第15話 憧れ
——こんなに広い世界だ!必ず“自分の場所”はある。探せばな、相棒。
初めてだった。
こんなに華やかなものを見たのは。
「うわぁーあああああ」
胸の奥から声が漏れているのがわかった。
バロック様式の、左右対称なデザイン。
西洋の装飾が煌びやかに輝き、改札から宮殿の入り口に進む間には噴水がそびえたっていた。
心臓の鼓動が速くなっている。
こんな光景、映画やテレビの中でしか見たことがない。
憧れを目の前に、僕は興奮していた。
「あら、ごきげんよう」
その時、豪華なドレスを身に纏い、仮面をつけた女性から声をかけられた。
「ごごごごご、ごきげんよう!」
僕は咄嗟に返事をした。
女性はきょとんとした表情をした後に、ふふっと上品に笑った。
「元気なお嬢さまね」
「えっは、はい!」
僕は元気よく返事をした。
——お嬢さま?
そんなふうに呼ばれたことなんて……ない。
なんだか、少しむず痒い。
よくわからないが、きっと舞踏会では普通なのだろう。
宮殿には、豪華な装いをした男女がたくさんいた。
まるで、貴族のパーティのようだった。
僕、ここにいていいのかな?
僕は自信をなくしていた。
場違いだ。
ホームに戻りた——
「素敵なレディにそのような顔は似合いませんよ」
声の方を向くと、そこには一人の男性が立っていた。
風にゆれ輝く、金色の長い髪。
真珠のように、艶やかな白い肌。
そして、視線を奪われるような、優しく微笑みかける瞳。
こんな人、本当にいるんだ——
まるで物語の中から、そのまま抜け出してきた王子様のようだった。
「あ、あの僕は——」
うまく言葉が出ない。
すると、男性がすっと手を差し伸べた。
「今日は仮面舞踏会。ワタクシと一緒に踊っていただけませんか?」
「あ、あの……え?」
困惑した僕を見て、男性は一瞬眉を顰めたが、クスッと笑った。
「ワタクシでは、力不足でしょうか?」
男性は一歩も引かなかった。
その時、また匂いがした。
匂いは宮殿の入り口に伸びていっている。
行けってこと……?
甘い香りが、張りつめていた心をほどいていく。
男性はまっすぐ僕を見ている。
宮殿の光を受けた瞳は、満天の星空のように細かな光を宿していた。
初めて会ったはずなのに、なぜか、この人の隣は落ち着く。
僕は差し出された手を取った。
「……じゃあ、お願いします」
風が二人の間を優しく通り抜ける。
歓迎ではない。
だが、頬にかすかな暖かさを感じた。




