第5話 疑惑
森は、僕の忘れている記憶を探り、無理矢理引き出そうとしている。
そんな気がした。
それとも、どこかで植え付けられたものなのか——
ノイズの言葉を聞いてから、ずっと心がざわついている。
何かを思い出さないといけない。
でもそれがわからない。
記憶が混在し、何が本当で、何が嘘かわからない。
——怖い。
肩がこわばり、呼吸が速くなる。
その時、左後頭部に、鈍い痛みが走った。
「大丈夫かい?」
相手が心配そうに僕の顔を覗き込む。
「……なかなかしぶといね」
相手は小声で独り言を言っている。
丸聞こえだ。
なかなかしぶといね、何を考えているんだ?
僕は足元が定まらず、白い木に身体を預けようとした。
「ダメだ!」
その声に、思わず身体が強張った。
いつもの軽い口調から想像がつかない緊迫な口調。
その表情は、隠しきれない不安が滲んでいた。
「そ、それにしても立派な蒸気機関車だね。ワタシも一度は乗ってみたいな。行ってみない?きっと中身も豪華だよ」
相手は何かを誤魔化すように、僕の手を取ろうとした。
「やめろ」
僕はとっさに相手の手を乱暴に振り払った。
相手の不可解な言動に不快感を感じたからだ。
僕は相手が触れさせないようにした白い木に触れようとした。
が、相手は僕の腕を掴み、再び阻止した。
静寂が生まれ、風を受けた葉音だけが、二人のあいだを満たした。
相手の手が震えている。
「……ごめん」
相手は、憂いを帯びた表情で視線を落とす。
「わかってる。焦っちゃダメなんだ」
相手は自分に言い聞かせるようにポツリと言う。
少し間を置いて、相手は続ける。
「これだけは言わせて、ワタシは君の——」
その時、視界が一気に遠のいた。
相手の言葉を最後まで聞き取ることができない。
「君は、きっと——」
その続きが聞きたかった。
けれど同時に——それを聞いてはいけない気がした。




