252 背に腹はかえられない
Tips:〈愚者金〉
魔力により変質し、金色となった銅。
本当の金と変わらぬ色味をしているため、かつては〈愚者金〉の箔を〈重鉄〉に貼り付けた偽造金貨が多く出回った。
現在は商業ギルドの尽力でかなり対策が為されたことで、偽造金貨の流通は裏社会の一部や治安の劣悪な小国に留まっている。
しかし〈愚者金〉の利用方法自体は偽造金貨が駆逐された国々でも健在であり、資金難に喘ぐ貴族の屋敷の金装飾の殆どは〈愚者金〉製であると言われている。
そんな〈愚者金〉であるが魔力を帯びた金属であるため、安価な魔道具の魔力回路に〈魔銀〉の代わりに使用されている。
(金属の比重の話で〈重鉄〉がどっかで出てた筈…)
※心当たりのある方は、是非とも作者に教えて頂けると助かります。
今回〈白の大樹〉が受けた依頼は、とある休鉱山の坑道に巣くっていた〈ゴーレム〉の討伐である。
迷宮都市にある迷宮〈楔の宮・第5層〉では良い金策になった〈ゴーレム〉だが、今回の依頼のようにダンジョン外に出現するのは珍しい。
当たり前であるが、〈ゴーレム〉という魔物は獣型の魔物や人型の魔物のように生殖で増えることは無い。
ダンジョン外に出現する〈ゴーレム〉というのは、魔法使いにより『傀儡創造』という魔法で造られたものが大半だ。
これらの〈ゴーレム〉は使役者である魔法使いを倒すことで、大概は30分も経てば停止または崩壊する。
しかし古代文明の遺跡に存在する〈守護機〉や、鉱石に魔力が溜まって魔物化した自然発生の〈ゴーレム〉は半永久的な存在であるらしい。
これら…いわゆる天然物のゴーレム系魔物は核を破壊する以外に倒す方法が存在しないことが常識となっており、その討伐難易度の高さから Cランク冒険者パーティーである俺たちに依頼が回って来たのだ。
「…それにしても、この国に鉱山なんて有ったんですね?」
(ん…?)
意外そうな様子でリタがそう呟いたが、俺はリタがそう言った理由が分からなかった。
しかし俺がどういうことかリタに訊ねる前に、リタの言葉に応える者がいた。
「ああ。…なんでも、何代か前の王様が国内の鉱山を全て閉山するように命じたらしいわ。」
今回のリタの疑問のようなことに答えられるのは、〈白の大樹〉メンバーの中にはマリ姉しかいない。
どうやら貴族が殆どである魔術学校では、魔法以外にも様々なことを教えているようだ。
「え!?何でなんですか?」
「それはね───」
と、得意げな顔でマリ姉マリ姉が言うには─
王命で国内全ての鉱山が閉山する前、〈フラワーフィールズ王国〉は今ほどでは無いが各国に大量の食糧を輸出することで国を保っていた。
しかし、現在こそ殆どの食糧を王国に頼っている帝国ですら、当時は国内需要の凡そ2割を自国で賄っていた。
普通に考えるのであればそんな状態で需要の8割を賄う王国に戦争を仕掛けるのは愚行であるのだが、当時の皇帝は野心家であったそうだ。
それ故に帝国が全力で王国に攻めて来た場合、軍の規模や武器の質で大幅に劣る王国では、帝国軍が「飢え」で撤退する前に陥落してしまう可能性があった。
そこで当時の国王はなんと、軍備を強化するどころか鉱毒を流す鉱山を全て閉じ、更なる食糧の増産を命じたのだ!
命令公布の際、反発する貴族達に王の放った
『劣る鉄より優る麦』
という言葉が現在でも至言として伝わっていることから分かる通り、命令公布後数年続いた豊作も後押しとなってこの国策は功を成した。
…以後、胃袋を王国に握られた帝国は現在にいたるまで、「守護者」として王国との関係が続いている。
─とのことであった。
分かり易く例えるならば、商人が武器を向けてきている野盗に、気前良く金品を差し出して護衛にしてしまうようなものだろうか?
こう例えると良くあることのような気もするが…、これを国規模で強行したのだから時の王は中々思い切った性格をしていたようだ。
「…では、何故今になって鉱山を…?」
深刻そうに言うアデリナ。
まぁ、その疑問も尤もと言えば尤もなのだろう。
今回討伐が依頼されている〈ゴーレム〉は、閉鎖した鉱山を再開するにあたり坑道の調査を行ったところ発見に至ったそうだ。
王命により閉鎖されていた鉱山を再開するということは、同じく王命によるものか…最低でも王族が関わっていることは明らかだ。
長らく不要とされていた鉱山を、今になって王族が関わってまで再開するには…それ相応の理由がある。
そしてその理由というのが─
「え…、戦争しているからじゃ無いんですか?」
─リタの言う戦争は直接的な原因ではある。
しかしそのくらいはアデリナも承知だ。
「それもそうだけどリタ、連邦は大体10年毎に攻めて来ているのよ?」
今回の侵攻はおよそ20年ぶりらしく、マリ姉も今回が初の経験となる〈クレク連邦〉による侵攻だが、王国の鉱山が閉鎖されたのは100年は悠に越える昔の出来事だ。
つまりアデリナは戦争以外の理由を求めているのだが、深刻そうにしていることからアデリナ自身も薄々気付いてはいるのだろう。
これまでの数百年と、今現在の違い。
「…〈魔王〉の復活、か…。」
「…〈魔王〉の復活、ね…。」
俺とマリ姉の全く同じ呟きが重なる。
「え?〈魔王〉が何で…って、ああっ!」
リタもようやくピンときたようだ。
〈勇者教国〉…厳密に言うなら『勇者』を崇める救世教が予言した〈魔王〉の復活。
〈魔王〉が復活する時現れるという異世界人の「勇者」も召喚され、俺たちが〈ラビリンス〉で討伐したバトラーのように知恵のある魔物…通称「魔族」の活動の活発化。
更にギルドの情報板に張り出された[帝国兵募集]の張り紙。
唯一〈魔族領〉と接する帝国では年中魔族との戦闘が繰り広げられているらしいのだが、魔族活発化の影響が出ているのだろう。
兵が損耗するならば、兵の装備する剣や鎧も兵士以上に損耗する。
輸入していた鉄が帝国から入手し辛くなり、しかし連邦との戦争で鉄は必要…。
(もしかしたら、昨年の不作も魔族が暗躍した結果なのかも知れないな…。)
…そうなると今回の連邦の侵攻も〈魔王〉のせい、とも言えなくも無い…か?
「あんたら小難しい話してんな。
…もしかして貴族様かね?」
「いや、俺たちは普通の冒険者だよ。」
…むしろ貴族は好きじゃない。
「そうかい。」
と、俺たちの乗る馬車の御者に貴族と勘違いされつつも─
「ほら、見えてきたぞ。
〈スミスタウン〉にようこそ、ってな。」
─街というには寂れた雰囲気の、依頼の〈ゴーレム〉が巣くう休鉱山最寄りの街へと、俺たち〈白の大樹〉は到着したのであった。
帝国が魔族と戦闘云々は、Tips〈八峰山脈〉で示唆していました。
(↑んなもん分かるかっ!?)
ついでに、重鉄のエピソード(?)があったー!!
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