第16話 夢
匂いは、細く長く、宮殿の入り口一直線に伸びている。
この先に何があるのか、僕にはわからない。
豪華な宮殿に、煌びやかな人たち。
しかも隣には王子様だ。
僕の知ってる日常ではもちろんない。
き、緊張するなー。
僕はこの貴重な状況を楽しめないでいた。
すると、男性は僕の手をそっと引いた。
「さあ、行きましょう。皆さまがお待ちです」
「み、皆さま……?」
返答を待たず、僕の足は前へと導かれた。
宮殿の正面にそびえる巨大な扉。
近づくにつれ、その圧倒的な存在感に息を呑んだ。
「大丈夫ですよ。ワタクシがそばにいます」
男性は優しく微笑みながら僕に言った。
金の装飾が煌びやかに輝く白い扉。
僕たちがその前に立つと、ゆっくりと扉が開いた。
「うわぁ……!」
眩い光とともに、音楽が流れ出す。
軽やかな弦の音が響き、人々の楽しげな笑い声が重なっていた。
別世界が、僕の視界に広がっていた。
豪華絢爛な空間に圧倒されて、僕は体が動かなくなっていた。
「感動の瞬間に水を差してしまい、申し訳ございません。こちらを」
その場に立ち尽くす僕に、男性がそっと仮面を差し出した。
白地に赤い羽があしらわれた、華やかな仮面だった。
「仮面舞踏会ですから」
男性はそう言って微笑むと、自らも仮面をつけた。
僕は小さく息を呑み、仮面を顔に当てる。
ひやりとした感触が、ぴたりと肌に張りついた。
「では」
促されるまま、一歩を踏み出す。
その先には、いくつものシャンデリアが吊り下がり、無数の灯りが金色に輝いている。
「……すごい」
思わず息を呑んだ。
全ての壁には、人の背丈をはるかに超える巨大な鏡が、途切れることなく並んでいる。その鏡は空間を映し、空間を増殖させている。
まるで、終わりがないかのように。
鏡の向こうにも、仮面をつけた人々がいた。
笑い、踊り、語り合う無数の人影。
それが鏡に映ったものだと理解するまでに、少し時間がかかった。
会場の中央には広い円形の空間があり、色とりどりのドレスが床を滑るように舞っている。
音楽に合わせて、優雅に、くるくると。
まるで夢そのものだった。
そう、これは夢なのだ。
僕はそう思うことにした。




