第8話 高校生
「いやー久々に走り回ったよ」
目の前の人物は苦笑いをしながら言った。
その人物は僕と同じくらいの高校生。
黒髪で、前髪を真ん中で分けている。
Yシャツに黒のズボン。
いかにも高校生ですという制服姿だ。
「君も疲れてるみたいだけど。もしかしてワタシを探して走り回ってたの?」
このふてぶてしい笑み、軽い口調。
「別に探してない」
「そうなの? 照れなくていいんだよ」
また会った。
「今回も会えて嬉しいな」
相手は会うたびに“今回も君に会えて嬉しいな”と言う。
毎回姿を変え、僕の前に現れる。
……何回目かは、覚えていない。
「ワタシを探してないなら、なんでそんなに疲れてるの?」
僕は迷った。
相手に影のことを言うか。
「ワタシに隠し事をしても無駄だよ」
相手は意地悪に言った。
「影がいたんだ……」
「影?」
相手は首をかしげた。
その仕草は無邪気で、どこか子どもっぽい。
「そうか……いたんだね」
相手から笑みが消えた。
ふざけたり、真剣になったり忙しいヤツだ。
「それで、その影はどうしたの?」
「走って逃げた」
「あーだからこんなに疲れてるんだね」
相手はくすっと笑う。
「探すの?」
僕は少し考えてから答えた。
「そうだな」
僕は静かに答えた。
探す意味はない。
知らない影だ。
だが、あの煌びやかに揺れる髪が、脳裏にこびりついて離れない。
「じゃあ、行こうか。きっと彼女も待ってるよ」
相手は僕に手を差し伸べた。
窓から差し込む強い光で、顔の輪郭が認識できない。
だが、目元だけはなぜかはっきりと見えた。
その表情は、少し悲しげだった。




