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009:今日は教師節

 午後一時のマクドナルドは、依然として多くの人で賑わっていた。季雨には「この世界をどう思っているか」といった、さほど重要ではないが興味深い疑問が山ほどあったものの、誰かに聞かれるかもしれない場所でそんな話をするわけにもいかず、遠回しに尋ねるしかなかった。


「今、生活はどんな感じだ?」

「悪くないわ。スーツケースに入っていた銀行カードが使えたし、安い校内宿舎も申し込めた。普段はバイトもしているから、生活にストレスはないわね」

「君の適応力には感心するよ。こんなに早く……上海に馴染むなんて」

「……お互い様でしょう」


 マクドナルドの店内はカフェよりも騒々しいはずなのに、二人の間のギクシャクした会話のせいで気まずい雰囲気が漂い、狂騒の中にぽっかりと無音地帯を作り出していた。


 季雨はマクドナルドに来たことを少し後悔し始めた。


「うわぁ、これって季雨じゃん!」


 聞き覚えのある電波系ボイス。季雨はマクドナルドに来たことをいよいよ激しく後悔した。


 声のした方へ視線を向けると、オレンジ色の髪の馴れ馴れしい美少女がトレイを持って歩み寄ってくるところだった。後ろには栗髪の清純系美少女が、微笑みながら軽く手を振ってついてきている。


「昨日のお昼もマクドナルドじゃなかった? 今日も来たのかよ?」

「昨日のお昼もマクドナルドじゃなかった? 今日も来たんだ?」


 璃見真理は季雨のツッコミを笑顔でオウム返しにすると、トレイを隣の席に置き、彼の耳元に顔を寄せて囁いた。


「まさか私が昨日マクドナルドを食べたから、今日は来ないだろうと思って、わざと私を避けるためにここに来たの? 私に何か隠してることでもあるの? 例えば——」


 耳打ちとはいえ、季雨の向かいに座るリズに聞こえないほどの小声ではなかった。目の前の見知らぬオレンジ色の髪の女がいきなりそんな言葉を口にしたのを聞いて、リズは即座に警戒を強めた。


「例えば、彼女がいることを隠したいとか……へぇ〜、すごく綺麗な人じゃない〜」


 少女の言葉とともに吹きかかる微風に季雨の耳が少しくすぐったかったが、表面上の平静を保つため、彼は身を引かなかった。


「ふむ、考えさせて。どうして私に彼女がいることを隠すのかな? あ〜、なるほど二股をかけたいんだ〜」


 璃見真理と颯音が席に着いたことで、三人の美少女が季雨を取り囲む形となり、彼はかなりの圧迫感を覚えていた。


「違うって。その……彼女はクラスメイトで、外国人だから中国の大学に詳しくなくて、いろいろ教えていただけだ」

「へぇ〜、クラスにはたくさん生徒がいるのに、わざわざ君を選んだんだ。季君ってば、結構モテるんだね。それに、二股をかけたいってことは否定しないんだ」

「おー! 季君は3Pしたいの?」


 璃見真理が隙を突いて放った嫌味の後、一瞬の躊躇もなく戦場に躍り出たのは颯音だった! 颯音は下ネタという必殺技で、季雨を打ち破る決定的なアシストを繰り出した!


「フフフ……君が体を綺麗に洗って僕のベッドに横たわってくれるなら、大歓迎だけどね」


 顔を曇らせた季雨は、より直接的な皮肉を放って反撃した。


 おおーっ! 季雨選手、大博打に出た! この技に対し、相手が『セクハラ』というカウンターを打ってくれば、季雨選手の即敗北は免れない! 彼はこの電波系の敵がセクハラ程度では動じないことに賭けている! 負けるのか? 最強の季雨!


「あらあら、残念だけど、君はまだ私の個別ルートに入る条件を満たしてないから、そういうCGは解放されないよ」


 現実をギャルゲ感覚でプレイしてんのか!?


