003:画面の向こうから
午後、遠くから押し寄せた雲が、病室へ差し込む日光を遮っていた。
先ほどの警察が去った後、僕はいくつかの医学検査を受けるよう手配された。人生で初めての病院食を食べ終えた後、医者から自分のスマホを受け取った。
スマホには指紋認証がなく、適当に試したパスコードでなぜか解除できた。おそらく僕に残った過去の記憶が手伝ってくれたのだろうか?
僕は以前、スマホで何をしていたのか気になり、片っ端からアプリを確認し始めた。
連絡先……クラスの連絡用グループと、「定海路街道の王おばさん」という人物だけ。内容はほとんど日常の気遣いと孤児手当の支給についてだった。
ブラウザ……ほとんどはマイナーな知識の検索で、エロコンテンツはなかった。
Bilibili……フォローしているUP主も、アニメやグルメなどごく普通の投稿者ばかり。
スマホにゲームはなかった。
僕って、以前はそんなに退屈な人間だったのか? 僕は以前の自分が自殺した可能性がどんどん高くなっている気がした。
自分の過去の痕跡を確認しているうちに、時間は静かに過ぎていった……
まずい——
マホは超楽しい、ネットは超面白い、アニメは最高、エロ動画も超激アツ!
なんで僕は自殺なんてしたんだ? 僕はこれさえあれば一生生きていける!
もう七月新番のアニメを第七話まで一気見しちゃったよ!
残暴な超能力者が世界を支配し、無能力者たちが機甲を建造して反抗する。この超能力者VS機甲という題材は本当に面白い!
機甲戦闘は超クールで、政治描写も超深い。主人公リズがエースパイロットとして学校から一路無双していく姿はカタルシス満点で、作者が主人公に設計したギャップ性格も非常に萌えポイントがある。ちょうど見終わった第七話の水着回も目の保養になった。
さっきPixivでリズの黒ストのエロ画像を鑑賞した僕は、名残惜しさを感じながら更新されたばかりの第八話を開いた。
この話は、ちょうど海辺の休暇を終えたリズが大部隊に従い、帝国の再攻撃を防ぐというものだった。しかし、以前からエースパイロット「青空の凶鳥」を目の敵にしていた帝国の指揮官は、大量の資源を惜しまず、リズを狙った罠を構築した。リズは戦闘中に重囲に陥り、やむを得ず帝国の奥地へ突破する。そして飛行中、彼女は一筋のレーザーに機体の飛行装置を撃ち抜かれ、帝国の都市に墜落してしまう!
「……機体は損壊し、リズは機体を捨てて徒歩を余儀なくされる。以前は無駄だと突っ込まれていた体力訓練が、ここで大きな役割を果たす。知恵と浸透技術、そして善良な帝国の民衆の助けを借りて帝国軍と渡り合う。青空の凶鳥は包囲を突破できるのか? 次回——善と悪の渦!」
「ふ~、最高だ。帝国の指揮官はリズを罠へ誘い込んだが、この任務への資源集中とリズの抵抗によって、帝国の攻撃は完全に失敗した。主人公がただ悪役の計画の下で苦しむだけではない、これこそ良い脚本だ」
第八話を評価し終えた僕は、第九話への期待で一日が一年のように長く感じた。
「ああ、もう遅い」
スマホの表示時刻はすでに深夜で、そろそろ寝る時間のようだった。
そういえば……僕はまだ寝たことがないな。少なくとも自分が寝た記憶はない——昏睡は含まない。
どうやって寝るんだ? 横になって目を閉じてじっとしていれば寝られるのか?
寝るとはどんな感覚だ? シャットダウンのようなもの? じゃあ明日目覚めた僕はまだ僕なのか?
人間って、本当に不思議だ。
見終わったばかりのアニメへの興奮と睡眠への疑問を抱えながら、僕は目を閉じた。
……
僕は寝たのか?
