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010:狩場

 江から吹きつける湿っぽく冷たい風に、沈彰は身震いした。


 今回の任務の現地要員としての支給品である栄養ドリンクを一口飲み、彼はなんとか気合いを入れ直した。


 ここ二日間、彼の睡眠は細切れで、たぶん合計しても六時間に満たない。


 なんせ特事組の仕事がクソほど多いのだから。


 特事組——正式名称「特殊事件駐上海連合工作組」。一ヶ月余り前に設立されて以来、上海で発生する特殊事件(超自然現象)の解決に尽力し、超自然的な力を持つ「感応人員」や「感応物品」を監視・保護してきた。


 そして、それらの感応人員の中には、完全に創作作品からやってきた派生キャラクター(二次元キャラ)までもが含まれている。


 復興島での機甲墜落事件以来、特殊事件に深く関わることになった沈彰は、特事組への加入を要請された。


 もし警察と特事組の両方から給料をもらえていなければ、こんなに簡単に頷くことはなかった。


 この一ヶ月働いてみて、彼は自分の仕事が麻薬取締官よりも危険だと感じていた。


 どれほど凶悪な犯罪者でも、追いつめられた時に取り出すのはせいぜい銃一丁だ。


 だが、この派生キャラたちが何を懐から取り出してくるか、誰にも分からない。


 ボディスーツの女に一撃で気絶させられ、颯音とかいう魔法少女の光砲が一発で車を吹き飛ばすのを目撃して以来、沈彰は情けなくも恐怖を覚えていた。


 だが、特事組に入ることにはメリットもあった。潤沢な資源が投入され、他部門も協力してくれるため、調べたいことややりたいことに何の障害もない。例えば——


「ピピピ」


 スマホから通話の通知音が鳴った。


「沈同志、リズ・テンペストという英国人について確認が取れた。身元に問題はない。出入国記録は完璧で、上海に来てからの足取りも追跡可能だ。上海以外で撮られた写真も確認している」

「彼女が上海に来たのはいつだ?」

「7月31日、虹橋国際空港から上海に入国した……当時の防犯カメラ映像が残っており、本人と確認できている」

「8月9日の行動は?」

「上海外灘を観光し、その日の夜は近くの高級ホテルに宿泊している。ホテルの防犯カメラによれば、一晩中外出していない」

「10日」

「10日は台風のためホテルに滞在して外出せず、11日に楊浦区へ移動。12日に上海理工大学の校内宿舎を申請している。非常に明確な行動履歴であり、目立った不審点はない」

「家庭環境」

「両親は世界各国を旅する商人だ。行方が定まらないため、当方から接触を試みることは現状不可能だ」

「『行方が定まらないため』?」

「……言い直そう。君のためにその国際的な商人夫婦を探し出して接触させるほどの余剰資源は、こちらにはない。リズ・テンペストに明白な怪しい点はない。たかが一人の留学生を調べるために、わざわざ海外で両親に接触させる人員を動かすのは、資源の無駄だと思わないか?」


 まあ、特事組の資源投入も無限というわけではないらしい。


 電話を切ると、沈彰はスマホの業務日誌のリズに関する調査項目にチェックを入れた。


 飲み干した空き缶を投げ捨て、沈彰は再び煙草に火をつけた。二つの刺激の相乗効果で、彼はようやく少し頭が冴えてきた。


 今夜は大仕事だ。失敗はできない。


 軍隊は1130近接防御砲まで持ち込んできた。


 戦闘班、封鎖班、地上巡回班、海上巡回班、指揮センター……そして自分が所属する花火班。


 黄浦江の川底にもフロッグマンが待機しているらしい……


 8月9日のように一小隊が慌ただしく駆けつけた時とは違う。二日間にわたる配置を経て、復興島の海陸空には天羅地網が張り巡らされ、獲物が自ら罠にかかるのを待つばかりとなっていた。


