第11話 貸出カード
自分でも、違和感があった。
“別に”と言った時、心の奥で何かが弾け、消えた。
一瞬、虚無感が走った。
でも、気にすることではない。
僕は、本を読まない。
だから、違和感を感じることの方が、おかしい。
僕は何気なくページをめくった。
挿絵には大きさの異なる惑星に、家や車、飛行機などが宇宙を漂うように描かれている。
「あ! 変わったよ!」
相手の言葉に導かれるように、僕は天井を見た。
先ほどの挿絵の状況が天井に現れている。
——不思議だ。
僕は、天井の世界に心を奪われていた。
子供の頃に感じた、夏の日差しのような、キラキラと透き通った気持ち。
忘れていた感覚が、呼び起こされている。
「やっぱ、好きなんじゃない」
相手は、安心したようにボソッと言った。
「本じゃないからな。アニメとかは好きだし」
少し言い訳っぽいが、本心だ。
僕はペラペラと本をめくった。
めくるたびに、天井の物語が進む。
紙に触れる指先が、軽やかにリズムを刻んでいる。
楽しい。
ん?
僕は本をめくるのを止めた。
貸出カード……?
本には古びた貸出カードが挟んであった。
「どうしたの?」
「……」
名前が書かれていた。
かすれているはずなのに、なぜか一部だけはっきり見える。
“川……湊……”
他は読めない。
その名前を、じっと見つめる。
どこかで見たことがある。
胸の奥が、わずかにざわついた。
懐かしいような、でも思い出せない。
「知ってる——人?」
相手が横から顔を覗き込んできた。
興味津々、といった様子だ。
「……さぁ」
僕はそう言って、本を閉じた。
ガタガタガタ
強い風が吹き、窓が激しく唸っている。
ガタガタガタガタガタガタ
凄くうるさい。
僕はカーテンを開け、外の様子を見た。
その時、黒い影が窓越しに勢いよく落ちてた。
「あ……はっはっはっ」
僕は——
僕を見た。