そう思いながら、僕は目を開けた。
澄み切った空とゆっくり動く白い雲、夏とは思えない柔らかな陽光が病室を照らしている。
え、まだ寝た感覚すらないのにもう翌日なわけ? すごいな、睡眠って。ゲームの時間スキップみたいだ。
……しかしそう言うなら、寝ることは人生をスキップすることと同じじゃないか? 寝るほど、楽しめる人生は短くなる。
今後はあまり寝ないことに決めた僕は、ベッドから起きて床に降り、早起きプログラム——つまり歯磨きと洗顔を実行する。
病院がくれた使い捨て用具を取り、口の中の泡を吐き出した後、僕は少し違和感を覚えた。
静かすぎる。窓の外には鳥の鳴き声も車のクラクションもなく、部屋の外にも足音や患者の話し声がない。
僕はドアを押し開けると、廊下には誰もいなかった。
「ホラー映画?」
僕は慎重に前へ進みながら見回し、ナースステーションまで歩いた時、看護師服を着たオレンジ髪の少女がカウンターに伏して休んでいるのを見た。彼女の車の鍵は無防備に机の上に置かれている。
「すみません、なぜ病院が急に誰もいなくなったんですか?」僕は問いかけた。看護師さんが起きる気配がないのを見て、肩を揺すって起こそうと手を伸ばした。
「えっと、おはよう?」
しかし二回揺すっても看護師は目を覚まさなかった。僕は手を引っ込め、目の前で全く抵抗できない看護師さんを見つめた。
「なんだ、エロ動画か。初めての夢がこんな展開、僕はそんなに欲求不満されているのか?」
この時、僕の心に四つの可能性が浮かんだ。
一、夢を見ている。
二、何らかの薬物や病気で幻覚を見ている。
三、僕に何らかの裏世界へ入る超能力がある。
四、裏世界へ入る超能力者に僕が引き込まれた。
以上の四つはどれも経験したことがないので、僕には全く区別がつかない。
昏睡している看護師さんを離れ、僕は病院の廊下の窓辺まで行き、外の状況を見た。
大通りには走っている車がないが、道端には自動車や自転車が停まっている。
窓枠に吸い殻が二つ……病院で煙草を吸うなんてマナーの悪い奴がいるな、しかも片付けもしないで……
手がかりが見つからない僕は、目的もなく窓辺に伏して外の風景を眺めた。正直、こんな穏やかな天気に包まれた上海の街並みはなかなか綺麗だった。
そして——
少し離れた空の雲を破って一筋の流星が舞い降り、炎の尾を引く巨大ロボットが空から落下して、すぐに建造物群の影へと消えていった。
およそ五、六秒後、轟音が響いた。
???
この夢、こんなに無茶苦茶なのか?
これは夢である確率がどんどん高くなった気がする。何しろ寝る直前にアニメで機体が墜落する場面を見たばかりだ。「昼に思えば夜に夢に見る」というし、脳内のまだ落ち着いていない興奮回路が、睡眠中にもう一度追体験させたがっているのだろう。
どうせ病院にいても手がかりがない。墜落地点へ行ってみる必要があると感じた僕は、看護師さんの車の鍵を持ち出し、階下へ走り、車の鍵の応答機能で看護師さんの車を見つけた。
解錠、ドアを開け、運転席に座る。
「えっと、たぶん先にエンジンをかけるんだ」
あたふたした後、僕は自分の推測だけでこの車を発進させた。
壁に三回、車に二回ぶつけ、さらには駐車場のゲートバーを折ったが、それ以外は順調に、車を誰もいない道まで運転できた。
大きなロボットが墜落した方向を頼りに、僕は楽しく車で市街地と川を渡る橋を抜け、一つの島に到着した。すぐに倉庫区らしき場所へ来た。その内部から舞い上がる土埃が、ここが先ほど大ロボットが墜落した地点だと教えてくれた。
倉庫区に入り、土埃が最も激しく舞う場所へ直行すると、すぐに瓦礫と化した一棟の倉庫と、その中で機能停止した機体を見つけた。
「ふむ、なかなかリアルだ」僕は目の前の機体をじっくり眺める。
その時、まるですすり泣いているような微弱な声が耳元で響いた。
「誰か……助けて……」
?
本当にイベントが発生するのか?
