両親に「パパ、ママ、絶対に神様だね…」と言って満面の笑みで…空を見上げた。。3分後…港の職員達は動けるようになった。しかし恐怖で声が出ない、全員がその場でしゃがみ込んでしまっている。1人の職員の携帯電話が鳴った、誰もが「うわっ〜」と悲鳴を上げた、そして(悪魔が何かをしたんだ…)と直感した。震える手で電話に出る職員、いきなりの奇声と歓声…「皆んな聞いてくれ…車椅子の娘が歩けるようになった…」と言って泣き出した。次の職員の携帯電話が鳴った…「えっ〜父さんの白血病が治ったの…」そして次の電話が…「息子の心臓病が治った?ドクターが首を傾げてる…」…そして最後の電話が鳴った…「えっ?お前、何で喋れるんだ?…えっ?黒い服を着た男女が助けてくれた…えっドクターが肺ガンが治ってるって…」そう言って泣き崩れた。副責任者がボソッと呟いた「…悪魔の仮装をした、神様だったんじゃないのかな?…」と言って微笑むと、周りの職員達も同じ事を考えていたのか1人の職員が「神様のジョークは、怖すぎますよね〜」と言うと、身体のチカラが抜けたのか…全員が寝そべって、笑い出してしまった。。その後の話を少しだけ…472名を乗せた12隻の救命ボートは、2時間後にやっと港に着いた。警察、救急隊、マスコミは首を長くして待っていた。614人を乗せたまま、船が沈んだと言う事実があるのに…614人は生きている…なぜ?。472名の中には船長も乗組員も沢山いる…。。実は、豪華客船は、匠が小さくしてスカイシップの倉庫に保管している、船底に穴が開いてはいるが、爆発した訳ではないので、綺麗な物である。匠と女将は、船を縮小する前に、船内のビデオによる、画像と音声を抜き取り、ちゃんと編集した後に、マスコミに…リークした。船長と乗組員が12隻の救命ボートに乗せる順位を、お金で決めた事…。472名が、自分達の荷物を乗せる為に席を買い取っている姿…など様々な映像が…もうネット上に流れ出している。警察とマスコミは、その辺の話を十二分に聞きたいと、手ぐすねを引いて待っていたのである。。スカイシップの中では、その様子を観ながら「混乱しそうだね」と匠が言えば「お金の力で…何とかなさるんじゃないかしら」と女将が答えた。この部分の話は、女将と匠の、2人だけの話で、8人は何も知らない。。。。




