献上品と中毒
18世紀のヨーロッパ。人々、特に貴族たちを苦しめた病ーー「鉛中毒」。
かのモーツァルトもこの病にかかっていたのではないかと言われている。
モーツァルトが好んで飲んでいたワインに使われている甘味料に、鉛が混ざっていたのだ。
学校の授業で習った食中毒や食材を通した病の歴史が、こんなところで役に立つとは!
授業とは受けておくべきである。
ーーということは、やはりこのゲームの時代背景は1800年代ごろをモデルにしているのだろう。
そんなことを思いながら、これから自分のやるべきことを考える。
鉛中毒であれば、とにかく排出をしなければ。
下し止めは逆効果で、なんなら下剤の方が必要だ。
ただでさえ辛いのに飲んでくれるかは謎だし、これで違かったら私の首は飛ぶだろう。
問題はこの時代に「特効薬」がないと言うことだ。
「王妃様。私に、王様の命を賭けられますか?」
台詞にするだけで、口が震えそうだ。死神の鎌が首にかかっている心地である。
王妃様は口をポカンと開け、王様は片眉を上げる。
「ヨーコ、恐れ多いわよ」
「ーーよい。申してみよ。もはや宮廷医ですら匙を投げ、死に行く身。王妃の料理人が何をするつもりか聞いてみたい」
王妃の言葉を止めるように、王は絶え絶えに言葉を紡ぐ。
進んでも死。進まずとも死。ならば、進むしかない。
「王様。数ヶ月前に何か特別なものを摂取しませんでしたか? 例えば、甘いワインとか」
「ワイン?」
ピクリと反応をみせる。王妃様も思い出したかのように呼応する。
「まさかそのワインが原因とでも言いたいのかしら?」
「そのまさかです」
今まで症状が出ておらず、数ヶ月前に緩やかに出始めたのだとしたら、常日頃使っていた食器を変えたか、白粉を変えたか、いつもは飲まないワインを飲んだか、だと推測する。
「食器や白粉、ワイン。この中でいつもと違うものを使いましたか」
「なに? それの一体何に共通点があるって言うの?」
「ここでは分かりませんが、私のいた国では、これら3つには共通点がありました」
「……それって?」
「鉛という成分です」
「ナマリ?」
「はい。でも王妃様に症状が出ていないとすると、食器や白粉は違うと思ってます」
そう問うと、王様は何かを考えるようにして、重い口を開く。
「確かに、数ヶ月前、外交でその国のトップしか飲めないと言われている、最高級のワインを献上された」
外、交……。え、国際問題になる? でもそんなの私知らないし。
外交で鉛ワインを貰ったとするなら、その製造元の他国ではきっとこの病が蔓延していることだろう。
逆に言うと、この国では貿易で仕入れない限り、まだ鉛が蔓延していないと言える。
一番トップが先に患ってしまうとは、なんという皮肉だろうか。
「まさか、他国の大使が王の暗殺を試みたと?」
「いいえ、そうではないと思います」
王の疑問を否定する。
「恐らくですが、他国の貴族や王族も、王様と同じ病になっていると思います。しかし、彼らは原因が鉛であるとは思っていないでしょう」
「……なら、なぜ君には分かる」
「私の国でもかつてあったからです。これは原因になる鉛を含んだ物質を摂取しなければかかりません。そして、おそらく王様の体内には、鉛が蓄積されている状態だと思います」
王様も王妃様も静かに耳を傾けてくれていた。
「鉛中毒が出た場合、症状は激しい腹痛、食欲不振や貧血、頭痛や疲労感に神経障害、そして分かりやすいのが青線と呼ばれる歯茎にたまる青黒色です」
症状に心当たりがあるからか、鏡で確認したいと言って、自分で歯茎を確認していた。




