第10話 本
「図書室……」
僕は息を呑んだ。
勝手に開くドアなんて、まるでホラーの世界だ。
「行ってみる?」
相手は目を輝かせて言った。
好奇心の塊だ。
僕が拒否しても行くことになるだろう。
僕は無言で図書室に向かった。
「たくさん本があるね!」
先に図書室に入ったのは相手だった。
図書室だから本が多いのは当たり前だろう——
と言おうと思ったが、やめた。
図書室はただ本が置いてある空間ではなかった。とにかく本棚が高い。
本棚の上が見えないほどだ。
天井は見えない。
その代わり夜空が見える。
桃色に発光する白い月の周りを、桜が囲うように散っている。
「綺麗だね」
相手は夜空に釘付けになっている。
本来ならありえない光景のはずなのに、違和感はなかった。
僕は、本棚を見た。
無数の本。
一冊一冊が丁寧に陳列されている。
背表紙には文字はなく、何の本なのかわからない。
僕は図書室の中を警戒しながら歩いた。
本棚と本棚の間の通路は狭く、圧迫感がある。
少しでも気を抜けば、この世界から戻れなくなりそうだ。
足元に注意を向けながら、ゆっくりと歩く。
——ぱさ
何かを踏みかけて、僕は足を止めた。
視線を落とすと、そこに本が一冊、落ちていた。
僕は床に落ちている本を拾った。
本は開いていた。
挿絵には桜が舞う夜空のイラストが描かれている。
僕はその本を閉じた。
「あ!」
相手が急に大きな声を上げた。
「消えちゃったよー。月と桜」
天井を見上げると一面、真っ黒になっていた。
奥行きのない、闇。
飲み込まれれば、戻れない気がした。
「他の本も見てみよう!」
相手は本棚の本を漁り始めた。
「これとかどうかな? 君好きそうじゃない?」
僕はその本に目を向けた。
表紙には二人の男性のイラストが描かれていた。
一人は探偵のような服装を着てる。
「推理小説かな? タイトルがないからわからないね」
僕は本を開いた。
すると天井が急に夜空に変化した。
いや、夜空ではない、宇宙だ。
「うぁ! すごい!」
圧巻だ。
——追い求めろ!答えを知りたければ、追うしかない。相棒と共に。
本から力強い声が聞こえたような気がした。
自信に満ち溢れる男性の声。
僕はこの言葉を、どこかでみたことがある。
「推理系のSF小説だね。君が好きそうな本だ」
好きそう——
「……いや、別に」
言葉がとっさに出た。
別に言う必要はない。
でもなぜだろう。
言わないといけないような気がした。
「そうか……」
相手はにこやかにいった。
口ははにかんでいる。
だが、目が哀しげに、何かを諦めたように曇りかかっていた。




