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第4話『偶然』

『あっ…』

再会は唐突だった。

深夜のコンビニのバイトに勤しんでいる俺の前に現れたのは彼女だった。

あまりの偶然に俺と彼女の洩らした小さな声がハモる。

顔が火照っていく。

見る見る間に紅潮する顔に、俺は慌てて彼女から顔を逸らした。

「あ、あなたは…確か…吸血…もごっ」

「店長、休憩入りますーーーっ!」

そんな俺にはお構いなしに、彼女は思い切り俺の正体を口にしようとする。

慌てて、小脇に抱えて走り出した。

「ハァ…ハァ…」

「どうしたの?」

キョトンと首を傾げる彼女に、俺はうなだれた。

何を考えているのだろうか?

それより、彼女は何故、ここにいるのだろうか…?

目の前で疑問符を浮かべる彼女をジッと見つめる。

もしかしたら、彼女は、俺を探していたのではないか?

きっと、そうに違いないっ!

あの日、彼女を助けてからの、彼女の心理はきっと、こうだっ!

彼女を助けて、立ち去る俺。

ポーッと熱い眼差しで見つめる彼女。

ここで台詞を呟く。

「ああっ!何て格好良い人なんでしょう」

俺に惚れてしまった彼女は、俺を探し始める。

黒いタキシードを見ると、つい目で追ってしまったり、似た人間に声を掛けてしまったりして、違うとわかるとため息を吐いて、落ち込んで…。

ああっ!何て可哀相な彼女…。

それでも、健気な彼女は、俺の事を探し続ける。

雪の日も…。

雨の日も…。

俺の頭の中には、ボロボロになりながら、雪や雨の中で彷徨う彼女の姿が浮かんでいたが、実際、助けたのは昨日の事で、こんな状況あるはずないのだが、妄想中の俺は気付かない。

更に妄想はエスカレートしていく。

そんな、ある日、霧深い波止場で、彼女が途方に暮れていると、風の噂で、俺がホストになっている事を知るんだ。

彼女は俺がいるというホストクラブに来るんだけど、俺は二日前に辞めてていない。

またもすれ違いになる二人…。

一体、二人の今後はどうなる?

続く。

「…って、何でだーーーっ!」

ハァ…ハァ…もう少しで妄想で、超大作が出来上がるところだった。

しかも、何故、波止場にホストクラブなんだ?

自分の妄想なのに、自分を見失ってしまった。

「……」

ほら、気付けば彼女の目が冷たいし…。

「コホン。こんな場所で何やってる?」

「買い物」

そりゃそうだ。

コンビニにやって来て、何やってるって聞かれればそう答えるのが普通だろう。

妄想で暴走したのが恥ずかしくなる。

「と、とにかく、人前で正体をバラすのはやめてくれ」

「何で?」

「いや、俺は吸血鬼だから、バレると退治されるかもしれないから…」

はっきり言って、俺みたいな吸血鬼は、弱点が満載だ。

十字架ににんにく…太陽の光は、紫外線カットの日焼け止めで何とか防げるものの、苦手である事に違いない。

しかも、最近は、彼女のスクリューアッパーも個人的に苦手になってるのだから始末が悪い。

「ああ…そうね」

どうやら、納得してくれたようだ。

「あなたにとっては、吸血は生きる為の食事だもんね」

あれ…何か噛み合ってない?

どうやら、納得したのは別の事だったようだ。

いや、納得というより、何か考えている感じだ。

思考の中に身を投じた彼女は、そのまま黙ってしまった。

流れるのは気まずい静寂…。

「お、おい…」

「血…吸いたい?」

気まずさを払拭しようと口を開いた瞬間、彼女の言葉に遮られてしまう。

「え…?」

彼女のあまりに唐突な言葉に、俺は声を失ってしまった。

彼女は何を考え、そんな事を言っているのだろうか?

「あ、ああ…」

訳のわからないまま、俺は頷いた。

もしかして…吸わしてくれるのだろうか?

俺は生唾を飲み込んで、彼女の次の行動を待った。

だけど、彼女の口はなかなか開かれない。

うー。

焦らさず、早く言ってくれ!

我慢は、すでに限界に達していた。

犬歯が疼く。

目の前が歪んでいく。

理性では、もう押さえ切れなくなっていた。

もうダメだっ!

「血を吸わせてくれーーーっ!」

気付けば、俺は彼女の首筋を目掛け飛び上がっていた。

彼女の目がスーッと細くなっていく。

やばいっ!

彼女が戦闘態勢に入っているっ!

スローモーションのように、ゆっくりと身を低くしているのがはっきりわかる。

捩り、突き上げてくる拳が段々と近付いてくる。

顔を引きつらせて、しかし、なす術なく、その拳に顔から向かっていく。

ゴスッ!

衝撃が、顎から頭の先まで突き抜けた。

のけ反るようにして、弾き飛ばされた俺は数メートル先にある車まで飛ばされていた。

ぶつかったのは黒塗りの長い高級車。

「イテテ…」

俺が顎を擦りながら、立ち上がると、背後に不穏な気配を感じて振り向くと、サングラスを掛けたスーツの男性が車から降りてくる。

頬には大きな傷がある…。

何で出来た傷だろう?

「兄ちゃん、俺の車に何してくれるんだ」

明らかにヤクザ。

しかも、かなり幹部っぽい。

「こりゃ酷いな…弁償金百万はもらわんとな…」

黒スーツは、ぶつかった場所を確かめるように、擦りながら威嚇する。

「でも、バイトじゃ百万も…」

「金が無くて、払えないなら、身体で払ってもらおうか……連れていけ!」

いつの間に来たのか、子分のヤクザに両脇を抱えられて、俺は車に乗せられた。

「い、嫌だーーーっ!」

こうして、俺と彼女の運命的な再会は幕を閉じた。

その後、俺がどうなったかというと…。

「おいっ!新入り、早くしろっ!」

マグロ漁船に乗っていたりする。

「ああっ!日差しが熱いっ」

まだまだ受難の日々は終らない…。

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