未知の病と推測
「では、これ、お願いします」
私が騎士に渡したのは1通の手紙。
本当なら面と向かってお別れを言いたかったのだが、すぐには行けそうもないので、この場で紙とペンを用意してもらい、急いで手紙を書いたのだ。
こんな私を拾って衣食住を与えてくれたこと。お世話になったお礼と、これからは王妃様の元で働くことになってしまったこと。時間ができたら必ずまた顔を出します、と文末を締めた。
「ああ。必ず届けよう」
そう言って、私をここに連れてきた騎士は、部屋を後にした。
それを見送ってから、病床に臥せっている人は誰かと王妃様に尋ねる。
王妃様は他の使用人を下がらせてから、口を開いた。
「この国の王よ。レオン・オーギュスト・ド・ベルモン国王。王国の名医もついには匙を投げたわ」
まさかの王様の名前が出てきて驚く。
野村さん、ゲームに王様が出てくるなんて言ってたっけ?
あんまり記憶にないけれど、もしかして病に臥せってたからゲームに出てきてないのかな?
「私は医者じゃないので診断はくだせませんが、王様の様子を見ることはできますか?」
「あなたに診断を期待しているわけじゃないわ。そうね、本来であれば気軽に謁見できるような御方ではないけれど、王妃権限で許可しましょう」
そうして使用人に馬車を出させてまた十数分走った頃、最初に通った大きな宮殿に到着する。
その宮殿の中央に寝室があり、そこへ向かう。
王妃様が廊下を歩くと、それに気づいた貴族たちが頭を下げる姿が圧巻だった。
寝室の前に控えている護衛が王妃様に敬礼し、扉をそっと開ける。
まず寝室が大きすぎて驚く。入り口から遠く離れた窓のそばに、王の寝床があった。
「レオン様、アデルが来ましたよ」
王妃様がその手を握るが、眠っているのか反応がない。
素人目に見ても、状態が悪かった。
学生時代に「病院研修」というものに参加し、病院食の献立の作り方や実際の調理、配膳まで行う時間があった。
何度か出入りをして思ったが、死期が近い患者さんの部屋は、配膳で入るときに独特の臭いがする。
この寝室は広くて空気が薄れているが、目の前で横たわる王様からは、似たようなものを感じた。
これは料理以前の問題なのではないか。
自分の死が頭をよぎり軽く絶望したが、ネガティブな考えを打ち払うように首をふる。
私の知識はどこまで通じるのだろうか。
今まで習ってきたことや体験してきたことを総動員させる。
「今は眠ってらっしゃいますが、起きているときはありますか?」
「ええ、起きていることには起きているけれど、起きているときはとてもお辛そうよ」
「病だと気づき始めたのはいつ頃ですか」
「そうね。数ヶ月前から腹痛を訴えていて、食事の量が減っていったの。疲れやすくなったと仰っていて、歳かななんて笑っていたのだけれど、みるみるお力を無くされて」
歳と言っても40歳そこらだろう。この国の平均寿命は知らないが、老化現象が来るには早い。
「腹痛……、変わったものを食べたりはしましたか?」
「いいえ。食事はいつも通り宮廷料理人が作るものを召し上がっていて、変わったようには思えなかったわ。わたくしも同じものを食べていたもの」
「感染症、ではないんですよね?」
「発熱がないのでおそらく違うと医者は判断していたわ」
「他に変わったことはありますか? 行動とか」
「そうね……。まだご自分で歩いていらしたときは、息切れをしていたかしら。たまにフラフラしていたので、わたくしが支えて散歩に出る日があったぐらい」
腹痛、食欲減少、疲労感、貧血、か。
でもこんな症状の病気なんて山ほどあるし、決定打に欠ける気がする。
王妃様も同じものを食べていて問題ないなら、食中毒の線は薄い。
王様だけに症状が出るとするなら、アレルギーを疑うが、発疹や呼吸困難の症状がないのでそれも違う。
宮廷にありそうな原因で言うなら毒殺?
しかし王様ぐらいの人間に毒味役がいないわけがない。
万が一毒殺なら、私にできることはひたすら代謝を高めて排出を促すだけ。
しかし毒であるなら、医者のほうが詳しいから分かるはずだろう。
ーーでも、この時代ではまだ未知の病だとしたら?




