第34話 墓参り
あれから数ヶ月、僕は退院した。
後遺症はほとんどなく、医者も驚いていた。
今は少しずつだが、学校にも行っている。
一年間休学をしていたため、かつての同級生は一年先輩になっていた。
初めは復学したくなかったが、新しい同級生たちは僕を優しく受け入れてくれた。
学校側からも謝罪があり、これからの学校生活をサポートしてくれることになった。
校長や、教頭は事件の責任を取るため、学校を辞めたようだ。
先生たちも少し変わっている。
本当に事故があったんだと改めて感じた。
「お兄ちゃん、早く歩いて!」
「分かってるって」
僕と小春は川井湊美の墓に向かっている。
「にしても暑いなー。もう時期秋になるっていうのに」
ツクツクボウシが鳴いている。
風は吹いているが、蒸し暑い。
頭皮から汗が止まらず、太陽に照らされた肌が少しヒリヒリする。
「ほら、早くしろー」
小春が僕の背中を目一杯に押す。
「分かったって」
「分かってなーい」
「暑いんだよ、ゆっくり行こう」
「暑くなーい」
暑いだろ、反応は小学生のままか。
小春は頬を膨らまし、僕を睨んだ。
「早くしないと暗くなるでしょ!」
そうか、暗い墓は怖いからな。
だから忙しているのか。
「分かったよ」
暑いが仕方ない。
僕は小春と足並みをそろえた。
川井湊美の墓は、町外れにある丘の上の霊園にある。
大小様々な墓が綺麗に整列している。
緑も多く、よく整備されている。
「たしかここら辺にあるって……あった」
小春が目的の墓に向かって走って行った。
“川井家之墓”と書かれている。
「ここが、川井湊美の墓か」
「うん、お母さんが川井さんのお母さんに聞いてくれたの」
「そうか……」
川井湊美、僕と一緒に事故に巻き込まれて、死んだ生徒。
「川井さんのお母さん、娘さんが亡くなったのに、お母さんとお父さんに土下座して謝ってたの」
「……」
「川井さんも被害者なのに」
「……」
「お兄ちゃんは、たまたまいただけなのに」
「僕も被害者なんだけど」
「えへへ、そうでした」
冗談がきつい。
中学生になっても、生意気さは変わらない。
少し大人になったと思っていたが、まだまだ子供だ。
小春は持ってきた墓花を二つに分け、花立に添えた。
「川井さんのお母さんに許可取ってるから」
「分かってるよ」
僕と小春は手を合わせた。
川井湊美、僕は君を知らない。
君がどんな人で、どんな友達がいて、どんな夢があって、これからどうやって生きていこうとしたか、僕にはわからない。
でも、きっと生きたかっただろう。
僕よりも。
たまに思うんだ。
どうして僕が生きているんだ。
どうして君が死んだんだ。
僕は特に夢もない。
友達もそんなにいない。
楽しいと思ったこともそんなにない。
でも君は違うと僕は思う。
多分だけど、僕よりかはずっと——
川井湊美さん、初めまして。
そしてごめんなさい。
僕が生きていて。
僕は川井湊美に心の中で語りかけた。
返事はない。
当たり前だ。
川井湊美は死んでいる。
僕には霊感なんて全くない。
「お兄ちゃん、お兄ちゃーん」
僕は目を開けた。
「長いねー、川井さんとお話でもしてたの?」
「できるわけないだろ」
「だよね」
小春は少し残念そうな表情をした。
「そろそろ帰るか」
「だね」
僕と小春は墓に一礼をし、霊園を後にした。