「君が助けを求めているのか?」僕は目の前の機体を見る。「どうやって助ければいい?」
僕が「助ける」という言葉を言い終えた瞬間、眩しい白光が突然目の前に現れ、僕は一時的に視覚を失った。
「!」
眩しい白光はすぐに消えた。以前の晴れた昼とは違い、周囲は一寸先も見えない漆黒で、パチパチと音を立てて体に叩きつける激しい水滴、そして——
「裸男?!」
「裸男?! どこに裸男がいる?」僕はまだ周囲が見えず、突然現れた声の言葉を驚いて繰り返しただけだった。
水滴が肌を伝い、本来水滴を感じるはずのない「部位」にも冷たさを感じて、僕はようやく理解した。
「うわ、僕は裸男だ」
目が徐々に暗闇に慣れ、僕は目の前の光景を見た。色っぽいボディスーツを着た斜め分けロングヘアの美少女が、敵意を込めて僕を睨んでいる。
大きく七三に分けた前髪が額に沿って左側へ流れ、左顔の眉目を一部隠している。そして毛先は大人しく垂れず、上に跳ねて、小さな尖りを形作っている。頬の両側には、ちょうど胸まで垂れる長い鬢髪が二束残っている。そしてこの一束を除き、左側の髪は耳の後ろに流され、すっきりした横顔のラインを覗かせている。
この流行りのデザイン、この冷たく、格好よく、有能で、軽やかな気質——
これはリズじゃないか!?
ああ、分かった。僕が第九話の展開を見たすぎて、脳が先に上映してくれているんだ。
現実の論理なら、たぶんコスプレイヤーだと思うだろう。しかし夢の中であり、しかも機体まで見たのだから、僕はこれが「本物」のリズだと思うに決まっている。
だからこの場面転換は何なんだ? 目がくらんだら場面が変わって、しかもリズに会った? シナリオが強引すぎるだろ!
リズの目つきが急に決然となり、腰の後ろから素早く携帯レーザー銃を抜く。
「!」僕に向けて撃つのかと思い、僕は素早く両手を挙げた——
リズは銃口を自分の頭の上に向けた……
いや……そんなに僕が怖いのか?
気まずく一度見つめ合った後、リズは銃口を僕の頭の上に向けた。
「えっと、君はリズ?」と僕は言う。
「私の名前を知っているの?」
リズは中国語で僕に答えた。なぜ彼女が中国語を話すのか疑問に思いながらも、聞き取れるのならと、僕はそのまま中国語で会話を続けた。
「知ってる知ってる。君はエースパイロットで、全学年首席の成績で機甲操縦学校を卒業し、『青空の凶鳥』と呼ばれている。性格は、わざと演じている非人情で冷淡なところで、それはクールだと思っているから。さらに、趣味がパイロットスーツか競泳水着を着て鏡の前で自分の体を鑑賞することだってことも知ってる」僕はアニメの中の情報を口にする。
僕はこれだけじゃない。君の左太ももの内側にほくろがあること、クローゼット半分の黒ストと水着をコレクションしていること、競泳水着が深Vタイプだってことも知っている……でもこれ以上言うと変態すぎる気がする。
君は人気が高いんだぜ、リズ。
リズはさらに気持ち悪そうな表情を浮かべた。
「おい、クズ、何か遺言はある? 私は逃げるのに忙しいの。あんたみたいな変態に辱められる時間なんてない」
「おいおい、明らかに君が僕を呼んで助けてくれって言ったんだろ?」
「は?」
「君がすごく怯えた様子で『誰か助けて』って言ったんだ。それを聞いて、僕は『手伝いに行けるかな』と思ったら、なぜか分からないけど来たんだ」
「は?」
僕が言っていることは全部本当なのに、彼女のクズを見るような目は変わらなかった……なんでちょっと気持ちいいんだ?