 戦場の外で高みの見物を決め込んでいたリズは、目の前で季雨を弄んでいるオレンジ色の髪の女の関心事が、自分の正体ではないことに気づいた。自分が安全だと判断した彼女は、口を開いて弁明した。


「そちらの方、誤解よ。季君は私のボーイフレンドじゃないわ」

「おや? じゃあ、彼は君を攻略したの?」


 攻略? 攻撃って意味かしら? 確かに彼とは口喧嘩をしたけれど。


『攻略』という言葉の意味を理解していないリズは、そこまで考えて口を開いた。「ええ」


「じゃあ彼は私のことも攻略したし、同時に二人の美少女を攻略して個別ルートを二本同時に開こうとして、エッチなCGを解放しようとしてるってことじゃない。これって二股どころじゃないよね?」

「僕がいつ君たち二人を攻略したんだよ!」


 耐えきれなくなった季雨が最後の悲鳴を上げた。


 事情を知らない周囲の人々のうち、颯音だけが『恋愛マスター』に対する崇敬の眼差しを季雨に向けていたが、他の客たちはみな『クズ男』を見るような蔑みの視線を投げていた。


 勝利したオレンジの悪魔はご機嫌でポテトを頬張り、すでにHPがゼロになった季雨を戦場から蹴り飛ばした。


「ん〜、私の名前は璃見真理。そっちの外国人さんは何てお名前?」

「リズよ。イギリスのロンドンから来たわ」

「私は颯音です!」


 三人の外国人さんたちが和気あいあいと会話を始め、まるで先ほどの言葉の刃の応酬など存在しなかったかのようだった。


 女ってやつは、本当に生まれつきの政治的動物だな。


「璃見さんは季君の知り合いなの?」

「親密度で言えば、季雨はよく夜に私の家に飲みに来るし、間違いなく『親しい間柄』だよね」


 飲む!?


 男が頻繁に深夜、女の家に行って酒を飲むなんて……


 まさか二人がそんな関係だったなんて。道理でこのオレンジ色の髪の女は、自分を見るなり季雨をあんなに弄んだわけだ。嫉妬していたのね。


 そこまで思い至ったリズは、思わず同じように蔑みの視線を季雨に向けた。


 ちっ、だらしない男。


 ようやく平静を取り戻したばかりの季雨は、リズの蔑むような視線を見て、再び崩れそうになった。


 リズの軽蔑した表情は、すごくイイけれど。


「おいおいおい、尾ひれ背ひれをつけるな。彼女の家はバーをやっていて、僕はただの常連客だ」季雨は再び口を開いた。


 バー? 常連客? 現代社会のドロドロした駆け引きに翻弄されたリズは、すでに思考を停止させていた。


 嘘を暴かれたオレンジの悪魔は、口元を押さえてクスクスと笑った。


「なんだかすごく不服そうね? 自分の身の潔白を犠牲にしてまで、こんな下ネタに付き合ってあげる女の子なんて私くらいなんだから、もっと感謝しなさいよ」

「そりゃどうもご丁寧に」季雨は適当に流した。


 彼は目の前のオレンジ色の髪の少女の本当の目的をずっと掴めずにいた。もし彼女が自分の秘密を探るために友人としての親密さを保とうとしているのなら、こんな誤解を招く方向に持っていく必要は全くないはずだ。


 だが、璃見真理のような人間の性格そのものが掴みどころがない。万が一、本当に僕のことが好きだとしたら?


