土下座と説得
ゴクっと生唾を飲む経験を初めてした。
控えていた先ほどの騎士が動く気配がして、咄嗟に膝をついて頭を下げる。
これも人生で初めてした。ーー土下座である。
「どうか、お考え直しくださいっ」
顔を上げると、王妃様は大きい目をますます開いて、虚を突かれたように瞬きを繰り返す。
「美食の国ロアナディアには、私を凌ぐ料理人など山ほどいらっしゃるはずです! 私の料理はただ目新しいだけで、まだまだ未熟な修行中の身。私はこの国の風習も文化もよく知りません。なので、王妃様に相応しくありません」
一息に言い切ると、きょとんとしていた王妃様は、堰を切ったように笑い出す。
「ふふっ! 奇妙なポーズをしたと思ったら、あなた面白いのねぇ。私に跪いた殿方はたくさんいたけれど、レディにそんなポーズを取られたのは、私初めてだわ!」
そう言って席を立ち上がり、土下座ポーズしていた私の両手を取って立ち上がらせる。
控えていた騎士に席を用意させ、そこに私を座らせた。
「まず、相応しくないと思うデザートであれば、私はこんなことを言わないわ」
そして、頭をゆっくりと撫でてくる。
「次に、わたくしはあらゆる美食を食べてきたけれど、あなたの作るクレープシュゼットや、噂に聞くクリームブリュレを初めて知った。わたくしはね、王妃として常に流行を作ってきたの。あなたのその独創性は流行を作るわ。伝統的な料理を作る優れた料理人なら、確かにいくらでもいるでしょう。でも、新しいモノを作れる料理人は少ない。あなたにはそれがある。わたくしはソレが欲しいのよ」
その仕草はまるで母親のようで、そういえばこの人は一児の母だったことを思い出す。
年齢はほとんど変わらないだろうに、不思議な気持ちだ。
「あなた、どんな信念をお持ちなの?」
「ーー信念、ですか?」
「その信念の先に、出世欲とか金銭欲とか、色々あるものでしょう?」
そう問われて、少し考える。
私の料理の信念とはなんだろうか。
私はなぜ、料理の道に進んだのだろうか。
目指す先とは?
ふと、祖父のことを思い出した。




