245 さらば!猫人族の村
畑の再生作業が完了したということは、いよいよ俺たちが帰還する時がやってきたということ。
夜を徹した村の宴をそこそこに切り上げ、旅に備えて夜の営みは休んで大人しく眠る。
そして、猫人族の村最後の夜が明けた。
「いやぁ、世話になったな…本当に。」
夜更かしと二日酔いで殆どの村人がダウンする中、調子が悪そうながらも見送りに出て来たボスと俺たちは最後の挨拶を交わしていた。
「気にするな…とは言わないが、俺たちは依頼を熟しただけだ。
…昨日も言ったが、後はボス達次第だ。」
「ああ、そうだな。
…ところで、本当にあれが報酬で良いのか?」
俺の言葉に神妙そうに頷いたボスは、そう言って増えた旅のメンバー2人に目を向ける。
「ちょっと、「あれ」って酷くない!?」
「そうね。
報酬を払い切れないから、ラストが私たちを報酬代わりにしてくれたんじゃない…。」
そう言って自分たちを「あれ」扱いしたボスに抗議する、新たに俺の嫁となったソーナとカティア。
…どうやら獣人種の慣習的に「子作り=婚姻の儀」らしく、種族によっては強姦も“熱烈な求愛”になることもあるのだとか。
それはさておき。
ソーナもカティアも「妾扱いで良い」とは言っていたのだが、俺としては全員を嫁として扱う所存。
すると順番が前後するが…結果としては俺の嫁2人の救出に、猫人族の村が協力してくれたことになる。
そのため俺は「畑の再生作業の報酬と相殺」ということにしたかったのだが…ボスも頑固で、あの時点ではソーナは自分の村の村人であり「過ぎた施し」であるとして俺の提案を却下したのだ。
そして俺とボスが互いに納得出来たのが、猫人族の村の村人を報酬代わりに俺が貰い受ける…というものだった。
それって身売りでは?と俺は訊ねたのだが、ボス的には村で余ってしまう女2人が村の救世主に嫁ぐだけで、むしろ報酬をそれで済ましてしまい気が引けるらしい。
…まぁその辺は話し合いで既に済んだことなのだが、それもあってボスの先ほどの「あれ」発言というわけだ。
…そうそう。
誘拐未遂といえば捕らえられたダマルであるが、全財産を猫人族の村に没収されたのは当然のこと。
次に狩りで得た素材を街へ売りに行く時まで、家畜小屋に入れられるらしい。
なんなら逃げ足の速さを活かして狩りの囮餌役にするのも良い…とボスは言っていたが、そんな言葉がさらりと出てくるあたり…ボス達のダマルへの恨みはまだ晴れていないようだ。
家畜小屋なんかで逃げられないのか?という不安に関しては、スラストという奴に怒りを持つ〈ヤク〉の看守が居るので心配は要らない。
むしろ逃げ出そうとしてスラストの制裁を受けるダマルが心配といえば心配だが、犯罪者の末路などそんなもので同情に値しない。
「あぎゃーっ!!」
(あーあ…。)
俺が猫人族の村であったあれこれを振り返っていると、ソーナとカティアを「あれ」扱いして2人に詰め寄られていたボスの悲鳴が上がる。
大方、2人を怒らせるような余計なことを言ってしまったのだろう。
「くっ…お前ら、俺は長なんだぞ…!?」
もう止せば良いものを、大人気無く立場を振りかざそうとする涙目のボス。
「私たちラスト君のお嫁さんになったんだから、もう関係無いような?」
「…そうね。
これを機に、自分を省みることね。」
「ぅぐ…!?」
案の定2人にキツく言い返されてしまい、二の句が告げなくなるボス。
カティアの言葉も中々にドライであるが、意図せずボスの不始末の尻拭いをさせられたソーナの言葉はカティア以上に辛辣だった。
長としての失策は責めずとも、個人としての失態には容赦無しである。
(哀れ、ボス。)
力では女は男に勝てないが、男は女に口では勝てないのだ。
今回の件で婚約者を飛び越して嫁が一気に3人も増えた俺だが、彼女たちの好意が当たり前にあるものだと思わぬよう…肝に銘じなければならない。
「あー…、そろそろ出発しないか?」
(元)村民に絞られる村長の姿からまた一つ教訓を得た俺だったが、それはそれ。
このままではいつまでもズルズルと出発出来ない予感がした俺は、ソーナとカティアにそろそろ終わらせるように控えめに声を掛ける。
「あっ、ごめんなさいラスト君。」
「………、そうね。
…もう私たちには関係の無いことだもの。」
素直に詫びてきたカティアはともかく、ソーナも渋々ながら話を終わらせてくれた。
ボスが「助かった…!」と言うような目で俺を見てくるが、別に男の誼で仲裁に入ったわけでは無い。
これでようやく、俺の勘に従って猫人族の村を出発出来る─
「それじゃボス、俺たちは─」
「ねぇ待って!」
─と思ったが、少し遅かったようだ。
「行くなニーニャ!
