パン粥とバートンライン
ここはゲームの中だから、史実とは全く関係ないかもしれない。
しかしここの時代背景が1800年代だとすると、コレラやペスト、チフスなども流行っていただろう。
「少しお体に触れてもいいですか?」
「ええ……」
王様を近くでみると肌が青白い。
指先も冷たく、貧血の症状があるなら、と下まぶたを優しく引っ張ると、白くて血の気がなかった。
「他に、どんな些細なことでもいいんですけど、症状はありますか? いつもと違う、みたいな」
何ヶ月も前から出ている症状だと、もう記憶も薄れているかもしれない。
それでも王妃様は顎に手を当てて、過去の記憶を遡っているようだった。
「そうね……、頭が痛いとも仰っていたけど、あまりにもお辛いからか、最近はお怒りになっていることが増えたわ」
それだけの痛みがあるなら、イラついてしまうのも仕方ない気がする。
「とにかくお腹を下してらっしゃるので、医者は下し止めの薬を処方していたけど、あまり効果はないみたい」
「……とりあえず、まだ原因は分かりませんが、王様が起きているときに消化が良くて栄養が摂れるものからお作りして出しても良いでしょうか?」
「それはもう宮廷の料理人がやっているわ」
ちょうど夕餉が運ばれてきて、メニューをみるとパン粥のようなものだった。
少しだけ鶏肉と人参が刻んで入れてある。
「レオン様、レオン様」
王妃様が少し揺すって、控えめな声で王様を起こす。
瞼が震えた後、ゆっくりと王様の目が開かれた。
今ではやつれ切っているが、壮健なときはかなりのイケオジなのだろう。
「夕餉を少しだけでも召し上がらないと」
「っ……あぁ」
枯れた声で相槌しながら、王妃様に支えられ体を起こす。
枕を背もたれに息を吐いて、震える手でスプーンを握った。
ーーたぶん、神経障害が出ている。
このまま意識障害が出始めたら、もう取り返しがつかないかもしれない。
「ん? 君は……、誰だね……?」
寝室にいる異質な存在に向かって訝しげに尋ねる。
王妃様が代わりに「今日から私専属の料理人になったヨーコですよ」と簡潔に答えた。
王妃様の行動にはあまり関与していないのか「そうか」とだけ呟く。
そのまま王妃様が震える手を支えて、パン粥を食べさせようとした。
王様は促されるまま、口を開ける。
その時、一瞬見えた“色“に思わず駆け寄った。
「えっ、どうしたの、ヨーコ」
「もう一度」
「え?」
「王妃様。もう一度食べさせてください」
私の気迫に押されたのか、王妃様は何も追求せず王様の口にパン粥を運んだ。
王様はもう何も言う気力がないのか、再びされるがまま口を開ける。
やはり、見えた歯と歯茎の隙間が、青黒く変色していたのだ。
今までのキーワードが線で繋がり始めた。確定ではないが、可能性はある。
もうとにかく私はこれに賭けるしかない。