 フフフ、男のありがちな勘違いだな。


「そういえば、まだ君の専攻を聞いてなかったね。リズさんが同級生なら、当然同じ専攻だよね?」


 璃見真理がようやくまともな質問をしてきたので、季雨は答えた。


「僕とリズは海洋科学だ。君たち二人は?」

「私たちは『心理・脳・認知科学』専攻だよ。といっても実験クラスが一つあるだけで、私たち二人しかいないんだけどね」

「実験クラス……大学院推薦組?」

「その通り! 院試を受けなくていいんだ〜」


 学歴でも璃見真理に圧倒された季雨は、泣くに泣けない気分だった。


「ごちそうさま」たまに会話に入るだけだった颯音は、ひたすら食べ続け、最初に完食した。

「あ、私もごちそうさま」璃見真理はリズを見やり、彼女が頷くのを確認すると、指で季雨の頬をつついた。

「はいはい、そんなに落ち込まないの。午後からは健康診断があるんでしょ? そろそろ時間だし、君もお腹いっぱいになったなら、一緒に並びに行こうよ」


 こうして、完敗した少年と三人の三者三様の美少女はマクドナルドを後にした。


 ……

 健康診断会場は大学中央の陸上競技場に設置されていた。巨大なテント群がトラックと中央のサッカー場を占拠し、白衣を着た医療従事者たちがその間を忙しく行き交っている。


 午後は大学一年生の検査時間だ。


 季雨たち一行は比較的早く来たため、並んでいる人はそれほど多くなかった。


「うわぁ、刑事のおじさんじゃん!」


 璃見真理がエリア内で白いワイシャツを着た男性に向かって嬉しく手を振り、声を張り上げた。


 季雨は最初その人物に気づいていなかったが、璃見真理の視線を追って男の顔を確認すると、即座に記憶がフラッシュバックした。


 自分が記憶喪失になった後、病院で身元情報を教えてくれたあの警察官じゃないか。かなりやつれていて、クマまでできている。


 リズと逃亡したあの夜、なぜかこの警察官も現場にいた。当局が一ヶ月間自分を探しに来なかったのは、警察官が自分の顔を覚えていなかったからだろうが、季雨としては記憶の蘇りなどで自分やリズに気づかれないことを願うばかりだった。


 それにしても、なぜ璃見真理が警察官を知っているんだ?


 璃見真理の声を聞き、白シャツの男性はエリアから四人の元へとゆっくり歩み寄ってきた。


「よう、こんにちは、璃見さん、颯音さん」


 挨拶を交わすと、彼はすぐに季雨に視線を向けた。


「あんた……あの記憶喪失小僧じゃないか! 確か名前は季雨だったな」

 そして彼はリズを見た。「ふむ……また髪がカラフルな……あんた、『青空の凶鳥』の主人公のリズにそっくりだな」


 リズが復興島の夜の人物だと気づかなかったのは幸いだが、警察官の口からアニメのタイトルが飛び出したことには季雨も正直驚いた。警察官さんもオタクなのだろうか?


「ちょっとちょっと、なんで勝手に推理や取調べを始めてるの? 中国の社交マナーでは、まず友達がその友達を紹介するのが先じゃないの?」璃見真理が不満を漏らした。

「わかったよ、話してくれ。俺も二人がどういう知り合いなのか気になってたんだ」


 沈彰はため息をついて妥協した。璃見真理はニコニコしながら季雨の袖をつまみ、紹介を始めた。


「こちらは季雨、私の運命の顧客。あの日、彼がお腹を空かせて街で食べ物を探していた時、まさに私が彼を案内して『人生で一番美味しいもの』を食べさせたの。それ以来、私たちの運命は強く結びついているのよ」

「僕をホームレスみたいに言うな! それに当時の感嘆をよく覚えてるな、記憶力良すぎだろ!」


 季雨が不満げに突っ込む。璃見真理はすぐさま季雨の袖を離し、今度はリズの袖をつまんだ。


「こちらはリズ、私の運命の顧客。今日、彼女はクズ男に騙されてCGを解放させられそうになっていたところを、まさに私がクズ男の正体を見抜く手助けをしたの。それ以来、私たちの運命は強く結びついているのよ」

「その話まだ終わってなかったのかよ! それに君たちの運命、まだ結びついて一時間しか経ってないだろ!」


 沈彰は連続でツッコミを入れる季雨に同情の眼差しを向け、核心的な質問を投げかけた。


「そっくりで、名前も同じ……真面目に答えてくれ。璃見、彼女の本当の名前は何だ?」

「私の名前はリズ、フルネームはリズ・テンペストよ。『青空の凶鳥』の主人公のリズが大好きで、たまたま同名だったから、わざと似た格好をしているの」リズは右手を胸に当て、璃見真理が答える前に先手を打った。

「ほう? そうかい。初めまして、俺は沈彰。楊浦区の刑事だ」


 いくつかの問い詰めの後、沈彰はついに自身の名前を明かした。自己紹介を終えると、彼は璃見真理を見た。


 璃見真理は頷いた。


 沈彰はリズの件を追及するのをやめ、季雨との世間話に切り替えた。


「久しぶりだな、記憶喪失小僧。元気そうで何よりだ。ふむ……女運も良さそうだな」

「沈刑事までその話を蒸し返さないでください……僕たちは健康診断に来たんです。沈刑事は現場の補佐ですか?」


 追及やからかいに時間を取られたくない季雨は、真面目な話題へと舵を切った。


「まあな。あんたらは7号健康診断所へ行け。あそこはフレキシブル作業ステーションで、まだ開設してないから誰も並んでない。俺が人を呼んで作業させるから、直接受診できるぞ」


