第21話 月
どのくらい経っただろうか。
といっても数分だけだが、長く沈黙が続いた。
とても気まずい空気が流れている。
相手の横顔を見てみと、何を考えているかわからない顔をしている。
口元は少し口角が上がっているが、目元は悲しげな表情をしている。
かと思えば、目を瞑り、小さくため息をつく。
ど……どうしよう。
言葉が出てこない。
あなたは何を考えてるの?
僕はベンチに深く座り、真上を見た。
今まで見た中でも、特別大きな月が、そこにいた。
視界いっぱいに広がり、今にもこちらへ落下してきそうだ。
……なんか、近くない?
大きな月が、僕たちを、優しい光で包み込んでいる。
なんだか、僕たちを心配してくれているようだ。
月をぼんやり見ていると、端に小さく触れる何かが視界に入った。
ん?
影だ。
しかも、人の形をしているように見える。
「屋根の上に誰かいるよ?」
「え?」
相手も真上を見た。
「本当だ。危ないね」
屋根に柵はない。
風も強い。
少しでも足を滑らせると、そのまま真っ逆さまだ。
「どうしよう、誰か呼んでこようか?」
「うん……」
その時、ふわりと甘い香りが漂った。
金木犀の香りではない。
この匂い——まただ……
どん!
重く鈍い音が、静かな中庭に響いた。
それと同時に——
ああああああああああ!!!!
頭が、頭がいたい!
何か大きなものが、後頭部にぶつかったのを感じた。
「ど、どうしたの?」
相手の叫び声が聞こえた。
瞳孔が開き、声が震えている。
「頭が! あーあ……あ、あー!!」
頭が割れるように痛い。
いや、絶対割れている。
痛みは、一瞬で後頭部から全体に広がり、徐々に熱くなってきている。
「ど、どうしよう……急に……」
涙目になり、怯えている。
相手には何も見えていないようだ。
僕は……僕はどうなるんだ……
急に恐怖が揉み上げてきた。
「やだ……やだ……」
死にたくない。
僕は相手を見た。
「大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫……」
混乱している。
相手は僕の手を強く握った。
手が大きく震えている。
怖い——
その時、背中に生温かい温度を感じた。
柔らかい感触。
その奥に、硬いものがあった。
細くて黒く、少し硬い糸みたいなものが、風になびいている。
その糸からは、あの匂いを強く感じた。
髪の毛……
意識が遠のく中、その糸の正体に気づいた。
そして、この匂いは——
シャ——
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………