「ありえない! この青空の凶鳥が、そんな弱音を吐くわけがない!」
「……」
僕は黙った。そもそもあの声が彼女のものだったのかも分からない。それから口を開く。
「とにかく、助けるのか助けないのか。君は逃げるのに忙しいんだろ? 早く行こうよ」
展開通りなら、リズは今墜落したばかりで、帝国が必ず捜索隊を出す。
僕は周囲を見回し、ここがさっきの倉庫の瓦礫で、壁の裂け目まで全く同じだと気づく。
昼を夜に変えて、晴れを豪雨に変えただけで背景変更扱いなのか? この夢も雑すぎる。
激しい豪雨は次第に弱まり、僕は倉庫を出る。リズは敵意をしまったようについてきて、尋ねた。
「君は本当に帝国貴族じゃないの?」
「本当に違う。超能力者ですらない」
「超能力者じゃない? じゃあ、どうやって私を助けて逃がすの? 転移能力は?」
その通りだ。僕は結構はっきりしている。これがいわゆる「明晰夢」なのか? 明晰夢は夢主が制御できると聞いたことがある。僕は拳を握り、自分が転移できると想像する。
しかし何も起こらなかった。
「あんたの能力は?」
「知らないよ?僕、超能力者じゃないし」
「じゃあ、なんで拳を握ったの?」
「ちょっと試してみただけ」
リズはバカを見るような表情を浮かべた後、突然顔色を変え、歯を食いしばって僕の腕を掴み、素早く前へ走り出した。
「あんた……能力がないって言ったのに、じゃあ最初はどうやって来たの?」
「知らないよ。君が助けてって言うから来たんだ。それに、僕にも何か登場シーンが必要だろ?」
リズの目には、僕は一体どう現れたんだ? まさか白光が一瞬光って突然現れたのか?
その時、背後から追手らしき命令声が聞こえ、リズは僕を連れて速度を上げた。
「あんた、これも駄目、あれも駄目。何が助けに来たよ、あんたはただ私の逃げる足を引っ張るだけよ!」
「じゃあどうしろって言うんだ。こんなことになるなら、僕も来なかったよ」
「じゃあ、どこへ逃げるの? あんた帝国の地元民でしょ? 周囲に詳しい?」
リズの問いに、僕の頭は素早く回転する。
まず、外界の地図が白光の場面転換で変わったかどうか分からない。もし僕がさっき来た時の地図通りなら、川を渡る橋を通った時、渡った川は実は別の大きな江の支流で、見た道路標識と合わせて考えると、島の西側は川、東、南、北は江だった。もしアニメの地図通りなら、帝国は東側に重兵を配置している。同じく西へ帝国の奥地へ入るしか生き残る機会はない。
心に考えが浮かび、僕はリズに聞き取れる言語で言った。
「……詳しくない。でもルートの参考ならある。君はもう機体もない。東へ逃げればルートは短いが、そこは戦線だ。確実に死ぬし、敵もそこを重点的に捜索する。逆に考えて西へ逃げろ。より深く帝国の奥地へ入るんだ」
僕の言葉を聞くと、リズは僕を引っ張って急に方向を変えて走った。
しかしすぐに目の前に高い壁が現れた。
「もう逃げ場はない。すぐに両手を頭の後ろに組め!」背後からの追手の命令が、僕にまで聞こえた。
「ちっ」リズは舌打ちし、もともと僕を掴んでいた手に急に力を込め、僕を胸の中へ引き寄せた。
おっぱいおっぱい!
僕の顔は柔らかさを感じた……とても無茶苦茶だが、この夢は損じゃない。
しかし気持ちよさは長く続かず、僕は無重力感を感じた——
リズは円盤投げの姿勢で僕を一気に壁の向こうへ投げ飛ばした。
よし、落下はもう慣れた。
空中で、僕は下方に一台の車と、見覚えのある人影が車に寄りかかって煙草を吸っているのを見た。
これ、朝の警察じゃないか? 君もカメオ出演か?
考える暇もなく、着地の衝撃で僕は二秒間動けなくなった。もがきながら起き上がると、続けて跳び降りてきたリズが警察を処理しているようだった。深く考えず、僕はすぐに車のドアを引くと、すんなり開いた。警察さんはエンジンも切っていない。僕はさっき運転した記憶を頼りに、ギアを適切な位置に入れる。
左を踏んで、動かず。右を踏むと、車が少し震え、わずかに前へ進んだ。
よし!
