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第67節 相談と報酬

「もしも僕がこの街を出て、世界を知る為に旅をしたいと言ったらどうします?」

「ついていくけど?」


 ギルドに向かう道中にグラフォスが何の気なしに聞いたその言葉に、アカネは迷うことなくそう返す。

 グラフォスはあまりのアカネの迷いのなさに驚き、目を見開いた。


「あ、いや、もちろんグラフォス君がよければだけどね!」

「森に行った時から思っていましたが、アカネは強いですね」


 何を勘違いしたのか慌てふためいているアカネの様子をグラフォスはほほえみながら見ていた。


 アカネと初めて会ったときはぼろぼろの状態だった。

 いつ死んでもおかしくないほどに傷を負っていた。


 アカネがこの街にたどり着くまでの話を聞いてよりそう思うのかもしれないが、森で、外でそんな目にあってもアカネはグラフォスが森に行こうとすれば、街から出ようとすればついてこようとしてくれる。


 本当なら家の中に、街に引きこもってもなんらおかしくはない。

 それなのに外は危険だと知っていても、ついてきてくれると言ってくれているのだ。

 それはグラフォスにとって、きっとアカネが思っている以上に心強いものだった。

 

 そんな話をしているといつの間にかギルドの前にたどり着く。

 重い扉を開けると、真っ先に目に入ったのはこちらに向かって駆け寄ってくるドリアの姿だった。 


「二人とももう大丈夫なの!?」

「はい、だ、大丈夫です」

「顔が怖いですから。そんなに焦らなくてもここまで歩いてこれてるので、元気ですよ」

「そっかー、よかった。……て顔が怖いって何よ! こんなに可愛い顔してるのに!」


 ドリアは焦ったような表情から一転、頬を膨らませて腰に手を当ててグラフォスを見下ろす。


「自分でかわいいって言ってたら世話無いですよ。それよりも、話聞いてたんですね」

「当然じゃない。トレントキングとジャイアントウルフ、しかも二体と遭遇するなんてそんなのだれが想定できるのよ……。あの時止めればよかったとどれだけ後悔したか……」


 トキトあたりがギルドに一部始終を報告してくれたのだろうか。 

 ドリアはグラフォスが思っている以上に、状況の把握をしていた。

 それであればそれほどまでに心配するのもうなずけるかもしれない。


 それでもギルドに入ってくるなり必死な表情で迫ってくるのは勘弁してほしいものだが。

 周りからの注目の視線が痛い。


「ご心配おかけしました」


 いまだうんうんうなっているドリアに向かって丁寧にお辞儀をしているアカネ。


「あ、ううん。ちゃんと帰ってこれたからいいのよ。そうじゃなきゃ私がミンネさんにぶっ飛ばされてただろうし」

「でしょうね」

「何を他人事みたいに……ごほん。それよりもグラフォス君、この間白金貨を見たいって言ってたわよね?」

「ああ、そんなこともありましたね」


 森に出向く前、アカネに金銭価値を教えるという口実でドリアに白金貨を見せてくれと迫ったことを思い返す。

 それもつい最近の出来事のはずなのに、それ以降いろいろなこと、具体的に言うと死にそうな目にあいすぎて、ずいぶんと前のことのように思える。


「二人ともこっちに来てくれる?」


 ドリアに連れられて向かったのは、なんてことないギルドの受付だった。


「ちょっと待っててね」


 そういうとドリアはギルドの奥の方に引っ込んでしまった。


「なんだろうね」

「さあなんでしょうね。お金に関係することなのは間違いないでしょうが」


 そうでなければ何の突拍子もなしに、あの件を口に出してくるとは思えない。

 ドリアが根に持つタイプで何回も言ってくるタイプにも見えない。 

 ドリアはすぐに戻ってきたが、特に何か増えているようには見えなかった。


「ドリアさん、あの……」

「はい、これ。今回の報酬」


 ドリアはそういうとグラフォスとアカネの方に手を差し出す。

 その手の上には噴水のような背景の前で手を合わせる男女の姿が彫られた白金貨があった。


「これってまさか……」

「これ1マラガですか?」

「そうよ」

「でも僕たちのは依頼として処理されないんじゃ……」


 グラフォスたちが倒したトレントキングとジャイアントウルフはギルドから出されている依頼とは別のもので、特に討伐依頼も出されていない。


 だから依頼報酬はないと思っていたのだが……。

 そういえば森の道中で出会ったトレントキングは討伐されたのだろうか。


「そうね、確かに依頼としては受理されていないから依頼達成の報酬というわけではないわ。でも討伐した魔石はまた別でしょ?」

「魔石……」

「そう。トレントキング一体とジャイアントウルフ三体分の魔石をしっかりと受け取っているから、全部合わせて2マラガ。トキトとシャルが1マラガ受け取って、残りはあなたたちの分よ」

「そういえばシャルさんがフラフラしながら、あの時集めていたような……」


 意外とちゃっかりしているシャルである。

 まあそれがあったから今こうして白金貨のマラガ貨幣とご対面できているわけだが。


「そういえば本来の討伐依頼はどうなったんですか?」

「ああ、それは他の複数パーティがちゃんと討伐してくれてるわよ。といっても話を聞く限りだと、グラフォス君たちがだいぶ弱らせてくれていたから達成できたといっても過言じゃないんだけど……。依頼達成の方針についてギルド長に文句言ってやろうかしら……」


 しかめ面をしてぶつぶつとドリアは何かを考え始めたが、どうやら本来討伐すべきだったトレントキングも討伐できたらしい。


「まあこんな街の近くにある森にユニークモンスターが二体も出るなんて考えられないから、グラフォス君たちが相対した人物の調査含めて、まだ森は警戒中だけどね」

「そうですか」

「そ。それよりも念願の白金貨を見た感想は?」


 そういいながらドリアはグラフォスに白金貨を手渡す。

 白金貨は金貨よりも一回り大きな円形で、感覚的に金貨よりも少し重いくらいだった。


「まあ……思ったより普通でしたね。特に思うことはそれくらいです」

「き、きれいだよ!」

「グラフォス君らしいというかなんというか……アカネちゃんも大変ね」


「おーい、グラフォス! やっと起きたんだな!」


 グラフォスが冷静に白金貨を見つめ、アカネが慌ててグラフォスの発言をフォローをしていて、ドリアがその様子を呆れたように苦笑いを浮かべている変な構図が出来上がっていた。


 そんなグラフォスたちに向かって声がかけられる。


 声がした方に振り返るとギルドの扉を大きく開け放ちながら、手を振っているトキトと、その後ろで申し訳なさそうな笑みを浮かべているシャルの姿があった。


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