 沈彰はすぐエリアに戻って人を呼びに行き、季雨と三人の少女は誰もいない7号テントへと向かった。健康診断所の設備は比較的簡素で、地面に置かれたスタンド型の身長体重測定器、木製デスクに置かれた肺活量測定器とプリンター、それに採血用の道具一式が入った箱があるだけだった。


 検査項目は三つだけのようだ。


 ほどなくして、沈彰が白衣を着た若い男性を連れてきた。


「研修医を社畜みたいに使い倒しやがって……」


 白衣は泣きそうな顔で7号健康診断所の機械のコンセントを差し込み、デスクのQRコードを指差して待機する四人に言った。


「誰からいく? 学生証を見せて、それからコードを読み込んで健康診断システムにログインして、名前と学籍番号を入力して」


 美少女たちが無言で季雨をじっと見つめる……


「はいはい、僕からね」


 季雨は学生証を取り出して医者に確認させ、スマホで身元情報を入力し終えると、プリンターがラベルシールを吐き出した。医者はそれを手早く採血用のプラスチック管に貼り付けた。


「まずここに立って、背筋を伸ばして動かないで」


 医者の指示に従い、季雨は靴を脱いで身長体重計に乗り、測定プレートがゆっくりと降りてきて彼の頭に触れた。


「173cm!」

「61kg!」


 すでに健康診断会場に潜り込み、ディスプレイの横にしゃがみ込んでいた璃見真理と颯音が、それぞれ季雨の身長と体重のデータを読み上げた。リズは腕を組み、不真面目な好奇心旺盛コンビに対する不快感を露わにするかのように待機エリアに立っていた。


 実は一ヶ月前の入院時に季雨はこのデータを知っていたが、当時の体重は62kgだった。この一ヶ月で少し体重が落ちたらしい。


「次は肺活量計の吸気口に向かって息を吹き込んで。一息で吹き切って、途中で止めないでね」


 季雨は深く息を吸い込み、吹き始めた。


「3488ml!」


 璃見真理が再び彼のテストデータを読み上げた。


「……」


 オレンジ色の髪の少女に対する呆れを抱えつつ、季雨はその後の採血検査項目も完了させた。


 季雨の血液が入った採血管が試薬箱に収められるのを見ながら、璃見真理はガーゼで静脈を押さえている季雨に尋ねた。


「季君、昨日の復旦大学の採血のゴシップ、知りたい?」

「言ってみて」

「ん〜、最近上海の学校で次々と健康診断が始まってるんだけどね、昨日の復旦大学の採血作業が一番変だったの。まず検体を載せた運搬車が事故を起こして、検体が地面一面に飛び散って、大勢の人が清掃に来たのね。それから多くのサンプルが車両で運搬されず、人力で搬送されたの。五角場のあたりでたくさんの医療従事者がサンプルの試薬箱を抱えて街を歩いていて、まるでパレードでもしてるみたいだったわ」

「は? 人力で運んでたら一体いつ終わるんだよ?」

「でしょ? まさか健康診断作業の予算が尽きたとか?」


 人力で搬送するなら、間違いなく短距離搬送だ。まずサンプルを特定の場所に集め、その後で大規模に検査機関へ送るのだろうか?


 季雨はこの手の大規模検査作業のプロセスに詳しくなかった。


 口では「現場の補佐」と言いながら、ずっと手持ち無沙汰にしている沈彰を見て、季雨は直接彼に尋ねることにした。


「沈刑事、今日が終わったら、僕たちのサンプルはどこへ運ばれるんですか?」

「ん? あー……復興島だ。なんでそんなことを聞く? デマを流すなよ」


 また復興島か?