「早く! 車に乗れ!」僕は車の窓から身を乗り出してリズに叫び、警察さんと、緑の迷彩服を着ているらしい人物が、ひっくり返るように壁の根元に倒れているのを見た。
リズは素早く車に乗り、僕はアクセルを踏んで素早く西へ去った。
「ふ~、マジで死ぬかと思ったわ」座り直したばかりのリズが突っ込む。「こいつら普通じゃない。これが二線部隊なわけない、精鋭部隊よ」
「えっと、あれはたぶん帝国軍じゃない……」と僕は言う。
「帝国軍じゃないってどういう意味?」
「たとえば、さっき君が寝かせたあの人は、警察だ」
「警察? じゃあ他の人も?」
「……いや、あれは武装警察だ」
「それも警察なの?」
「……いや、僕もよく分からない。たぶん夢ってこういう無茶苦茶なものなんだろう」
車内灯に照らされ、僕ははっきりと、完全なリズを見た。
彼女の髪は普通の東洋人種の黒ではなく、濃くて冷たいトーンの|墨藍灰《Dark Denim Blue》で、黒髪の落ち着いた知性を保ちながら、青灰色の現代的なファッション感も取り入れている。そして目は人を酔わせる海色で、異国感のある顔のラインは彼女の有能さと堅毅を描き出しつつ、彼女だけの冷たさと脆さも覗かせていた。
二次元美少女、最高だ~
ああ、なぜ顔ばかり見て下を見ないのか? 反応してしまって、せっかくリズと打ち解けた雰囲気を壊すのが怖いからだ。
しばらく揺られて、僕は車を島の西側の川岸まで運転した。
「これが、あんたの言う西へ逃げるってやつ?」川を見て、リズは僕を疑う。
「西に川が行く手を塞いでるなんて知らなかったんだよ? 楽観的になれ。もしかしたら東には江が行く手を塞いでるかもしれないし」
西へと言った時、僕は夢に読み込まれた地図がどれなのかすら分からなかった。運転する過程で、夢の中の昼のあの都市と同じだと気づいた。つまり、確かに川がある可能性がある。しかしさっきの追手たちを考えると、彼らはもう橋に配置についているかもしれない。だから危険な手に出て、泳いで渡るしかないと思った。
僕は川辺の「水深危険、遊泳禁止」の看板からライフジャケット、浮き輪、付属のロープ一節を取り外し、ロープでライフジャケットと浮き輪を繋ぎ、それから浮き輪をリズに渡した。
「さあ、泳いで渡ろう? 僕の記憶だと、君は結構泳げるはずだよね。悪いけど、僕を連れて行ってくれ」
「泳げないの?」
「知らない。水に入るのはこれが初めてだ」僕はライフジャケットを着る。「う~、やっと服を着られた」
リズは黙って浮き輪を身につけ、水に入り対岸へ泳ぎ出した。
水流はとても速く、さっき弱まった雨は再び豪雨へと変わった。リズはその中でかなり苦しそうに泳いでいる。
そして僕は——ライフジャケットがなければ、とっくに溺れ死んでいた。
「ごぼごぼ……」
大きく何口も水を飲み、ほとんど考えられなくなる。
ロープから伝わる牽引力はどんどん弱くなり、リズも力尽きかけているのか?
駄目だ! 集中、集中! 自分はカエルだと想像するんだ!
僕は四肢を広げ、水中で滅茶苦茶に暴れるのではなく、自分の浮力を増やそうとした。
少し安定したようだ……
前方のロープにはもう牽引力がない。
僕はできるだけ前へかき、まずドリルのように両手を合わせて前方の水へ「潜り」、それから両腕を開いて前の水をかき分ける。
……よし、前へ進んでいる。
次第にリズを追い越し、僕は彼女を連れて進み始める。岸まで遠くなく、二十メートルも泳がずに岸へ上がった。
リズはすでに昏睡していた。僕は彼女を岸へ引き上げ、彼女の上にまたがり、パンパンと二発の平手打ちを食らわせた。
最初にあんなに態度が悪いからだ! 手は少し痛いが、別の快感がある。
リズのまつげが震えた。
あ、彼女が目を覚ましそうだ。いけない、彼女を叩いた目的を誤魔化さなければ。
「死ぬなよ、おえっ——」
僕が口を開くと、さっき飲んだ川の水が示し合わせたように一斉に溢れ出た。
リズは身を翻して僕を振り払った。
「くそ、僕がいなかったら、お前は溺れてたんだぞ」僕は両手を地面について、さらに水を吐き続ける。
「あなたを連れて行かなければ、私一人で泳いで渡れた!」彼女は言い返す。
しばらくして、体勢を整えたリズと僕は川岸に座り、逆巻く川を見つめた。
「あなたの名前は?」彼女が尋ねる。
「人に聞いた話だと、僕の名前は季雨らしい」
「みんなの名前は、人に聞いた話で知るものなのね……」
良い慰めだ。つまり彼女の本質は僕と同じということ。しかし実際、彼女の本質は確かに僕と同じなのかもしれない……
当たり前だ……
「僕が助けたってことになるのか?」
もう一度確認したかった。訳も分からず受けた任務だが、過程はまあ面白かった。
「なる」
クーデレ少女のギャップ萌えの返事だ。もう一度聞きたくなる。
「もう一回言って?」
「だから、あなたが私を助けた」
「はは」
記憶がある中で初めての嬉しい感情ではないが、人生で初めて笑った。
見慣れた白光が再び目の前に現れる。どうやら今夜の夢は終わるらしい?
