221 食糧無くとも酒はある
言い付けを破ったチャトランへの各々の反応
・ボス(父親)
「…まぁ、お前もいずれは長になるんだ。
今はまだ早いが、やる気があるのは良いことだ!」
・母親
「あらあら…、たん瘤が出来ちゃってるわ。
次は怪我をしないように気を付けるのよ?」
・ソーナ
「ちょっとあんたまた長の言い付けを破ったのね!
大人になったんだから、いい加減─(以下略)」
・ニーニャ
チャトラン「うぇ~ん、またソーナに怒られた~
ニーニャ~、僕を慰めてよ~」
他の村人達(…またか。)
街で仕事に就いている者に比べて地位が下に見られたり、戦場で捨て駒扱いされたりと、何かと不遇な扱いをされる冒険者という者達。
しかしそんな冒険者にも、街人はおろか貴族にさえも無い“特権”というやつがある。
それは何か?と言えば─
「狩りの大猟と優秀な狩人達に、乾杯っ!」
「「「「「乾杯っ!!」」」」」
ガチャンッ!
猫人族伝統の小毛果酒が並々と注がれた木のジョッキが、獣人らしい乱暴さで打ち鳴らされ─
「よーし、ドンドン肉を焼け!
今日は久しぶりに腹いっぱい食って飲むんだ!」
「「「はいよ!」」」
ジュワアアァッ!
焚き火で熱された鉄板に今日獲れた獲物の肉が乗せられ、香ばしい匂いを発てながら油の弾ける音を奏でる。
ボス達村の狩人達が獲った〈角兎〉や〈ウリボア〉の肉も焼かれているが、何と言ってもこの宴のメインは“オーク肉”だろう。
高級品とされる魔物肉の中では最安のオーク肉ではあるが、それ用に飼育される豚肉や鳥肉よりも高い、本物の高級肉であることに変わり無い。
一抱えの肉を売るだけでもしばらくは暮らしていけるオーク肉を、好きなだけ焚き火に乗せた鉄板で雑に焼いて食えるのは、〈オーク〉を狩った冒険者ならではの贅沢だ。
「ハフッ熱っ!?ハフッ、…旨ぇ~!」
「これが〈オーク〉の肉かぁ、ハフハフッ!」
「これっ、そんな急いで食べると火傷するよ。」
おそらく人生初のオーク肉の味に感動する双子と、そんな子供達を嗜める母親。
「おおっ…、もう無くなってしもうた。」
「肉はまだまだあるぞ、爺さん。
ちょっと待ってくれよ。」
ジュワアアァ…
第一陣の肉を取り損ねて残念がる老人に、第二陣の肉を焼き始める焼き方の男…ってかボス。
ガヤガヤ
陽も落ちてすっかり暗くなった寒空の下複数の焚き火に照らされ、陽気な宴は続く。
彼らはこんな風な、昔から変わらぬ生活を送ってきたのだろう…。
「あの〈オーク〉、あなたが狩ったのよね?」
「お…?」
賑やかな宴会を輪の外から眺め黄昏ていると、ボスの家を訪ねた際に出てきた女性が話しかけて来た。
その時は悲鳴を上げて逃げてしまったが、どんな心境の変化だろうか?
「今朝はごめんなさい、びっくりしちゃって…。」
想定外に話しかけられ戸惑う俺に、今朝のことを謝ってくる女性。
その際に下げた頭に白地に黒とオラン色の、いわゆる三毛柄と言われる三角耳が見えた。
「え、いや…それは俺も…。」
(ああ、クソッ…!)
