祖父と信念
ーー私が13歳の頃、両親が出先の車に巻き込まれて急死した。
突然のことで頭も心も追いついていないうちに、母方の祖父が葬儀などの色々な手配をやってくれて、気づけば全てが終わっていた。
そもそも親族が少なかったので、祖父が私を引き取ってくれたのだ。
東京で暮らしていたが、田舎の山の方に引っ越すことになって、自分でももう笑うことを忘れてしまった。
幼いながら、もう笑ってはいけない気がして、感情を出したら崩壊してしまう気がして、どんどん感情の起伏が減っていったのを覚えている。
ご飯も食べずに寝転がる私に、祖父は何度も声をかけてくれた。
それでも私は食べなかった。
すると、三日目。
痺れを切らした祖父に首根っこを掴まれる。
「飯を食え!」
今思えばとんだ荒療治だ。傷ついている孫にする行動じゃないだろう。
無理やり食卓に座らせられ、目の前に具沢山の味噌汁と山盛りの白米が置かれた。
「じーちゃんが捕まえた雉の肉が入ってるぞ。雉は精がつく! たらふく食え!」
イラッとして、唇を噛み締めながら「絶対に食べるもんか」と思った。
そもそも雉ってなんの肉なの。そんなもの食べたことないし食べたくない。
そうやって意固地になっていたのに、味噌汁の匂いを嗅いだからか、グゥっとお腹が鳴った。
恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。
それを見て豪快に笑った祖父が、ガサツな手つきで頭を撫でた。
「わはは! 腹が減るっつーのは、体が生きたいって言ってんだ。ほいなら、飯食って、生きねば。ーー遥子、生きろ。」
優しい祖父の声色に、両親が亡くなってから初めて涙が出てきて、わんわんと泣く。
祖父の作ってくれた味噌汁も、炊いてくれた白米も、涙が出るほど美味しかった。
そこから、料理というものに興味が湧いたのかもしれない。
祖父は自分で小さな畑をやっていて、猟師でもあったから、本当にたくさんのことを教わった。
祖父は戦後の生まれで高齢だったから、私が新卒1年目の時に亡くなってしまったけど、祖父がいたから、今の私があるんだと思っている。
「私は……」
ポツリと言葉を漏らす。
「私は、ーー私の料理を食べた人が、明日も生きようと思えるような料理を作りたいと、思っています」
まっすぐと王妃様の瞳を見つめると、王妃様は片眉をあげ「へぇ」と面白そうに笑った。
「とても素敵だわ。では、そうね……。料理人であるあなたに、わたくしから1つ依頼をしていいかしら?」
「依頼ですか?」
王妃様は撫でていた頭から、そっと手を離す。
「あなた、食事で病を癒せて?」
そう言って、王妃様はその顔から今まで浮かべていた笑みを消した。




