表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/26

土下座と説得


 ゴクっと生唾を飲む経験を初めてした。

 控えていた先ほどの騎士が動く気配がして、咄嗟に膝をついて頭を下げる。


 これも人生で初めてした。ーー土下座である。


「どうか、お考え直しくださいっ」


 顔を上げると、王妃様は大きい目をますます開いて、虚を突かれたように瞬きを繰り返す。


「美食の国ロアナディアには、私を凌ぐ料理人など山ほどいらっしゃるはずです! 私の料理はただ目新しいだけで、まだまだ未熟な修行中の身。私はこの国の風習も文化もよく知りません。なので、王妃様に相応しくありません」


 一息に言い切ると、きょとんとしていた王妃様は、堰を切ったように笑い出す。


「ふふっ! 奇妙なポーズをしたと思ったら、あなた面白いのねぇ。私に跪いた殿方はたくさんいたけれど、レディにそんなポーズを取られたのは、私初めてだわ!」


 そう言って席を立ち上がり、土下座ポーズしていた私の両手を取って立ち上がらせる。

 控えていた騎士に席を用意させ、そこに私を座らせた。


「まず、相応しくないと思うデザートであれば、私はこんなことを言わないわ」


 そして、頭をゆっくりと撫でてくる。


「次に、わたくしはあらゆる美食を食べてきたけれど、あなたの作るクレープシュゼットや、噂に聞くクリームブリュレを初めて知った。わたくしはね、王妃として常に流行を作ってきたの。あなたのその独創性は流行を作るわ。伝統的な料理を作る優れた料理人なら、確かにいくらでもいるでしょう。でも、新しいモノを作れる料理人は少ない。あなたにはそれがある。わたくしはソレが欲しいのよ」


 その仕草はまるで母親のようで、そういえばこの人は一児の母だったことを思い出す。

 年齢はほとんど変わらないだろうに、不思議な気持ちだ。


「あなた、どんな信念をお持ちなの?」

「ーー信念、ですか?」

「その信念の先に、出世欲とか金銭欲とか、色々あるものでしょう?」


 そう問われて、少し考える。

 私の料理の信念とはなんだろうか。

 私はなぜ、料理の道に進んだのだろうか。

 目指す先とは?


 ふと、祖父のことを思い出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