紅茶のシフォンケーキと要望
「もう、困るわ」
小サロンにいた王妃様はむくれた表情で、窓際のソファに腰掛けている。
「レオン様ったら、私になんの相談もなくヨーコを使うなんて」
そんな王妃様に、本日のおやつをお出しする。
「本日のデザートは、紅茶のシフォンケーキと、フルーツウォーターでございます」
王妃様が好んで飲んでいる茶葉を使ったシフォンケーキを小さめに切って、飲み水は煮沸したものを冷ましてから、ラズベリーやレモンやミントを漬けた、デトックスウォーターである。
「まあ! 今日もとっても美味しそうね!」
シフォンケーキは、1920年代にアメリカで作られたのが始まりだ。
デトックスウォーター自体が流行り出したのは、2000年代に入ってから。
元々古代ギリシャ時代に薬師が考案した「スウィッチェル」というものが起源らしい。
デトックスウォーターはその名の通り、老廃物の排出を助ける効果があるので、王様にもよくお出ししている。
「本当に茶葉の香りがたまらないわね。茶葉そのものを食べるのって新鮮だわ」
「別添えしております、生クリームとさくらんぼのジャムもつけてお楽しみください」
「あら、味わいが変化して素敵ね! このままじゃ太ってしまいそうだから少しおやつ断ちをしようかしら……」
悲しげに呟く王妃様だが、どう見ても細すぎるぐらいだ。
それによく動いておられるし、政務もなさっているから糖分も必要だろう。
私からしたらおやつを断つ必要はないと思うが、特にコメントせず脇に立つ。
「それで、例の聖女だけど」
綺麗に食べ切ったデザートのお皿は使用人が下げて、王妃様はナプキンで口元を拭いながら話を続ける。
「何を作るかはもう決めたの?」
「いいえ、まだです。ただ時間も少ないので早く考えないととは思ってるのですが。やはり教会の伝統もあるでしょうし、かと言って質素にしすぎても、もてなしとは違う気がしますし……」
「あの人はなんて仰ったの?」
「客人の素が見れる料理をご所望です」
「ふふ、なるほどね」
なかなか難しいお題に、ヨーコは頭を悩ませていた。
「あなたならパッと思いつきそうだけど」
「そんなことありません……」
万能人間ではないのだ。しかも今回は抽象的で悩ましい。
「人間の素が見られるときは、どんな時かご存知?」
「命の危機に立たされた時ですか?」
「ふふっ! それもそうだけど、“感情が揺さぶられた時”よ」
王妃様がそう言って人差し指を一本立てた。
「その中でも、ヨーコがいつもやっていることがあるわ」
「やっていること?」
「ええ。それは、私たちを驚かせること。驚きには、その人の素が出るのではない?」
目から鱗がポロっと落ちる。
そうかーーと呼吸を深く吸い、王妃様に微笑みかけた。
“驚き”という方向性が見え始め、私が何を作るべきか、決まった気がする。
「王妃様、お願いがあるのですが」
私の「お願い」を聞いた王妃様は、楽しそうに目を細める。
そして、準備やレシピの共有、日々の食事作りで目まぐるしく時間が過ぎ、あっという間に当日を迎えた。




