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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
6章  初心忘れること無かれ

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238 タイムアップ

Tips:〈ファントムリーパー〉

 砂漠の古代文明の暴君ガイアに滅ぼされた小国の一族が、暴君ガイア暗殺のために用いた来歴不明の薄刃の短剣。

 来歴不明なために詳細は不明であるが、魔力を刃に纏い見た目以上のリーチを得ることができるようだ。

 また、この魔力の刃は魔力を流し続けている間は作用せず、魔力を止めると同時に作用するという謎の性質がある。

 この性質により暴君ガイアは演説中に喉を掻き斬られて死亡し、暗殺の下手人を捕らえるどころか容疑者すら挙げられなかったため、砂漠の古代文明は急速に衰退し滅びることとなった。

 暴君ガイアの暗殺という悲願を達成した一族は大陸の西へと姿を消し、暗殺を生業として歴史の影で暗躍し続けている…とか。


 

 俺が時すらも置き去りにしたのは、1秒にも満たない…ほんの極僅かな瞬間だったようだ。

 だが既に一撃を放った後。


─ァンッ!


 俺が膝を着きながらも放った“飛ぶ刺突”は、ジャムールの下半身を赤い霧へと変えた。

 …もし俺の時の流れがそのままであったなら、ジャムールの血肉が弾け飛ぶ惨状を見せられていたかもしれない。


ドサッ…


 膝から下は残ったものの、支えを失ったジャムールの上半身が地に落ちる。


「あ…?何でオレ、倒れ…」


 上半身だけで仰向けに倒れたジャムールはそう呟き、自分の身に何が起こったのか困惑したまま息絶えたのであった。


(…良し。

 後は…、ダマルか。)

グググ…、ググッ


 気分的にはスラストの様子を確認したいところではあるが、ジャムールの絶命を確認した俺はもう1人の誘拐犯を標的に定める。

 先ほど俺を超強化したスキル…『激情(オーバーフィール)』は一瞬で切れてしまったが、その残滓だけでも今の俺の身体を動かすには十分だった。


グッ、ヨロ…


 俺は槍を杖に立ち上がり、フラつきながらもダマルに身体を向ける。


「ヒッ!?ま…、待て待て!」


ガッ、ヨロ… ガッ、ヨロ…


 顔を青醒めさせたダマルが俺に制止を求めているが、俺は黙したままダマルに迫る。


 『激情』の残滓である“熱”は俺の身体から急激に失われており、今はもう“勢い”で動いてるに過ぎない。

 恐慌に陥っているダマルはそのことに気付けていないが、下手に言葉を交わして僅かにでも冷静さを取り戻されたら困る。

 …もし俺にもっと余力があったのなら、俺がこれまで受けてきた罵詈雑言で口撃してやったのだが…。


 そんな、ほんの極僅かな気の弛み。

 しかし俺の幸運の“揺り戻し”はこんな時にも、否…こんな時だからこそ容赦無く俺を襲う。


「んぅ…っさいわねぇ、静かに─」


 緊迫したこの場においては似つかわしく無い覇気の無い声が、声の主の不機嫌を訴えて来る。


 ジャムールを倒す直前に聞こえた声、それは薬か何かで眠らされ運ばれていた2人の目覚めの予兆であった。

 …しかし、ソーナの目覚めたそのタイミングが最悪であった。


ガッ!

「─っ!」


「─って、え…?」


ガバッ!

「何!?…止めてっ!離してよっ!」

「黙れっ!大人しくしろっ!」


 「不味い…!」と思う俺であったが、ソーナの危機に飛び出すことは出来ず。

 

チャッ…

「止まれっ!…この娘がどうなっても良いのか!?」


 簀巻きにされた毛布からソーナを引っ張り出し右腕に抱えたダマルは、左手に抜いたナイフをソーナに突き付けて見せる。

 商品にするために拐った娘を人質にするとは…その時点で自分の行動がチグハグになっていることに気付けないのだろうか?


(…いや、結局のところ「大金」より「自分の命」を取ったに過ぎないのか。)


 「大商人」と呼ばれる商人の中には金のために自分の命すら(なげう)つ者までいたりするみたいだが…ダマルはそんな覚悟をすることも無く、「大金を得られる」という安易な考えで悪事(人拐い)に手を付けたのだろう。


 ダマルの行動に呆れ果てる俺。


フルフル…


 しかし人質にされた当人には恐怖以外の何ものでも無く、ネグリジェ姿で震えるソーナ。

 マリ姉の持っている物のように透けてはいないが、食うのもやっとな猫人族の村で普段使いできるような物では無い。


(…恐らくソーナが拐われたのは俺のせいだ。)

 

「「止まれ」と言っているっ!」

グッ…

「うっ…!」


 人質を逃がさぬよう、ダマルが腕に力を込めたのだろう。

 人質にされても気丈に声一つ出さなかったソーナが、首への圧迫感に小さな呻き声を漏らす。


ガッ、…


 ソーナへの自責の念とこれ以上ソーナが傷付く罪悪感に、俺は思わず足を止めてしまった。


ガクンッ

「くっ…!」


 何とか槍にすがり付いて転倒は免れたものの、足が俺自身の重さに耐えきれず崩れ落ちるように俺は膝を屈した。


ザワザワ…


(けど、間に合った…!)