それにカティアも、街に行くのが怖いんじゃなかったの!?
…ソーナも何で出て行こうとしてるんだよ…!?」
(諦めの悪い…。)
俺は俺がニーニャを自分のものにするために行ったことを棚上げし、猫人族基準とはいえ大人になってまで癇癪を起こしているクソガキに呆れる。
ジロリ…
そしてこの事態を二重の意味で招いたボスに、俺は「何とかしろ」と目で訴える。
「『水捕縛』。」
シュルルッ…、ビシィッ!
「うわっ、冷たっ…!?」
しかし俺の視線に気付いたボスが動く前に、水の縄がチャトランを捕らえた。
(魔法!?)
一瞬マリ姉の仕業かと俺は思ったが、それは半分正解であり…半分間違いであった。
「旦那様…?これは浮気ですか…?」
ゾクッ…!
自分に向けられたもので無いにもかかわらず、俺はそのジットリとした女の声を聞いた途端に寒気を覚えた。
「あらデリラ、もうそんなに上達したのね。」
「あら…お師匠様…。
おかげ様でこの度は…、愛しの旦那様と結婚することが出来ました…。」
この場に新たに現れた黒に近い濃い毛柄の怪しげな雰囲気の美女と、親しげに会話を交わすマリ姉。
そう…このデリラという名前の美女こそがマリ姉が魔法の素質を見いだした村人であり、ソーナ・カティアの2人と併せて「未婚娘3人衆」の最後の1人であった。
元は気が弱くカティア以上に街へ行くことに怯えていたようなのだが…「チャトランと結婚しなければならない」という切実さが転じ、チャトランへ向ける愛がチャトランへ執着するほど深くなってしまったらしい。
「デ、デリラ!?
ち…違うんだ、だからこれ解いてくれない?
さ、寒い…。」
ブルブル
チャトランが起きる前に出発したかったため、現在は早朝で防寒着を着ていても肌寒さを感じてしまう。
にもかかわらず起きてすぐに飛び出して来たのであろう薄着に、水の縄で全身をグルグル巻きにされてびしょ濡れになれば…下手したら命の危機だ。
「ごめんなさい…、それは無理…。
でも安心して…?
家に戻ったら…、私が旦那様を暖めてあげる…♡」
ブルブルッ…!
チャトランの身体の震えが、心なしか激しくなる。
「た、助け─」
ズルズル…
(哀れ、チャトラン。)
引き摺られて行ったチャトランはこの後デリラの宣言通り、ジックリ…ネットリ…と暖め()られてしまうのだろう。
「…てことで、俺たちは行くな?」
「あ、あぁ…。
…改めて言うが世話になった。
次訪ねて来たら、その時は盛大に歓迎するぜ。」
「おう、…その時まで達者でな。」
「そっちこそ。」
「「じゃあな!」」
こうして旅の仲間にソーナとカティアを加え猫人族の村を後にした俺たち〈白の大樹〉であったが、のちにこの村の村人全員が魔法を扱えるようになり〈ケットシーの里〉と呼ばれるようになるとは…この時の俺たちには知る由も無かったのである。
ヤンデレって上手く付き合えたら最高なのでは?
(デリラの存在は「222 Ep49.re」のソーナの台詞で示唆されていました。)
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