五話め
数日後にめぐみは去年のクラスメイトの田中に声をかけられた。
田中は四組で隣のクラスだ。三組のめぐみとは体育で合同授業になったりして、たまにグループを組んだりしている。
「ねえねえ、西野さん。
二組の太田さんからさあ、交換日記したいって声をかけられたんだけど、前に西野さんと揉めたらしいって、クラスの子が言ってて。太田さんを泣かせたって聞いたんだけど、ホント?」
「はあっ?」
思わず、めぐみは低い声がでた。きっと、漫画ならコメカミにブチっとキレそうなマークがでているはずだ。
「何、それ。あいつ、まだ懲りてないの?」
「え、何があったの?」
田中はめぐみの勢いに引き気味だったが、興味が優ったのか恐る恐る尋ねてくる。
「交換日記を断ったのにしつこく誘ってきて、無理矢理ノート渡されたんだよねえ。
仕方ないから、少しだけ付き合ったら、アニメキャラの絵を描けってしつこくって。描いたら、隣の男子に見せて『下手くそだ』ってバカにして嗤ってたんだよ」
「え、うそ! そんなことしたの?」
「信じられないなら、あいつのクラスで誰かに聞けば?
もうやめるって言ったのに、勝手に人の机にノート入れてきたから突き返したら、また人の絵をバカにしてたんだよ。今度は落書きして穴開けて黒板に貼りだされたのを嗤って見てて、ほっんと性格悪いよ、あいつ。
文句言ったら泣きだしたけど、昼休みで見てた人がいるから、誰か知ってる人がいるはずだよ。
あいつ、男子に媚びるのに人のこと利用してるんだよ。キモいわ」
「ええ〜。そんなことするようには見えないよ?」
田中は半信半疑のようだ。めぐみは興味なさげに見やった。
「信じないなら、好きにすればいいんでない? ただ、後からわたしと同じ目に遭っても知らんからね」
「・・・誰かに聞いてみるよ。信じないわけじゃないけどさ、ちょっとひどい話だから」
田中がそそくさと去って行って、めぐみは太田の無神経さに呆れて二度と関わらないと強く決意した。
瀬戸と佐藤に太田が懲りていない話をすると、二人とも本気で驚いた。
「うそお、図太すぎない?」
「うわあ、信じられない。そこまでするの?」
「わたしだって信じられないよ。あんなに派手に大泣きしておいて何考えてるんだか。絶対に噂になってるって普通はわかるよねえ?」
「わっかんないじゃないのお? 男子のことしか考えてない男好きだから」
「きっも! 金井とくっつけばいいのに」
「そのためにまた誰かを利用しようとしてるんじゃない?」
「最低最悪だわ〜。ほんと、瀬戸の言う通り、ぶりっ子でキモいねえ」
三人で言いたい放題していると、クラスメイトに声をかけられた。後ろに知らない女子がいて、案内してきたようだ。
確か、澤田だか沢村だとか言ったか。勝気な美人タイプの女子生徒で、二組だったはず。
太田と同じクラスだからなんだかイヤな予感がするが、全然面識がない相手だ。話したことが一度もないのに、一体なんの用なのだか。
「西野さん、この人が用があるんだって。じゃあね」
クラスメイトは澤田だか沢村をめぐみに押しつけてさっさと退散だ。とりあえず、めぐみが相手に向き直ると、ギンギンにきつく睨まれた。
「ねえ、あなたが西野さん?
あなた、ひどくない? 太田さんのこと、泣かせたでしょ」
「それがどうしたの? あんたに関係ないでしょ?」
めぐみは本気で相手が何を言い出したのかわからなかった。太田は自業自得で責められる覚えはない。
「関係ないって! 太田さんが可哀想じゃない。あなた、自分から交換日記を申し込んでおいて「あんた、バカじゃないの?」
はっ、と遮られた相手は目を丸くしている。めぐみはバカらしくなって冷ややかな視線を向けた。
「交換日記したいって言いだしたのは、あいつのほう。わたしは断ったのにしつこくされて無理矢理ノートを押し付けられたの!
あんなギラギラした趣味悪いノートなんかキモくてイヤだったし、被害者はわたしのほうなんだけど?」
「え、まさか! 太田さんはあなたからだって言ってたのよ?」
「嘘つきの言うこと信じるんだ? 頭悪いね、あんたって。
ノート見れば、どっちが嘘ついてるかすぐにわかるよ。最初のページに『引き受けてくれてありがとう』って、あいつが書いてるんだから」
「え・・・、うそ」
「疑う前にちゃんと見てきなよ」
澤田だか沢村は形勢不利とみて顔色が悪くなっている。挙動不審になりつつも、まだ信じられないのか、めぐみが悪いと決めつけているようだ。
「で、でも、泣かせたのは確かでしょう? 太田さんが可哀想じゃない!」
「かわいそうだって言うなら、あんたが代わればいいじゃん?」
思いきり、シラけた声で割って入ったのは瀬戸だ。
「あんたが西野の代わりに交換日記引き受けて、西野の代わりにダシにされて、金井にバカにされてやればいいじゃんか」
「え、何それ・・・」
「えー、知らないの? 太田がやったこと」
珍しく瀬戸がめぐみの名前をまともに言ったと思ったら、佐藤も参戦してきた。
「あいつ、西野に無理に描かせた絵を金井とバカにしてたんだよ、下手くそだって。しかも、その絵に落書きして穴まで開けてボロボロにして嗤ってたってさ」
「え、うそ・・・」
「ウソだって思うなら、あんたが代わってよ。わたしはもう太田が男子に媚びるのに利用されるのは真っ平だから」
「そうだよお、あんたが西野の代わりになればいいじゃん。太田がかわいそ〜なんでしょ?」
瀬戸がケラケラと嘲笑う。澤田だか沢村は口をぱくぱくさせたが言葉はでなかった。ぶるぶると唇を震わせてかろうじて叫んだ。
「な、何よ! 泣かせるなんてひどいことしたくせに!」
「あいつのほうがひどいことしてるけど? 泣かされた太田がかわいそうなら、あんたが代われば済むことでしょ?
大体、あんた誰よ? わたし、あんたが誰だか全然知らないんだけど?」
めぐみがそう言って瀬戸たちを見やると、彼女たちは二人揃って「「し〜らない〜」」と二重奏だ。
「も、もういいわよ!」
めぐみに不思議そうに見られて、相手はやっと退散した。
最後まで澤田か沢村かわからなかったが、面倒くさい相手だ。興味が全くない。二度と関わるなや、と塩を撒きたいくらいだ。
「二人とも助かった。あんがとねえ」
めぐみが二人に礼を言うと、二人とも苦笑していた。
「あんなのにはもう二度と関わり合いたくないからねえ」
「あいつもアホじゃん。相手にしないほうがいいよ」
「うん、そうだねえ」
めぐみも名前も知らない相手のことはもう関わり合いにならないと決めた。
変人エンカウント3・澤田か沢村
変人レベル4
無駄な正義感を発したお節介どころか、道化者。自分が正しいと思い込んでいるから、間違っていても自分の非を認められない。勘違いは誰にでもあるが、謝れないどころか逆ギレして相手に責任転嫁。
片方の言い分のみを丸呑みとか公平さはカケラもないのに、正義の味方ぶってて滑稽な人間。大事になったら、そんなつもりはなかったと言い逃れして『自分は悪くないと言いわけする』タイプだな。




