光の柱と大聖堂
王様が杖をつきながら歩けるようになってきて、しばらくのことだった。
昼間なのに一瞬空が暗くなり、強い閃光が空を白く染めた。
それは墜落してきたかのような激しさで、王都にある大聖堂に光の柱が落ちたのだ。
私のいる宮殿からもその様子は見えて、呆然と口を開ける。
え、今の何? 隕石? UFO?
だいぶ離れたところが光ったけど、流石に雷ではないだろう。
あの位置って何がある場所なんだろう?
「おい、あの位置って大聖堂のある場所じゃないか?」
「空が光ったよな⁉︎ 何が起きたんだ⁉︎」
「今は普通の空だけど……天変地異の前触れか?」
厨房のメンバーも、突然の異常現象にパニックになっていた。
厨房だけでなく、宮殿全体が騒がしくなり始め、騎士たちもバタバタと駆けて行くのが見える。
それを横目に見ながら、配膳車を転がして、書斎へと向かった。
王様は、まだ疲れやすさは残っているが、ピーク時よりはだいぶ体調がいいらしく、起き上がれるようになってからは少しずつ政務を再開し始めたらしい。
なので最近では、書斎でお食事を召し上がるのも増えた。
食事の内容も最初の頃とはだいぶ変わり、今では栄養面は気にしているが普通の食事を召し上がっている。
書斎に到着しノックをすると、なんだか中が騒がしい。
室内には、王様と側近たちが集まって何やら話し合いをしていた。
私は軽く会釈をして、窓側の小テーブルに今日の食事を配膳する。
料理を並べながら、会話が断片的にだが、耳に入ってきた。
「ーー聖女だと?」
「はい、緊急報によりますと、大聖堂に光の柱が落ち、祭壇に少女が現れたそうです」
この国の宰相であるフィリップ・モンヴァル卿が、早馬から届いた報せを読みながら、眼鏡のブリッジを上げる。
「教会側はその少女のことを“聖女”と呼んでいるとか」
話に聞き耳を立てながら、先ほどの光と“聖女“の単語に、ピタッと動きが止まった。
もしかして、これが乙女ゲームの物語の始まりなのでは?
野村さんは物語が教会から始まるから、神官長の息子が1番好感度が上げやすいって言っていたけど、今頃始まっているのだろうか。
「ふむ、ーーヨーコはどう思う?」
思考を明後日の方に飛ばしている時、ふいに王様に名前を呼ばれ、反射で背筋を伸ばす。
「は……、私ですか?」
なぜ私?
訝しんでいると、周りの側近たちも訝しげに見てきた。
おそらく私の存在に気づいていなかったのだろう。
「陛下、この者は?」
「ああ、名はヨーコと言うそうだ。だいぶ前にアデルの専属料理人として来て、今は余の食事を作ってくれている」
「なんと……。では、あの料理人が、この女性……というわけですか」
「しかし陛下、なぜ彼女にそのようなことを尋ねられるのですか?」
至極当然の疑問を、騎士団長らしき人物が尋ねる。
「この報せには、突然現れた聖女は“黒髪黒目”だと書いてある。この国で、このような色を持つ者はほとんどいないと言っていい。ここにいる料理人、ヨーコを除いてだが」
その王様の言葉に側近たちはハッとする。
室内の視線が集まって居心地の悪さを感じながら、とりあえず口を開いた。
「……その、教会に現れた少女についてはお会いしたことがないので、なんとも……。対面できればまだ少し何かはわかると思いますが」
「それもそうだな。同胞人だとしても、会わぬことには始まるまい。どうせ近日で教会側から謁見の申し出が来るだろう。ヨーコ、その時に同席を頼めるか?」
実質断れないのだから、その言い方はずるいと思う。
まあ、そんな心情はおくびにも出さず、「もちろんです」と返事をした。
「そうだ、どうせなら会食の席でも設けるか。ヨーコはコース料理も作れるか?」
「あ、はい。可能です」
「今回は小規模で行うゆえ、少ない品数で構わない」
「どのような内容にしたいか、ご希望はございますか?」
「そうだな……客人の素の表情を見れる、そんな料理がいい」
「……承知しました」
それから数時間後、本当に教会側から謁見の申請が届き、会食日は5日後となった。