 そして、その獲物とは——


「兄貴!死ぬ死ぬ!」

「兄貴、下手すぎ。プレイできるのか?」

「うるさいぞお前ら!俺はそんなにゲームばかりやってないんだ」


 十数名の戦闘班の隊員が集まり、「兄貴」と呼ばれる隊員がゲームをするのを囲んで観戦していた。


 花火班の待機位置は戦闘班と比較的近く、沈彰はもともと少し緊張していたのだが、戦闘班の連中がこんな風にサボっているのを見て、彼も緊張が解けた。


「おい、沈彰。お前、ゲーム知識とアニメ知識のテストで結構高得点だったろ。俺がなんでいつまでもクリアできないのか、ちょっと見てくれよ」

「……特事組で毎月あの手のテストがあるとはいえ、自慢げに言わないでくれよ。すごく恥ずかしいんだから」


 沈彰は近づいて彼のプレイヤーキャラを確認した。


「スキルがレベルアップしてないだろ……」

「ハハハ、兄貴下手すぎる!」

「ゲーム下手なら、スマホを兄弟たちに渡せよな」

「引っ込んでろ、今度こそ絶対クリアしてやる」


 ゲームに夢中になる戦闘班を眺めながら、沈彰は手にした煙草の灰をはらった。


「お前ら、こんなにサボってていいのか?」

「サボるだと? もうすぐBOSS戦なんだぞ。これは前もってBOSSの仕掛けを把握しようとしてるんだ!」

「で、把握できたのか?」

「全然。なんかずっと雑魚敵を召喚してきて、あっという間に雑魚の群れに埋もれて死ぬんだよ。未だに『罪印狩り』の世界観すら分かってないんだ。ちょっと解説してくれよ。自分が誰でどこにいるのかも分からん、分かってるのは皆殺しにするってことだけだ!」


「兄貴」の言葉を聞いて、沈彰はため息をついた。まさに彼が戦闘班に対して抱いているステレオタイプそのものだった。


「アクションRPGによくある病気だな、まあいい……」沈彰は解説を始めた。「『罪印狩り』の世界観は古典的な異世界だ。この世界には七人の『印持者』が存在し、それぞれがひとつの『原罪の印』を宿して、対応する能力を持っている。印持者が殺されると、その印は殺した者の体に移動する。ゲームの主線は、プレイヤーが印持者を一人ずつ狩り集め、原罪の印を回収することだ」

「お前らが戦ってるのはゲームの四番目のBOSS、『色欲の印』レイラ(Layla)だ。能力は様々な素材をもとにほぼ無限の創造を行うこと。血肉を使えば怪物を創り出し、金属を使えば武器を創り出す。だからゲームの中にあれほど装備の整った雑魚敵が出てくるんだ」

「ただし、このステージの難所は大量の雑魚敵だけじゃない。レイラが『嫉妬の印持者』の死体から錬成した、嫉妬の印の能力の一部を宿した精鋭個体だ。だが、プレイヤーキャラはこの時点で既に三つの原罪の印を集めているんだから、『兄貴』がスキルを上げてさえいれば、そこまで苦戦するはずもないんだがな」


 戦闘班の隊員の一人が手を挙げて尋ねた。


「じゃあ、あのBOSSの第二段階はどういうことなんだ? せっかく周囲の雑魚を片付けたのに、いきなり包囲網の真ん中に転移させられたぞ」

「レイラはダメージを受けると、第二段階に入る。ゲーム内では彼女は嫉妬の印持者を喰らい、嫉妬の印の能力——交換を獲得する。ゲームのギミックとしては、位置交換で、プレイヤーが怪物大軍のど真ん中に転移させられるんだ。合計で七回、転移させられる。DPSが試される段階だな……任務が終わったら、上層部に提言して、似たような任務の前には戦闘班への事前講習を実施するよう要求するよ」


 沈彰が根気強く解説していると、ゲームを観戦していた群衆から歓声が上がった。


「おおおっ! 勝った! 大して難しくないじゃん」

「難易度設定が簡単だからだろ」

「難易度は簡単なのに、どんだけ時間かかってんだよ、兄貴ヘタクソだな」

「黙れお前ら、これから立ち向かう敵の予習は済んだんだ、全員自分の配置につけ!」


 戦闘班の隊員たちは次々と地面から立ち上がり、装備を整え始めた。


 そう、まさに復興島の天羅地網に踏み込もうとしているのは、「色欲の印」レイラだ。


 一週間前に上海に突如現れて以来、レイラは一貫して自身の「素材」を集めることに注力してきた。


 建設現場の資材から、動物の死骸、そして人間の血肉に至るまで。


 彼女は十分に慎重で、人混みの中に身を隠す術を知っていたが、異世界から来た彼女には防犯カメラを回避するという意識がなかった。そのため、最初の血案を引き起こした直後、即座に特事組の標的となった。


 これほどほぼ無限の成長能力を持つ派生キャラに対し、特事組としては当然、猶予を与えず可及速やかに消滅させたいと考えていた。


 しかし困ったことに、彼女は常に繁華街に潜伏しており、戦闘小隊を派遣して抹殺しようとすれば、無関係の市民を巻き込む危険性が高く、世論を騒がせることにもなりかねなかった。