「こっちだ!こっちからダマルの声が聴こえたぞ!」

「追い付いたか…!不意の遭遇に注意しろ!」


 騒めく森の奥から聞こえてきたのは、村の捜索・救出隊の男達の声。


「ラス君の声は!?戦闘音は聴こえる!?」

「…いや、聴こえない。もしかしたらラストは─」

「アデリナ!…いけるわね?」

「一回なら何とか…。けど、成功させます!」


 どうやら俺のパーティー(〈白の大樹〉)の皆も来ているようだが…。


(え…、俺死んでると思われてんのか?)


 …まぁ、半死半生(当たらずとも遠からず)ではあるが。

 

「くそっ、耳付き共が…!」


 自身に迫る“終わり”を感じ苛ついた様子のダマルだが、ダマル程度なら救出隊の男達だけでも過剰戦力だ。

 …とはいえこのままでは、ダマルへの報復にソーナが巻き込まれてしまう。


(ダマル)とソーナを離さないと…!)

モゾモゾ…


 何とかしようと焦るが、『激情』で立ち上がる力を使い果たした身体では無駄な身動ぎにしかならない。


コツン…

(あ…?何だ?)


 諦めの悪い身動ぎにより僅か数cmだけ前進し(ダマルに近付い)た俺の膝に、何か硬い物が当たる。

 石か何かかと思うも、俺の視線は“それ”を確かめるために下を向く。


(こ、これは…!)


 “それ”を確かめた俺は出来すぎた偶然に目を見開き、“それ”を拾い上げた。


(これなら…、行ける!)


 俺が拾い上げた“それ”の正体は、ジャムールとの戦闘中に斬り折られた俺の盾のフォーク部の1本だった。

 周りを良く見れば拾い上げた1本以外にも数本転がっているのが見えるが、今大事なのは数では無い。

 一見鉄屑でしか無い“これ”だが、多少長かったり微妙に歪んでいたりするものの、暗殺者(アサシン)の好む暗器(〈投げ針〉)として使えなくもなさそうなのだ。


「「………。」」


 ふと俺が顔を上げれば、俺とソーナの視線が合う。


コクン


 俺が手に持つ物を見て俺がしようとしていることを察し、覚悟を決めた顔となたソーナが俺にだけ分かるように頷いた。


ガサッ!

「っ!居たぞ、ここだ!」


 そこへ救出隊の1人が姿を現す。


「おいっ!お前─」


(ここだっ!)

「『投擲』ッ!」

シュッ…!


 ダマルの気が姿を現した救出隊に取られた隙に、俺はすかさず即席の〈投げ針〉を投擲。


ブスッ!

「─ぐわっ!?」

スルッ、…トサッ


 俺の『投擲』した〈投げ針〉はスキルの効果を受け、狙い違わずダマルの右肩に刺さる。

 その痛みにより拘束の弛んだダマルの腕から、すり抜けるようにしてソーナが脱出。


「ソーナッ、来い…!」

「っ…!」

タッ!


 俺はソーナの名前を呼び、俺の方に逃げて来るように叫ぶ。

 裸足のソーナは足裏に刺さる枝や小石の痛みに一瞬顔を顰めるも、ネグリジェの裾を翻して俺に向かい駆け出した。


「このっ…、小娘!」

ダッ!

 

 だが逃げるソーナと同様、命綱(人質)に逃げられたダマルも必死だ。

 逃げられると咄嗟に追ってしまうのが生き物の性なのか、ナイフを振り上げソーナを追うダマル。


(何!?)

「…ひっ!?」


 2秒…掛かっても3秒もあれば駆け抜けられるような、10m有るか無いかの距離。

 だが…戦えないことと動きが鈍いことは決して同じ意味では無く、それを示すかのようにソーナの背にダマルの凶刃が迫る。


「ソーナッ…!!」


「ラスト…!」

 

 

(あれ?章ヒロインソーナだっけ?)

本章も残すところあと数話(予定)です。


いつも読んでいただきありがとうございます。


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