第32話 リハビリ
「ほら、お兄ちゃん頑張って! 一二、一二、一二」
「一二、一二、あんまり急がすなよ」
「はーい、つべこべ言わなーい!」
僕が目を覚ましてから一ヶ月が経った。
あれから医者や両親が駆けつけ、検査ななんやらで忙しい日々を送った。
僕は1年間寝ていたらしい。
そんなに時間が経っていたとは思わなかった。
「一二、一二、一二」
「一二、一二、一二、疲れた。休憩しよう」
「もー、しょうがないな」
今はリハビリをしている。
小春のスパルタリハビリのおかげで、だいぶ動けるようになった。
「十分後、再開だからね!」
「わかったよ」
小春はセーラー服をなびかせながら、リハビリ室を出て行った。
僕が目覚めた後、両親は泣いていた。
一年経って目覚めなかったら諦めよう——そう思っていたようだ。
両親は、僕が巻き込まれた事件について教えてくれた。
同級生の女子生徒が屋上から転落し、巻き込まれたようだ。
女子高生は、即死。
僕は意識不明の重体だった。
事故の原因は、屋上のフェンスが劣化し、女子生徒が寄りかかった際に壊れたようだ。
「はーい、飲み物持ってきたよ」
小春が戻ってきた。
「ありがとう」
僕はペットボトルを受け取り、小春を見る。
「……何?」
「いや……大きくなったなと思って」
「またそれ?」
小春は1年経ち、中学生になっていた。
生意気な小学生と思っていたが、少し落ち着いた性格になっていた。
「……何? ニヤニヤしちゃって」
「別に」
なんか小春を見ているとアイツを思い出す。
あんまり記憶になんだけど。
小春は一冊の小説を読み始めた。
「もう何回も読んだんだろ」
「別にいいじゃん」
その本は僕が好きなSF小説。
探偵と相棒の冒険物語。
「世界は広い。これからもっと楽しいことが待ってるぞ、相棒!」
小春は得意げな表情で、主人公のセリフを言った。
「うまいんじゃないか? 演劇部」
「まあね」
小春はニヤリと口角を上げた。
「……その本、やるよ」
「え?」
「好きなんだろ。何回も読んじゃうくらい」
「そ、そうだけど、それは……」
小春は少し困った表情をして言った。
「お兄ちゃんが……寂しくならないようにって……」
「え?」
僕は小春の顔を見た。
頬を微かに赤らめながら、僕を睨んでいた。




