第14話 改札
光はだんだん輝きを増し、広く大きく輝いていく。
目的地はあの光の中だ。
こんなに煌びやかな場所は初めてだ。
僕は、期待に胸を膨らませずにはいられなかった。
汽車はますます光に近づいていく。
ぼやけた輪郭が少しずつ形を表す。
金色に輝く門、整然と配置されている窓、無数の装飾。
それらが、夜の草原を2つに分けるかのように、横に広がっている。
「宮殿……?」
僕は息を呑んだ。
そこには巨大な宮殿が、凛とした面持ちで佇んでいた。
「あ、あそこに向かってる……」
僕みたいなのが行ってもいい場所なのか——
少し、身構えてしまった。
しばらくして、車輪の音が和らいでいった。
汽車が、ゆっくりと速度を落としていく。
宮殿の前には、ひっそりとホームが伸びていた。
誰もいない。
ポッポー!
汽車の汽笛が鳴った。
到着の合図だ。
「お……降りちゃいますよー」
返事はない。
こういう時に心細くなってしまう。
誰かが先に降りてくれたら、それについていけるのに。
その時、ふわりと甘い香りが横切った。
さっきと同じ匂い。
僕はその匂いに引き寄せられるように、汽車から降りた。
僕の微かな息遣いのみがホーム内に響き渡っている。
目の前には煌びやかな宮殿。
ホームは微かな光の影響を受けるだけで、暗く、冷えた空間が広がっている。
ポッポー!
車輪の音が緩やかに大きくなっていく。
出発だ。
汽車は加速し、ホームから離れていく。
僕は汽車に向かって小さく手を振った。
「ありがとう……」
その時、また匂いがした。
匂いは、右頬を掠めたと思ったら、左の首元に移動した。
なんなんだろう。
まるで生きているかのように僕の周りをうろちょろしている。
「……案内でもしてくれるの?」
すると、匂いはスーッと遠のき、微かな匂いを僕に残した。
匂いって意志があるんだ……
不気味だった。
それでも、僕はそっと一歩を踏み出した。
匂いは僕を誘うように、わずかに遠ざかっていく。
僕は匂いを頼りに歩いた。
ホームには僕のかすれた足音だけが、鈍く響いていた。
すると、改札口が見えてきた。
錆びついた装飾が月日を感じさせる、古びた改札口。
こんな場所に似つかわしくないはずなのに、不思議とそこが“正しい入口”のように思えた。
匂いは、改札のその向こうへと抜けていく。
「ここを通れってこと……?」
足が進まなかった。
けれど次の瞬間、甘い香りがふわりと背中を押した。
僕はそっと、改札をくぐった。
そこには、汽車から見た光景が視界いっぱいに広がっていた。
肌を掠めるような冷たさが、一瞬だけ全身を走った。




