239 夜は未だ明けず
ニーニャ「スヤァ…( ˘ω˘ ) 」
トンッ
ダマルに追い付かれそうになったソーナは俺の呼び掛けに応え、一か八かで俺に飛び込んで来る。
ゴスッ!
「フギャッ!?」
胸当ての金属板部分に頭をぶつけたのか痛そうな音と悲鳴が聞こえた。
しかし今はそれを心配している余裕は無い。
「くっ…!」
ガバッ
無事(?)ソーナの確保を完了した俺は、ダマルの振り下ろすナイフに対する肉盾となるべく、ソーナを抱え込んで痛みに備え─
「『魔力矢』ッ!」
ヒュッ!
ドスッ!
「ぐぁあぁっ!?」
ドサッ!
─たのだが、悲鳴を上げたのは俺では無くダマルの方であった。
『魔力矢』を膝に受けたことにより、ダマルは前のめりに転倒する。
「ぐああぁ…!」
ガサッ、タタタッ
「ラス君大丈─って血塗れじゃない!?
アデリナ!アデリナ早く来て!」
ダマルの無力化を確認し茂みから出て来たマリ姉が、俺の状態を見て慌てた様子でアデリナを呼ぶ。
「ラストさん!?今治療を─」
「ま…待ってくれ、先に…あいつを…。」
マリ姉に少し遅れて到着し『大回復』の詠唱を開始したアデリナを止め、俺はスラストを指して先に診るように言った。
が、人と家畜…どちらの命が優先されるかと言えば、いずれ肉となる家畜よりも人であるのは普通の考えだ。
「な!?何を馬鹿なことを─」
「頼む!…あいつに助けられたんだ。」
案の定、変なことを言い出した俺を叱ろうとするが、俺はそれを遮り命の恩人(恩ヤク?)であると訴えた。
治療される側の俺の訴えに、アデリナが逡巡したのはほんの数瞬だった。
「…なら取り敢えずこれを飲んでおいて下さい!」
そう言って俺の前に星が煌めく薄緑色の液体を取り出して置くと、アデリナは倒れてピクリともしない〈ヤク〉の方へと向かった。
キュポッ
「ゴクゴク…」
俺はアデリナの言い付けに従い、〈エリクサー〉を一気飲みする。
…またマザー達に会って、エリちゃんに補充して貰わなければ…。
「お前らっ…!俺にこんなことをして…、ギルドが黙っていないぞ!?」
合流した救出隊に捕らえられたダマルが、商業ギルドの名を出して自らに縄を掛けた村人達を脅す。
…確かに、猫人族の村のような辺境で商業ギルドの制裁である「商業ギルドが関連する取引の無期限停止」は死活問題となる。
クスクス
「あら?商業ギルドは犯罪者を匿うのかしら?」
「なっ…!?」
だがそれはあくまでも「ギルド所属員が不当な不利益を被った場合」であり、今回の場合は当然ながら当て嵌まらない。
救出隊がダマルを捕らえたのは「人拐い」に対する正当な反撃であり、「人拐い」という犯罪を犯したダマルは「行商人」と「犯罪者」…果たして商業ギルドはどちらと判断するのか?
そのことを嘲笑交じりにマリ姉に指摘されたダマルは、怒りで顔を真っ赤にしたと思えば青醒めさせてと忙しそうだ。
「『大回復』。」
パァアァ…!
とその時、アデリナの神請魔法の光が夜の闇を優しく照らす。
「メ゛…、メ゛エ゛ェ゛…」
「メェーッ!」
アデリナの『大回復』を受け死の淵から戻って来たスラストに、荷を載せたままのスラストの番が擦り寄る。
(何とか約束は守れたな…。)
スラストが死にかけたりと…かなり危うい部分はあったが、仲睦まじくするスラストとスラストの番を見ると「結果的にはこれで良かったのかも知れない。」とも思う。
「メェー、メェー!」
グリグリ
「メ゛、メ゛ェ…」
…うん。
スラストの番のスラストへの好感が何かとんでもなく上がっているようだが、自身を顧みず敵に一矢報いたのだから然もありなん。
(…はっ!ニーニャは!?)
