デザートとお礼
午後のティータイムの時間に、完成したパンナコッタを王様の元へ届ける。
材料はシンプルだが、蜂蜜でまろやかな甘さを足した。
「これは?」
王様が、不思議そうな顔をして、デザート皿を覗き込む。
「こちらはきな粉のパンナコッタ、蜂蜜がけでございます。つるんとした喉越しなので、召し上がりやすいかと存じます」
「甘いものか! これは初めて聞くデザートだな。ははっ、まさかデザートまで食べられる日が来るとは……どれ」
スプーンで掬うと、ぷるんと本体が揺れる。
「ほお、面白い。プディングは食べたことがあるが……」
「こちらは卵を使っておらず、材料は牛乳ときな粉、ゼラチンと蜂蜜で仕上げております」
「きな粉とは聞き慣れぬな」
「私の国では食べ親しまれている、豆を粉上にした食材でございます。タンパク質が豊富で整腸作用や貧血予防にも効果があると言われています。香り高いので食べやすいかと」
口に運んで咀嚼した後、王様は驚いた顔をした。
「おお、つるんと溶けてなくなった。この不思議な風味が大豆なのだろうか? 確かに食べやすい」
すると、王妃様が侍女を伴って寝室を訪れる。
「あら、それは何?」
「王妃様、こんにちは。こちらはパンナコッタという牛乳で作ったデザートです」
「初めて聞くわね。わたくしも食べてみたいわ」
「でしたら王妃様。お先に、先日王妃様がご所望していた、クリームブリュレを提供してもよろしいですか?」
「……ああ! そういえば食べ忘れていたわ。そうね、そちらからいただこうかしら」
「では、すぐにお持ちいたしますね」
厨房はそこそこ距離があるので小走りに廊下を進み、必要なものを用意して、焼きごてが冷めないうちに配膳車を押す。
扉の前で一度息を整えて、寝室に用意されている机の前に腰掛けた王妃様の近くまで持っていく。
その向こうでは、パンナコッタを食べ終わった王様が、こちらを見ていた。
「それでは今から仕上げます」
危ないので距離を図りつつ、まぶした砂糖に焼きごてを押し付けると、ジュワアアアと砂糖の焼ける音がして、香ばしい甘い匂いが広がった。
「まあ、甘い良い匂いね」
「今はまだお熱いので、どうぞ紅茶を楽しみながらお待ちください」
溶けた砂糖が薄い膜をはるまで待機する。
「そちらも、とても甘美なデザートなのだろうな」
「はい、こちらには生クリームと卵と砂糖が多く使われています。王様のお身体の調子がもう少し安定しましたら、またお作りします」
「そうか。次の楽しみができたな」
王様が親しげに微笑んだ。そう言ってもらうのは料理人冥利に尽きる。
しかし、この王様は全然偉ぶってないし、とても良い人な感じがする。
人格者と言うのだろうか。全盛期はさぞイケメンだったのだろう。
美男美女カップルでお似合いだ。
冷めたクリームブリュレを王妃様に出して、スプーンで表面を割るように教えると、パリンと割った瞬間「自分で割るのも面白いものね」と微笑んでくれた。
「話題になっているだけあるわ。コクが滑らかで、香ばしくて、さっき割った部分には新しい食感が重なって、噛むとサクサクして楽しい」
お気に召していただけたようで何よりだ。
「プディングに似ているのね」
「そうですね。ですがこちらの方がより濃厚なお味だと思います」
「ええ、それだけで高級感があるわ。良いわね、これ」
紅茶と合わせてスイスイ食べ進めていき、ココットはあっという間に空になる。
王様は少し疲れたのか、このままお休みになるらしく、私は王妃様とともに退室した。
下し止めで止めていた分は下剤で出せたので、あとは無理に下剤を投薬せず、自然のまま排出を促す予定だ。
そのためすぐに変化は出ないと思うが、徐々に鉛が抜けて行けばいいと思う。
もちろん献上されたワインは倉庫に多く眠らせたまま、廃棄処分となった。
あの量からみるに、相当な量を献上されたようだ。
王様はきっとお酒が好きなんだろうな、と思った。
「ありがとう、ヨーコ」
「……えっ」
突然のお礼に反応が遅れる。
「あの人が食事をすべて召し上がる姿も、微笑む姿も、久しぶりに見たわ」
「……ありがとうございます。ですが、王様本人の頑張りが、一番大きいと思います」
「そうね。でも、感謝しているわ」
そうして1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、
固形物も3割から5割、7割と増やして行き、食べられる量もだいぶ回復してきた。
入浴で発汗を促し、利尿作用や整腸作用のあるもので排出を助け、の繰り返し。
3週間経った頃から、徐々に歩くリハビリが始まったので、筋肉の助けになるようなメニューも追加した。
その様子に宮廷医も宮廷料理人も、誰もが少しずつ、遥子の存在を認め始めたのだった。