「おい! あなた——」
リズは結構僕を名残惜しく思っているようだ。大丈夫、次は君を夢に見られるように頑張る。
白光が消え、再び目を開けると、見慣れた病院の天井だった。
今は——夜。
僕は仰向けで、布団の中は湿っていた。どうやら夢の中で汗をかいたらしい。
夢の中の昼のあの静かな都市とは違い、窓の外からは雨が窓を叩くパタパタという音が聞こえる。
僕はベッドを降りて病室のドアを開ける。廊下の灯りは夜でも消されておらず、時折、人が別の病室を行き来している。
ナースステーションの看護師さんは気持ちよさそうに眠っている。
なぜ人々が寿命を半分削ってでも眠るのか、なんとなく分かった。夢を見るのは本当に楽しい。
◆◇◆
復興島臨時指揮所。
緑の迷彩服を着た中年男が怒りに任せて木の机を拳で叩く。
「行動班は捕まえられず、防衛班は待てども来なかっただと? なら奴らはどこへ逃げられる? 豪雨の復興島運河を泳いで渡ったとでも言うのか?」
報告中の迷彩服を着た若い男性が少し震える。
「しかし、彼らが奪った車は川岸に停まっていました。それに赤外線ドローンまで使いましたが、復興島には確かに怪しい熱源はありません。彼らが運河を渡ったとしか言えません」
中年男はテント内の警察服を着た人物へ注意を移す。
「君は沈彰だな? 当時遭遇した状況を話せ」
「えっと、俺は当時、裸男が壁の外へ投げ出されるのを見て、それからボディスーツを着たような女性が続けて跳び降り、現れるなり俺を攻撃し始めました。女性だと見たので、関節技を使おうとしたんですが、彼女の力はヘビー級のボクシング王者のようで……とにかく二発で気絶させられました」
「彼らの顔ははっきり見たか?」
沈彰はもう呆れていた。
「いいえ、本質的に彼らとは顔を合わせただけです。裸男は……顔より、当時は別の場所に注目していました。ボディスーツの女は、理論上は顔を見たはずですが、彼女に二発で気絶させられてから、その細部をどうしても思い出せません」
昼の時点で、沈彰はあの記憶喪失の若者が演技だと思っていたが、まさか自分がこんなに早く記憶喪失の感覚を味わうとは思わなかった。
「ボディカメラは?」
「当時煙草を吸っていて……つけていませんでした」
「彼らは警察車両で走った。警察車両の車内監視は?」
テント内の他の人員が続けて答える。
「報告。DVR本体全体が運河に捨てられているのが発見されました。重量が重いため遠くへ流されず、すでに引き上げましたが、内部は川の水に浸かっており、データ復元は……難しいと思われます」
「ではリアルタイム転送の映像は? 公安の指揮センターは当時、この車のリアルタイム監視映像を取得する指令を出したのか?」
「はい。しかし台風による悪天候、あるいは不明な原因で、信号が遮断され、映像はリアルタイムで正常にアップロードされませんでした」
中年男性はしばらく沈思する。
「……どうやら我々が相手にしているのは、依然として厄介な敵のようだ。ガンダム……ふふ、まさか俺もいつか子供のままごとをすることになるとはな」
空が白み始める。しかしこれまでの朝と違い、黄浦江の上を海鳥が飛ぶことはない。8月10日の天気は依然として曇り雨になりそうだ。