マリ姉は諦めの悪いダマルと舌戦を繰り広げ、救出隊も続々と合流して騒がしくなっている。
この状況でも目覚めないとなると、かなりの量の睡眠薬を盛られたのだろう。
たかが睡眠薬と言えど、小柄なニーニャの身体に多量の薬物など“良い”わけが無い。
「クシュンッ!」
プルプル…
(あ…。)
ニーニャの様子を見に行こうと腰を浮かしかけた俺であったが、間近から聞こえた可愛らしいくしゃみの音と腕に伝わる振えに、ソーナを抱え込んだままであったことを思い出して断念する。
そして俺…というか俺の身体が思い出したことは他にもあり─
ブルッ
「ブェクショイッ!」
─急に感じた寒さに盛大なくしゃみを出す俺だが、それも仕方ないことだろう。
傷は〈エリクサー〉で完治したが着ていた長袖シャツも長裾ズボンも、ジャムールに斬り刻まれてボロボロの半袖シャツとハーフパンツに変わっている。
…それに血を流し過ぎたことにより身体に熱が巡りにくくなっているようで、冷えた手足の先の感覚が鈍い。
「あの…ラストさん、これ使って下さい。
…落ちていたやつですけど。」
このままでは俺もソーナも風邪を引いてしまうと思っていたところに、毛布が差し出される。
落ちていたということはソーナを簀巻きにしていた毛布だったのだろうが、寒さを防げるならこの際多少汚れていようと構わない。
「お!サンキュー、リタ。」
(…婚約者揃い踏みだな。)
そう思いながらも俺はリタに礼を言って毛布を受け取ると、ソーナを抱え込んだまま毛布に包まる。
リタから受け取った毛布で婚約者ではない美少女と同じ毛布に包まるのはどうかと思うも、寒さに震えている2人に対し毛布は1枚しかないので不可抗力である─
「「………。」」
ポカポカ
(うっ、これは思ったより不味いぞ…。)
─のだが、俺が密かに感じていた役得は、すぐに焦りに変わることとなる。
というのも、俺とソーナが包まるこの毛布…どうやらソーナが普段から使用していた物だったらしい。
抱えているソーナから伝わって来る高めの体温と、俺を包む女特有の花のような甘い匂い。
(落ち着け…今は緊急事態、今は緊急事態…。)
………、ふぅ…。
俺はなんとか剛直を防いだものの、ジャムールとの戦闘で血を流し過ぎていなければ堪えられなかっただろう。
「………。」
モゾ…
何か言いた気なソーナが無言で身体を寄せてくるが、何も言われ無いということは何も気付かれていないということだっ…!
………、………。
それはともかく。
正直な俺の気持ちとしては、ソーナとカティア…2人共に受け入れようと思っている。
しかしソーナとカティアを受け入れる前に、俺はニーニャとの関係をはっきりさせなければならない。
カティアとソーナを俺の意思で俺の女にすると決めた以上、ソーナをニーニャの代わりになど出来ない。
いや…そもそも俺はもう、ニーニャが俺以外の男の女になるのが嫌だ。
(俺は…、大馬鹿野郎だっ…!)
「大事なものは失ってから気付く」と言うが、今の俺はまさにその通りになる寸前だ。
しかし“寸前”ではあるが、俺はまだニーニャを失ったわけでは無い。
マリ姉にアデリナにリタ。
Sランク美女の婚約者が3人も出来て知らない内に調子に乗ってしまっていたようだが、元々の俺は乞う側だった。
手を伸ばすまでも無く手酷く打ち払われていた村時代を思えば…、離れて行きつつあるニーニャの手を引き留めるだけで良いのだ。
(良し、何だかいけそうな気がしてきた!)
実際の難易度は別として、ようやく気持ちが上向いた俺。
しかし俺の気持ちとは裏腹に…早速「先を見るのに夢中で足元を見逃す」というミスを犯したことに、俺は取り返しが付かない事態になるまで気付け無かったのであった。
「最近1話あたりの文字数多いのでは?」
とFURUは訝しんだ。
(ここまで(34話)で大体8.5万字
1話あたり2千字で換算すると…42話分だと!?)
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