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【02】ウェブ小説とランキング沼

(……やっぱり、面白いや)


 本人にそのつもりはないが。


 イゼルはよく他人から『速読』だと言われる。


 ただ夢中になっていると、いつの間にか読み終えているだけだ。


 だからイゼルにとってはウェブ小説ならではの、毎日更新される膨大な数の推し作品を追うことは、さほど苦にはならない。


 今日もまた……ガタン、ゴトン。


 バス通学の帰宅時間を利用して、お気に入り(ブックマーク)の更新作品を順番に目を通していた。


 その中のひとつ。


 とある作品を、読み終えて。


 イゼルは余韻で、心地よく揺れていた。


 ガタンゴトンと、移動中のバスも揺れている。


(メルルさんの作品は、やっぱりパンチ力があるんだよなぁ)


 メルルというのは、ここ最近イゼルが注目している、ウェブ小説の作者である。


 これまで数多くの作品を読み漁ってきた、目の肥えた少年からすれば……


 正直、世界観や設定。


 ストーリーの伏線や展開など。


 作品の基盤となる部分には、まだまだ詰めが甘かったり、ご都合主義な部分があると思う。


 でもそんな違和感を無視できるほどに、登場人物たちが魅力的で、掛け合いが面白く、文章に圧倒的なスピード感があるのだ。


 確実にこれは『面白い作品』だ、と。


 大量のウェブ小説に目を通してきた経験から、イゼルは確信している。


 一方で、その『面白さ』に釣り合っていない世間の評価に、勝手な共感《シンパシー》を覚えていた。


(……やっぱり大事なのは、宣伝力なんだよな)


 作品の価値を、客観的に知りたくて。


 作者はウェブ媒体に、作品を投稿する。


 しかしどんな傑作を投稿したところで、読者の目に留まらなければ、それが『面白い』と評価されることはない。


 作品を評価してもらうには、まず『読まれるための工夫や努力』が必要なのだ。


 自分やメルルなど底辺作者は、その前提条件を未だクリアしていないというのが、イゼルの自己分析だった。


(もっと多くの人の目に留まって……感想や評価をくれる人たちのもとまで届けば、僕の作品だって、ちゃんと評価されるはず……っ!)


 イゼルがこうした『作者』としての視点でウェブ小説を読み始めたのは、作品投稿を始めたこの一年ほどである。


 しかしウェブ小説そのものは、中学生時代からずっと『読者』として触れ続けていた。


 だからこそわかる。


 普通の読者はまず、少し気になった程度の作品に、わざわざ画面をスクロールさせて星評価などしない。


 感想も書かない。


 せいぜいが応援のスタンプ程度。


 とりあえずブクマしてもらえれば御の字だろう。


 だって自分も、そうだったから……


(……あー、星が欲しい)


 作者側に立って、痛感する。


 ウェブ小説サイトという媒体の構造上、多くの弱小作者たちを苦しめる『ランキング』という壁が、あまりにも険し過ぎるのだ。


 さらに作品を評価する『ポイントシステム』という残酷な現実が、現在進行形でイゼルを苦しめている。


(……大体さぁ……星評価やブクマを、毎日滅茶苦茶に稼がないと、日間ランキングの百位圏にすら入れないとか、修羅の門過ぎるんだよなぁ……)


 ウェブ媒体で読む小説を選ぶ場合、ほとんどの読者が利用するのが、サイト内の『作品ランキング』だ。


 これらのうち日間でせめて百位圏内に居残り続ければ、新規読者の目に止まる可能性はグッと高くなる。


 逆説的に、連載中はずっと安定してポイントを稼ぎ続かなければ、作品は次々と更新される後続の中に一瞬で押し流されてしまうのだ。


 そして一度埋もれてしまった作品が、物好きな読者によって発掘《スコップ》されることは、ほとんどない。


 つまり読者の獲得には、ランキングの上位に入り続ける必要があって。


 そのためには、ランキングに反映される読者からのポイントが必要で。


 その読者を集めるためには、ランキングに載る必要があって……と。


 地獄のような、堂々巡りである。


 ゆえに、ウェブ小説では。


 作品の『面白さ』と同じぐらいに。


 作者の『宣伝力』が大事なのだと。


 イゼルが真理に辿り着くまで、さほど時間はかからなかった。


 そうなってくると『自分の面白さを不純物なく評価されたい』という初志からはズレているのだが、すでに界隈の創作沼へどっぷりと浸ってしまっているイゼルには、結果を出さずここで撤退という選択肢は存在しない。


(今すぐにできる宣伝力……となると、やっぱりスペースかなぁ……)


 イゼルは当初、投稿サイト内に設けられた『読み合い企画』なるものに、参加していた。


 しかし……あくまで個人の偏見だが……蛇の洞窟に集まるのは、蛇ばかり。


 なかには自身の作品を宣伝するばかりで、呼びかけに集まった他者の作品を読んでいる気配がないことすらあった。


 勿論、真剣に参加している人たちもいたが、少なくともイゼルが関わった場はそうではなかったので、ここに時間を投資する意味はないと見切りをつけて、投稿サイトが設けたプラットフォームの外側にコミュニティを求めるようになった。


 その中で一番馴染んだのが、イックスという有名なSNSアプリである。


 以前からイックスには触れていたので、創作用のアカウントを作った後は、すぐに界隈のフォローやフォロワーたち……通称『FF』たちと繋がることができた。


 今では居心地のいいコミュニティに属することができている。


 ウェブ創作の常識や。


 ランキング制度の仕組みなど。


 界隈の基礎知識は、FFたちから教わった。


 それからは自分の作品を投稿ごとにイックスで宣伝《ポスト》したり、自主的な読み合い企画も行った。


 それでも……全然、足りない。


 いちおう、効果はあるのだが。


 現時点では微量すぎて。


 作品をランキング上位に押し上げるほどの推進剤にはなっていないのだ。


 となるとやはり……


(……あ、またやってる)


 イックスの機能のひとつである『スペース』。


 これは主催者《ホスト》と発言者《スピーカー》たちの会話を、視聴者《リスナー》たちが聞いたりコメントを投稿《ポスト》できる、簡易版のラジオのような機能だ。


 アプリをインストールしたスマホさえあれば簡単に使用できるため、スペースを始めるまでの敷居が低い。


 またこちらでの宣伝は『直接の声かけ』であることから、ユーザーへの影響力が、一方通行のポストよりも強いとされている。


 創作議論や雑談談義。


 朗読会に、飲み配信など。


 様々なスペースが開かれている中で……


『……いやマジで、ウチのカスみたいな作品とか読む必要ないんで。星とブクマさえくれれば十分なんで』


 サイトの関係者に聞かれれば、垢バン間違いなし。


 危険発言を堂々と垂れ流す、雑談スペースを発見した。


 主催者の名前は〈メルル〉と表記されている。


〈作者の呟き〉


 大事なことなので二回繰り返しておきますが、本作品は実在の人物や組織とは、一切関係ありません(^^)

 

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