 そういえば、リズがそこに残した破損した機体はどうなったのだろう……


「ところで、沈刑事は璃見真理とどうやって知り合ったんですか?」

「……あいつがバーを開く前に警察署に届出に来た時に知り合ったんだよ」


 璃見真理のゴシップと季雨の思索の間にも、颯音は全項目の検査を終えていた。


「身長166cm! 体重49kg! 肺活量3000ml!」璃見真理は颯音の成績も同様に読み上げた。


「私の番だ、私の番」


 すぐに、璃見真理自身の成績も平等に読み上げられた。


「身長166cm! 体重48kg! 肺活量2874ml! うわぁ、身長は同じなのに、私の体重の方が颯音より軽い〜」

「それは私のおっぱいの方が大きいからでしょ! 真理ちゃんのここには脂肪がないもんね〜」


 栗髪の少女は自分の胸を揉み、貧相なオレンジ色の少女に誇示してみせた。


 最後にリズの番になった。


「おおお! 身長170cm! 体重51kg! 肺活量はなんと3500ml! 季雨より高いじゃん、息止めチャンピオン誕生だね!」

「なんだかブラックジョークに聞こえるわね……」リズが突っ込む。


 一通りの戯れの後、健康診断を終えた四人組は健康診断エリアを後にした。怨念を漂わせる白衣の医師だけが残され、次の人間の健康診断を続けていた。


「ん〜、今日の午後はすごく楽しかったな。季雨は可愛かったし、新しく知り合ったリズさんもすごく可愛かった」

「バイバイ〜」


 オレンジの悪魔と栗髪の少女が別れを告げると、季雨とリズだけがその場に残された。


「あの二人、政府の人間かしら?」

「分からない」

「自首したい?」

「したくないわ。今の平和な生活が気に入っているもの。でも今の私たちはただの普通の学生で、手に入る情報はすべて二次情報だし、危機に直面しても反抗する能力がないわ」

「長くは隠し通せない気がするわ」

「安心しろ、あの神秘的な組織を信じればいい。わざわざ大掛かりな手間をかけて君を上海理工に入学させたんだから、単に君と僕を出会わせるためだけとは思えない。君自身がボロを出さない限りはな……そういえば、君が言ってたあの紙袋の怪人がくれたスーツケースとパイロットスーツ、レーザー銃はどこに置いてあるんだ?」

「全部スーツケースに詰め込んで鍵をかけて、宿舎のベッドの下に置いてあるわ」

「僕は時運苑31号に住んでいる。これが僕の連絡先だ。君の宿舎はどこ?」

「留学生アパート1号棟の404号室よ」


 二人は陸上競技場を後にし、校内の道を散歩した。


「この世界をどう思う?」

「私の世界よりずっと穏やかだわ。貴族もいなければ、戦争も飢饉もない」

「たぶん中国に戦争と飢饉がないだけで、外の世界は穏やかじゃないと思うよ。貴族……どこにだっている」

「ここにも貴族がいるの? 彼は成功しなかったのかしら?」


 知らず知らずのうちに偉人像のそばまで歩いてきていた。リズは指でその静かな彫像を指さした。


「昨日は彼の命日で、今日は教師節よ。教師節は彼が亡くなった後に制定されたもので、彼がたまたま教師節の直前に亡くなったわけじゃないの」

「わからないわ」

「僕の先生が死んだ。彼らは翌日に祝うことを選んだんだ……昨日ここに来た時、ある人が詩を詠んでいるのを聞いた。好奇心から、その詩の全文を検索してみたんだ」

「聞かせて」

「まさに神都に事ある時、又た南国に来たりて芳枝を踏む。

 青松は怒りて蒼天に向かって発し、敗葉は紛として碧水に随いて馳す。

 一陣の風雷は世界を驚かし、満街の紅緑は旌旗を走らせる。

 欄に凭りて静かに聴く瀟瀟たる雨、故国の人民思う所あり」

「ん……前半は賑やかなのに、後半で急に静かになって、かえって胸が締め付けられるわね。哀悼の意を直接書いてはいないけれど、この感情の激しい落差が読者に愁いを感じさせるわ。とても良い詩ね」

「これは彼が人生最後の突撃( )を行うと決めた時に書いた詩だ。おそらく彼は、すでに自分の結末を悟っていたのだろう」

「季雨、あなたは粉々に砕け散るのが怖いの?」

「ハハハ、僕も彼の詩を使って答えよう。『骨を埋むるに何ぞ必ずしも桑梓の地を要せん、人生至る所青山あり』だ!」


 リズは偉人像の下に立ち、背を向けて手を振る少年の後ろ姿を見つめていた。

 彼はゆっくりと去っていく。

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