四話め
翌日、めぐみが登校すると、机の中にキンキラなノートが入っていた。太田にやめる宣言をした交換日記だ。
「え、なんで入ってるの? 怖いんだけど。軽くホラーだわ」
捨てても捨ててもいつの間にかに戻ってくる呪いの人形ならぬ呪いのノートかと、めぐみは薄気味悪くなった。
めぐみが周囲にノートを入れた人がいるか聞いて回ると、一人のクラスメイトが答えた。
「昨日の放課後に隣のクラスの子に頼まれて入れたよ。忘れ物だって言ってたけど、違うの?」
善意の行動に文句は言えなかった。とりあえず、めぐみの忘れ物ではないから、もう引き受けないでねとだけ告げておく。
瀬戸と佐藤が登校してきてノートを見せると、二人ともドン引きしている。
「ええええ、ツラの皮分厚くない? よくもまあ、まだ続ける気でいるもんだ」
「なんか、しつこくて怖くない? ストーカーっぽいわ〜」
「ノートでは謝ってるんだけどさあ、もう二度としないって書いてるけど本気かな?」
「さあ? にしー、変なヤツに絡まれたねえ」
「もう相手にしないほうがいいんじゃない?」
「ノートに書いておくよ。もう怒ってないから、関わらないでって」
「そうしたほうがいいよ〜」
めぐみは早速ノートに書き込んで隣のクラスに行った。太田のように誰かに頼んで机に入れてもらうつもりだ。
めぐみは無事にノートを手放して、これで終わりだと思っていたが、まだまだ甘かった。
また昼休みに隣のクラスに遊びに行っていたクラスメイトが血相を変えて戻ってきた。
「西野さん! ひどいよ、隣のクラス。
ノートに穴開けて悪口言ってた。黒板に貼り付けてるし、それを笑って見てるんだよ?」
誰が笑って見てるかなんて、めぐみは聞かなかった。
すぐに隣のクラスに突入すると、確かに黒板の端っこにノートが貼り付けてある。しかも、めぐみが描いた絵に落書きされてペンを突き刺して穴まで開けられている。
太田はノートのすぐそばで笑っていたが、めぐみと目が合うと真っ青になって狼狽えた。
「ねえ、これ、どういうこと? あんた、二度としないって言ったよね?」
「あ、あの、これは・・・」
「嘘つき! サイテーだよ、あんた。何様のつもり?
無理矢理、ノート押し付けて交換日記に付き合わせてさあ、苦手だって言ってるのに、絵まで描かせて。こうして、笑いモノにして隣の男子に媚びてるとか。
うっわ、気持ち悪いわ。そんなに男子が好きなら、男子の中に混じってればいいじゃん!
男好きでキモいわ! 二度と声かけるなっ」
「ひどいよ、西野さん。わたし、そんなつもりじゃ・・・」
太田が目をうるうるとさせるが、めぐみの気持ちは白けるばかりだ。
「ほっんと、サイテーな人間だな、あんた。そうやって泣けば済むと思ってるの?
ねえ、ごめんで済めば警察はいらないって知らないの? ああ、頭の中、男子のことしかないからわからないのか。
嘘つきだわ、泣いて誤魔化そうとするわ、謝りもしないわ。そんな性格だから、誰もあんたと交換日記してくれなかったんでしょ?
確かにあんたみたいな性悪とは誰も友達になりたくないよねえ、男子に媚びる道具にされるんだから」
「そ、そんな、ひどい・・・」
太田が派手に泣きだすが、めぐみの視線は険しくなるばかりだ。
「ひどいのはどっちだと思ってるのさ? 二度と、わたしに話しかけないでよ、ほんとに本気で気持ち悪いから」
太田がわあっと大泣きしてしゃがみこむが、誰もが遠巻きに見ているだけだ。めぐみは誰にも邪魔されることなく教室に戻った。
今度こそ、交換日記が終わって太田と縁が切れた、はずだった。