第4話 ノイズ
「……どこ……く?」
「今日……バス……み」
「本当……楽し……!」
ノイズの奥で、声が途切れながら混じっている。
女性の声のようにも聞こえた。
平たい声が、断片だけを残して流れてくる。
「……今日……いる。……何……んで……かな?」
途切れた言葉は、意味になりきれずに落ちていく。
「……なんだんだ、これ?」
僕は囁くように、言葉に問いかけた。
「気に……じゃ!」
呼びかけても反応はない。
一方通行に流れてくる言葉に圧倒され、汗が頬をつたる。
だが、何故だろうこの言葉に恐怖を感じない。
「ねえ、ねえってば、まったく、しゃべってもくれないし、反応もしてくれないし……悲しいな」
湿った嫌味に、僕の意識は引き戻される。
「ん? どうしたの? すごい汗じゃない」
相手は大袈裟に驚き、僕の顔をのぞいた。
……僕にしか、聞こえていない。
僕は木に背を預け、目を閉じた。
知らない声、知らない言葉のはずなのに、この言葉が僕のこころから離れない。
ノイズが急に途切れた。
それと同時に、鼓動が遅れて落ち着いていく。
「あらら、次は壮大だね。かっこいい!」
僕は、楽しげにはしゃぐ声に導かれるように、目を開ける。
白い草原。
その中央にはノスタルジック漂う蒸気機関車。
「どうやら、白い木に触れると森が変異するらしい。森が大草原になるなんて、すごい」
今にも引き込まれそうなこの光景は、
僕が好んで読んでいたSF小説の挿絵と酷似していた。
時空を渡り、難事件を解いていく、SF小説。
ユーモア溢れ、少し嫌味ったらしい主人公。
そんな主人公を呆れながらも、全力で協力する相棒。
摩訶不思議な世界で事件に巻き込まれ、それを解決していく——そんな二人が好きだった。
見覚えのある光景に、肩の力が抜け、頬が緩んだ。
「……覚えがあるみたいだね」
相手は確信を持って言った。
その表情は何かを企んでいるような怪しい笑みをしている。
僕は相手と目が合うたび、ほんの少しだけ距離を取りたくなる。
相手の笑みや言動に引っ掛かりがあるからだ。
悪いやつではない、ただ、たまに見せる不敵な笑みが、僕を不安に感じさせる。
その時、汽車の汽笛が鳴った。
——木ばかり見てると、森に足を取られるぞ。相棒。
その力強い音は、僕に忠告しているかのように勇ましく鳴り響いた。