 だが三日前、特事組はレイラを誘い出す絶好の機会をつかんだ。


 ちょうど大学の採血検査が行われていた時、レイラが血液検体を運搬する車両を長い間追跡していたため、特事組は彼女が異なる人間から採取された大量の「素材」に強い関心を示していることに気づいたのだ。


 そこで、本来スクリーニングを目的としていた採血検査は、直ちにレイラを誘い出すための作戦へと切り替えられた。意図的に血液検体を撒き散らしたり、追跡しやすいよう人力で搬送させたりする手段を用いて、レイラをこの慎重に選ばれた伏撃地点の付近へと誘い出すことに成功したのである。


 復興島——黄浦江の上に浮かぶ島。楊浦区の市街地とは百メートルにも満たない復興島運河を挟んでいるだけだが、誘い出しの距離と隔離効果を総合的に考慮した結果、最も適切な場所だった。


 今、大量の血液検体が沈彰の目の前にある建物の中に集められている。監視班の報告によれば、レイラはすでに運河の対岸にある上海理工大学内に潜伏しており、今夜にも橋を渡って血液検体を奪いに来る可能性が高いという。


「パタパタ」


 複数の革靴の音が遠くから近づいてくる。


「全体、気をつけ!」


 戦闘班の隊員は条件反射のように背筋を伸ばし、手を挙げて敬礼した。隣の花火班の隊員も素早く直立した。沈彰は私服を着ていたため敬礼は控え、慌てて煙草を揉み消して同じく直立した。


 やってきた数人の人影を目にすると、「兄貴」は小走りで駆け寄って敬礼し、報告した。「報告、副組長! 戦闘班および花火班、手はず通り配置を完了し待機中です。ご指示を!」


「皆ご苦労、待機を継続せよ」


 中央に位置する人物は頷き、現場の要員を一通り見渡すと、背を向けて去っていった。


 沈彰は再び体を緩め、もう一本の煙草に火をつけた。


 周廿(ジョウ・ニエン)。


 特事組副組長。沈彰が特事組に入る前はこの人物の名前を聞いたこともなかったが、この期間を通じて、沈彰は彼が真に有能な官僚であることを確信していた。


 中央からやってきて名義上の監督だけを担当する文清組長とは異なる。周廿は上海生抜きの官僚として、特事組の日常的な指揮業務を担う副組長を務めていた。


 彼の指揮下で、特事組がミスを犯すことはめったにない。仕事中毒である彼はほぼ二十四時間体制で勤務しており、今回の任務においても、彼は三時間ごとに復興島の配置を巡回しなければならず、まるで睡眠を必要としないかのようだった。


 三十歳の刑事が五十歳の人間の抗圧力に及ばないとは……


 血液検体による誘い出し計画も彼が発案したものだった。誘い出しを確実に成功させるため、当局は自ら情報を流すことさえした。沈彰も一役買ったのだ。あの記憶喪失小僧血液検体の運搬先を教えただけではあるが。


 この情報が、記憶喪失小僧本人を復興島に引き寄せないことだけを祈るばかりだ……


 沈彰は首を振り、取り留めのない考えを頭から追い払おうとした。


「カチッ」


 耳元で戦闘班の隊員が弾丸を装填するボルトの音が響いた。


 当初上海に現れたのはレイラ本人のみで、「嫉妬の印持者」が同行していなかったものの、指揮部は「上海に現れたレイラがすでに第二段階である」という可能性も考慮に入れていた。戦闘班の装備にはSMASHシステムに似た誤射防止装置が取り付けられており、レイラが「位置交換」のような能力を使っても、戦闘班の隊員同士が相討ちになるのを可能な限り防げるようになっていた。


 颯音のように戦闘力を持つ感応人員については巡回班に組み込まれており、戦闘班が困難に直面した際には即座に支援へ向かう手はずになっている。


 魔法少女の殺傷力は重ロケット砲や30mm機関砲よりも高いわけではない。感応人員を予備隊として配置する理由は、現代兵器がこれらの幻想生物に対して効果が薄い場合に備えるためでもあった。


 すでに隅々まで行き届いた配置であり、沈彰はこれ以上良い案を思い浮かべられなかった。この煙草を吸い終えた後、彼は現場の人員と共に敵の到来を待った。


 ……

 深夜。


「各部隊、注意せよ! 海安路橋にてレイラを確認。他の生物は確認されず。1130照準!構え——」


 無線から聞こえてくる声が深夜の静寂を破った。


 物陰に身を隠した沈彰は、今夜の作戦の成功を静かに祈っていた。

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