第19話 笑顔
「ふふふ……」
「また、笑ったね」
相手は少し呆れた表情でいった。
「いや、なんか面白くて……ごめん……はははは」
口調や仕草はあの子だが、見た目は王子様のままだ。
さっきまで、高貴でかっこいいだったのに、今は可愛い。
僕は、お腹を抱えて笑っていた。
「君がそんなに笑ったの、初めて見た」
「え?」
そ、そうかな?
確かに、さっきまで緊張してたから、なかなか笑えなかったけど。
今までそんなに笑ってなかったかな?
結構笑う性格だと思ってた。
「……あ、なんでもない。気にしないで」
僕が納得してない顔をしていたからか、相手は言葉を濁した。
「ねえ、もう一回踊らない?」
本当は少し恥ずかしい。
でも、今なら楽しんで踊れる気がした。
「もう、足踏まないでね!」
「踏まないよ!」
僕は相手に手をとり、腰に手を添えた。
会場に響く優しい旋律に誘われ、足が左右に動く。
「さっきより上手だね!」
相手は片方の口角を上げ、皮肉っぽく言った。
僕だってダンスくらいできる。
さっきは緊張してただけだし。
「そうでしょ」
今度は足を踏まなかった。
ぎこちないながらも、音楽に合わせて身体を揺らす。
相手は嬉しそうに笑っていた。
その時だった。
ふわ——
甘い花の香りが風に乗って、鼻先をかすめた。
「あ!」
あの匂いだ。
僕をここに導いたあの匂い。
「きたね……」
相手は不安そうに呟いた。
匂いは、僕の周りを回っている。
また、誘ってる?
僕は匂いの導きについて行くことにした。
「行くの?」
「うん、なんだか気になるんだよね」
「わかった。ワタシも行く」
僕たちはダンスを終了させ、匂いの行く方向に向かった。
華やかな一面鏡の部屋を離れ、薄暗い廊下を歩く。
長く、先の見えない廊下。
「少し怖い」
相手は僕の腕を掴み、縮こまっている。
匂いは奥に奥に伸びていく。
長い……
いつまで進めばいいのか、このまま進んでいいのかわからなくなってきた。
「ん?」
暗闇の中に、うっすらと扉が見えた。
「あの扉の向こうに行けってことかな?」
僕と相手は顔を見合わせた。
い、行くしかない。
僕は扉のノブを掴んだ。
「そ、そっとね」
僕を掴む力が少し強くなった。
ギギ……ギギギギギ
ゆっくりと扉を開いた。
「うわ……」
扉の向こうには、大きな金木犀の木が立っていた。
その下には、木製のベンチがひっそりと置かれている。
初めて見る景色のはずなのに、胸の奥が、かすかにざわついた。




