交渉と切り札
ほら、これだ。いつまでを人を試すような言動をする。
ゲームの中の王妃は悪役と言われていたけれど、私は実際に王妃様がどのような行動をしていたのかは知らない。
想像では、性格の悪いお局みたいな感じかな、と思っていたが、全然違った。
しかし、これは確かに、見る側によっては「悪役」で間違いない。
「王妃様」
「なぁに?」
「私は一介の料理人ですので、駆け引きは苦手です」
「ふふっ、そんな感じがするわ」
「つまり王妃様は、私に専属の料理人になってほしい。欲張るなら、病で倒れている誰かを癒してほしい。酒場には帰らないで欲しい。と望んでいるという認識で合っていますか?」
「ええ、そうね。話が早いわ。いい子ね」
「そして私は、専属の料理人になりたくない。癒せるかはわからない。酒場には帰りたい。そんな私を、王妃様は今、脅していらっしゃいますね?」
「あははっ! あなた、本当に駆け引きができないのね!」
面白そうに声をあげる王妃様を横目に、口内の渇きを潤すべく、紅茶を啜ってソーサーに戻す。
「なら、ヨーコ。あなたは私が何を脅しにしようとしているか、わかっているのではない?」
「……私の命、もしくは酒場の人達の命、でしょうか?」
「お利口さんだわ」
それは肯定だった。
その言葉を聞き、ついに観念する。
恩人の命を天秤にかけてまで、抵抗して何になるのか。
「王妃様。あなたは私を人として扱ってくださいますか」
「もちろんよ。わたくしそんな非道ではないわ」
「3つの条件を受け入れていただけますか」
「わたくしに条件を出すなんて強者ね。いいわ、聞きましょう」
「まず、私の命を保証してください」
「ええ」
「次に、酒場の人たちには手を出さないでください」
「ええ」
「最後、別れの挨拶だけはさせてください」
「もし私が聞き入れなかったら?」
私の全ての条件を聞き入れなかった場合、私にはどうすることもできない。
しかしーー
「私がこれまで会話した王妃様であるならば、そんなリスクは取らないでしょう。聞き入れなければ、私の料理の腕も、病人を癒す知識もすべて失くなるだけです。王妃様が仰いましたよね。己の価値を知れ、と。私はこの価値を交渉のカードにします」
震える指先を、テーブルの下で気づかれないように握りしめた。
そんな私をよそに、王妃様は今日一番の声で笑う。
ひとしきり笑った後、目尻に溜まった涙を拭って口を開いた。
「ーー最高だわ、ヨーコ。わたくし、あなたのような賢い子が好きよ」
いいでしょう、と呟く。
「全ての条件を飲むわ。他にも必要なことがあれば、わたくしに仰って。わたくしの望みを叶えてくれる限り、全てにおいて、あなたを尊重しましょう」
それを聞いて、遥子はやっと力を抜いた。
もしかすると突然なしにされるかもしれないが、とにかく今は王妃様の言葉を信じるしかない。
この瞬間から私は「王妃様専属料理人」となった。