今まさに俺が思い浮かべていたことを見透かしたように謝罪され、更に三毛柄の女性が美人であったこと…そしてそれが分かる程に顔が近くなったことで、俺は激しく動揺する。
マリ姉にリタにアデリナ…3人もの美人な婚約者が出来てさえ、俺は未だに幼い頃からのトラウマを克服出来ていないようだ。
「ちょ…スマン、少し離れてくれ。」
「あっ、ごめんなさいね?」
失礼を承知で離れるように言うと、三毛柄の女性は気を悪くした様子も無く離れてくれた。
「ここ少し寒いでしょ?つい癖で…ね?」
それどころかそう言って、舌をペロリと出して可愛らしくおどけて見せた。
…そう言われれば確かに、俺のように脂の天然防寒着が無いと肌寒いかもしれない。
「あー…えっと、…まだ何か用が?」
三毛柄の美人さんの名前を出そうとして名前を知らないことに気付いた俺は、俺に謝罪を終えても戻って行かない理由を、とりあえず訊ねてみることにした。
「あっ、私カティアっていうの。」
「よろしくね♪」と茶目っ気たっぷりに、俺にウィンクを飛ばしてくるカティア。
「ああ…、俺はラスト。」
今朝初対面で悲鳴を上げて逃げたわりには、やけに高い好感度に戸惑う俺。
だがその理由は俺が訊ねるまでも無く、カティアの次の言葉で判明する。
「それで“用”っていうのはアレ。」
そう言って宴会場…というよりは、解体された今日獲れた獲物を指すカティア。
「さっきも聞いたけど…〈オーク〉を倒せるなんて、あなた強いのね?」
…そう言えば、ニーニャと出会った時に懐かれたのも、〈オーク〉から助けたことよりも〈オーク〉を倒したからという理由の方が強かった気がする。
どうやら容姿より腕っ節を好感ポイントとして重視するのは、獣人…特に狩猟種系と言われる種族に共通するらしい。
もしあの時、〈オーク〉に立ち向かわず、ニーニャの手を引いて逃げていたら…。
おそらく…、ニーニャとは憲兵の詰所で別れてそれきりだったに違い無い。
(そしたらマリ姉とも再会…はできただろうが、今のような関係で一緒に居れたかどうか…。)
「…まぁ、鍛えたからな。」
有り得たかも知れない今を想像しながら、俺はボスを始めとする村の狩人達の面目を傷付けないように、当たり障りの無さそうな言葉を返す。
「ふぅん、…やっぱり小さい頃から鍛えるんだ?」
「いやまさか!…鍛え始めたのは去年の春からだ。
それまでは何処にでも居る農民らしく、ずっと畑の世話をしていた。
俺を鍛えてくれた人が元 Aランク冒険者でな…。」
途中まで言って気付いたのだが、武器を振り始めて1年も経っていない奴が、一体どの口で「鍛えた」などとほざくのか。
そう思った俺は「師匠が良かったのだ」と言葉尻に付け足し、オットーさんの修行を思い出して遠い目をする。
しかしそんなことよりも、カティアには別のことが響いたようで…
「あなた農民だったの!?」
「お…、おう。」
せっかく離れて貰った筈が、先ほどよりも更に近く…というか僅かにでも動けば鼻先が触れてしまいそうだ。
そしてカティアの肩越しに唖然とするマリ姉とニーニャ、何やら顔を赤くしたアデリナとリタが見えた。
(…あっ!これ、カティアが俺にキスしているように見えているのか!?)
それは不味い…、不味過ぎる。
「…あっ!」
パッ
そんな俺の焦りが伝わったのか今度は俺が何も言わずとも、自分から離れるカティア。
だが─
「急にごめんなさい、つい興奮しちゃって…。」
(はい、アウトォオォッ!?)
幸い聞こえていなさそうだから良かったものの、さっきの姿勢からそのセリフは「誤解してくれ」と言っているようなものだ。
しかも一度注意された癖がまた出てしまったことを恥じているのか、頬を染めるオマケ付きだ。
「それでなんだけど─」
モジモジ…チラッチラッ
若干増えた好奇の視線。
だがカティアはそれに気付かず、まるで恋する少女が想いを告げようとしているかのような態度を見せる。
(待ってくれ!
いくらなんでも、それは急過ぎないか!?)
「──」
そんな俺の願いは届かず、カティアが口を開く。
「良かったら、私達の畑を見て欲しいの!」
………、ん?
「…は、たけ…?」
「そう、畑。村に来る時にあったでしょ?
だけど去年は芽が出なくなっちゃって…。」
だから冬の食糧が不足して、俺たちが持って来たわけだが。
「な、ナルホドォ~。」
………。
んなこたろうと思ったよ!
はい。というわけで次回(←懲りない予告)
『昔取った柄杓』
お楽しみに!
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