第四章 金曜日
第四章 金曜日
「審問」というものの実態を、俺は前日の夜、施設長の口から聞かされた。
「柔道場」と呼ばれる部屋に連れていかれ、施設長はそこで、俺が敗れた場合に何が待っているのかを、事務的な口調で説明した。詳細をここに書き記す気には、俺はまだなれない。ただ、それがどれほど非人道的な制度であるか、そしてこの国がそれを「合法」という言葉ひとつで正当化していることだけは、はっきりと理解した。
「時間は5分。それだけ耐えれば、あなたの勝ちよ。」
施設長は最後にそう言い残し、部屋を出ていった。俺はひとり、冷え切った柔道場の畳を見つめ続けた。中央の畳だけが、他と違う色をしていた。その意味を、俺は考えないようにした。
金曜日の朝は、いつもと変わらない静けさの中で始まった。
差し入れられた衣服に袖を通しながら、俺は自分の手が震えているのに気づいた。恐怖はもう、隠しようがなかった。だが同時に、俺の中には別の感情も芽生えていた。
──たとえこの先、何が起ころうとも、俺はこの制度の異常さを、いつか必ず外の世界に伝える。それだけは、絶対に諦めない。
その決意だけを胸に、俺は柔道場へと足を踏み入れた。
そこから先の記憶を、俺はあまり詳しく語ることができない。いや、語りたくない、というほうが正しい。ただ、断片的に覚えていることだけを記す。
大勢の視線。歓声とも怒号ともつかない声。逃げ場のない空間。畳の感触。そして──俺の中で何かが決定的に壊れる音。
気がつくと、俺は自分の部屋のベッドの上にいた。時計は深夜を指していた。体の芯には、鈍い痛みと、言葉にできない喪失感だけが残っていた。
俺は声を上げて泣くことすらできなかった。ただ、天井を見つめたまま、長い時間そこに横たわっていた。
あの制度は、俺という一人の人間の尊厳を、娯楽として消費した。俺が犯した罪は、確かに償われるべきものだった。だが、この国は「償い」という言葉を隠れ蓑にして、また別の暴力を、公然と、しかも合法的に振るったのだ。
──これは、更生でもなんでもない。
俺はその夜、暗闇の中で静かに誓った。
この制度の内側で何が行われているのか、俺はこの目で見て、この身で味わった。だからこそ、俺にはこれを告発する責任がある。同じ番号で呼ばれ、同じ屈辱を味わわされている、あるいはこれから味わわされるであろう、名前を奪われたすべての者たちのために。
翌朝、作業場で隣に立った初老の男が、小さく囁いた。
「……大丈夫か。」
俺はすぐには答えられなかった。だが、しばらくしてから、かすれた声でこう返した。
「まだ、終わってない。」
男は驚いたように俺を見た。俺は続けた。
「この施設から出る。ただ刑期を終えるためじゃない。この制度そのものを、外の人間に知らせるために。」
男はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……手を貸せることがあれば、言ってくれ。」
その日から、俺の中で漠然としていた決意は、はっきりとした計画へと形を変え始めた。




