第68節 再開と聞きたいこと
もう少しみんな静かに出迎えたり話しかけたりはしてくれないものだろうか。
グラフォスは頬杖をつき、目の前に座りこちらをにやにやと見つめているトキトを不機嫌そうに見つめる。
「ごめんね、トキトのばかが突っ走るから止める暇がなかったの」
「まあいいですけど……」
ギルド全体から注目を浴びるほどの音量でトキトが話しかけてきた後、四人はギルドの中の丸テーブルに腰かけて、ギルド内からの注目からは逃れられていた。
「それで聞きたいことがあるんですけど」
「おう、俺もあるぞ!」
グラフォスが話しかけてきたところ、トキトはジョッキを傾けながらそう返答する。
ちなみにジョッキの中身に入っているのはオレンジジュースであって、決して酒ではない。
それなのにこのテンションの高さだというのだから恐ろしい。
それにしても聞きたいこととはなんだろうか。
「トキトさん、けがはもう大丈夫なんですか?」
「けが? ああ、あれならアカネが治してくれた時にほとんど治ってたしな。そのあとの記憶はあんまり覚えてないけど、今怪我してないんだから大丈夫だったってことだろう」
なんだその判断基準……。
「グラ君が気絶した後一番元気に動いていたのがトキトだからね。ほんとに体力バカなんだから」
「確かにそうだった気がする……」
「ばかとはなんだ、ばかとは!」
「褒められてるんですよ」
「そうなのか! シャルも素直じゃないな!」
シャルはきっと皮肉気味に言ったのだろうが、その口調は優しいから本当にほっとしていて、嫌味としては言っていないだろう。
「そんなことよりシャルさん、グラ君ってなんですか?」
「え、なんかあんな戦いを一緒にしたからもっと仲良くなってもいいかなと思って」
「名前の呼び方でそんなのは決まらないとは思いますが……」
「確かにそうだな……。二人とも俺らのことも呼び捨てで呼べよ!」
「だから名前で……」
「駄目だったかな?」
「駄目じゃないですけど……」
「よかった!」
「ちなみにアカネはなんて呼ぶんですか?」
「アカちゃん……?」
それはなんというか別の意味に聞こえるし、紛らわしいんではないだろうか。
そう思いながらアカネの方を見ると、アカネもなんだか複雑そうな表情をしていた。
「それはちょっとないか。アカネちゃんは短いから略す必要ないでしょ!」
「僕の名前に失礼ですよ」
まあそれほど名前に執着があるわけでもないので、何と呼ばれようが別にかまわないが。
そんなことよりもこうやって落ち着いて話していると他に聞きたいことがあるというのに、つい横道に話題が逸れていってしまう。
「それより、僕とアカネが目が覚めたとき二人は近くにいなかったみたいですけど、どこにいたんですか?」
「ああ、あれな……」
「あれねえ……」
シャルはともかく珍しくトキトも顔をしかめてばつが悪そうな表情を浮かべている。
「あの時魔物が入ってこないか監視をしてたでしょ? トキトが体を動かしたいって言って、あの偽集落の外に出て行っちゃったのよね」
「そこでたまたまあの女を見つけて危ないから声をかけようとしたら、魔物をけしかけられた」
「それで二人に声をかける間もなく、戦闘していることに気づいた私が助けに入ったってわけ」
トキトが顔をしかめているのはバツが悪いからではなくて、けしかけられたことに対する不満を思い返して顔をしかめているだけっぽかった。
「まあそれなら仕方ない……ですかね」
「そうだよね」
「トキトが突っ走らなきゃあの子と遭遇しなかったし、最初からあの戦いは回避できたかもしれないから、申し訳なかったとは思うけどね」
「まあ最終的には間に合ったしいいだろ!」
トキトは楽観的だが、シャルは意外と気にしているようだ。
確かにシャルの言うとおり、トキトが森に出ておらずネオと遭遇していなければ、ネオとの戦闘はもっと楽なものになったかもしれない。
しかしそれはすべて結果論だし、さすがに体操がてら森の中に走りに行ったら人、しかも敵と遭遇するなんてことはあまり想像つかない。
まあ体を動かしたいから安全な場所から離れるという思考回路は全く理解できたものではないが。
「トキトの言うとおり、なんとかなりましたしそんなに気にすることでもないですかね」
確かにネオにぼこぼこにされたのは事実だが、逆に得たものもある。
もっと楽に押し切れる戦闘になっていたら、ネオは何も言わずに去っていた可能性がある。
少しでも新しい情報が拾えることはいいことだ。
グラフォスはそう思う。
「そういえばトキトが話したいことってなんですか?」
「ああそれな」
グラフォスが一番聞きたかったことは、なぜあの時二人がいなかったのかということだ。
特にどんな理由であれば怒ったりするつもりはなく、ただ単純な興味としてそれが知りたかった。
確かにアカネが言い渋った理由もわからなくはない。人づてに聞けば違った風な受け取り方をしてしまい、不満に思う人もいるかもしれない。
それよりもグラフォスの興味はトキトの話の内容に移行していた。
「俺たち四人でパーティを組まないか?」
トキトの口から飛び出した言葉は、グラフォスが想像もしていないものだった。




