第3話 記憶
冷たい——
表面は冷たいのに、妙な違和感だけが残った。
探られている——そう感じた。
その瞬間、ふわっと意識が遠のいた。
「んー、画になる庭だね。月光がいい雰囲気を出してるよ」
茶目っ気のある声に引き戻され、僕はゆっくりと目を開けた。
……庭?
目の前には、真っ白な庭が広がっていた。
白い木々のあいだに、ぽっかりと空間が空いて、視線の先に、白いベンチがひとつだけ置かれている。
その脇には、同じく白一色の花が咲く花壇が設置されている。
桃色の月光が、桜を思わせるかたちで庭を照らしていた。
——知っている。
この風景を、僕は知っている。
胸の奥がドクンと跳ねた。
「ふー。さすがに砂浜は歩き疲れたよ。助かる」
相手は軽く跳ねるようにして、ベンチに腰を下ろした。
そうだ。
僕も、こんなふうにここへ座ったことがある。
記憶の霧が、ゆっくりと晴れていく気がした。
けれど、記憶の中のベンチは白くはなかった。
木目の残る茶色で、花壇にはチューリップが咲いていた。
木々は太陽光を受けて緑に輝き、地面には土と雑草が、まだらに広がっていた。
ここは、僕が通っている高校の中庭だ。
「どうしたの? そんなに驚いた顔、珍しいね」
「い、いや。なんでもない」
「なんでもない顔じゃないでしょ? ほら、話してごらん」
なんでもないわけではない。
理由はある。
ただ、話したくないだけだ。
「ほんと、君は喋らないね。このままだと、友達がワタシだけになっちゃうよ」
——ワタシだけ?
僕は、不本意にも、その言葉が引っ掛かった。
相手はニヤリと、不気味とも取れる笑みを僕に向けた。
僕たちは、友達なのだろうか。
その疑問が浮かぶより先に、意識は再び、目の前の光景へと引き戻された。
僕には友達がいなかった気がする。
それで困ったことは、なかったはずだ。
だからこそ、この中庭に、よく足がむいていた。
葉の擦れる音。
頬に冷たさを残す風。
地面に揺れる木漏れ日。
僕は、この場所が好きだった。
「……何、ニヤニヤしてるの?」
記憶に沈みかけた意識を、横から乱暴に引き戻す声。
——うるさい。
そう思ったが、口には出さず、心の中に押し込め、意識を再び戻した。
記憶の中で僕は、ベンチに腰を下ろし、温かい春風に身体をあずけ、高揚感に浸っていた。
「あ〜……つか……た」
静寂に、突如として“ノイズ”が混じった。




