第6話 カーテン
蝉の鳴く声が聞こえる。
ざらついていて、わずらわしい。
なのに、どこか懐かしい音だった。
「ん……」
額に、冷たい感触があった。
固く、木の匂いがかすかにする。
重く固まった首を、ゆっくりと動かし、頭を上げる。
「あ〜〜〜」
僕は身体中の筋肉を解放するように、伸びをした。
ぼんやりした意識の中で、背中にまとわりつく生ぬるい感触だけがやけにはっきりしている。
すごい汗だ。
暑さは感じない。
草いきれが鼻先をくすぐり、重たい空気が肺に充満している。
身体がだるい。
だが、意識は身体と違い、はっきりしてくる。
学校の教室。
見覚えのある机と椅子に、僕は座っていた。
だが、僕の知る教室とは、どこか違っている。
天井は高く、ざっと8mはありそうだ。
窓も縦に長い。
僕以外の机には、花のない花瓶が置かれていた。
「……落ち着かないな」
僕は軽くため息をついた。
重く湿った空気が肌の表面にまとわりつく。
風を浴びようと、僕は窓を開けた。
空は、緑と紫のオーロラに覆われている。
影は濃く、異様に長い。
まるで、昼のような光が差している。
僕は蝉の声の中に複数人の男女の声が混ざっているのに気がついた。
まるで、サッカーやテニスなどの部活動をしている掛け声のようだった。
「……誰もいない」
グランドには誰もいなかった。
人がいるはずなのに、動いているのは影だけだった。
影が走り、喜び、談笑している。
この学校で人は僕一人。
好奇心と孤独が、僕の胸の奥で同居をしている。
僕はグランドの影を眺めながら、ぬるい風に吹かれていた。
風がカーテンを揺らす。
僕しかいない教室で、動いているのはそれだけだ。
ゆらゆらと揺れるカーテンに目を向けると、僕より少し小柄な輪郭が、淡く浮かび上がってきた。
輪郭は徐々にはっきりし、人の形をした影になっていった。
影は長く伸び、濃くなっていく。
腰まである髪だけが、わずかに揺れている。
そこに誰かが立っているようだった。




