第22話 共闘作戦
頭上の黒竜が再び巨大な顎を開き、先ほどを上回る灼熱の威圧を溜め込み始めていた。
私は血を流して動かなくなったユリアン様を抱きかかえたまま、ただ茫然自失と空を見上げていることしかできなかった。意識が白く霞み、何も考えられない。
「クソッ、またかよ……!もう俺の魔力じゃ、あんなブレス止められる自信ねえぞ!」
ノア君が血の滲む唇を噛み締めながら叫ぶ。
「空の上から攻撃しやがって!地面に降りてくれば、俺の剣で一刀両断にしてやるのによ!」
レオン様が怒りを爆発させ、剣を握り直した。
「地面に落とせば倒せるんだな?」
カイル様が静かだが力強い声で問う。
「分からねぇが……俺の全魔力を込めてぶった斬ってやるよ!」
「よし、なら僕に任せろ。……ただ、まずはあのブレスをどうにかしないとね」
「ブレスは僕が何とかしましょう」
フェリクス様が前へ歩み出ると、彼の足元から深々とした漆黒の影が不自然に伸び始めた。
「?何だ!?風魔法じゃないのか!?」
レオン様が驚愕の声を上げる。
「僕の本当の属性は闇です。あまり知られたくはなかったのですが……言っていられる状況ではありませんからね!」
フェリクス様の手から放たれた闇の影は、触手のように一直線に上空へ向かって伸びていった。影は大蛇のようにエンシェントドラゴンの巨体に絡みつき、そのまま力任せにその巨大な顎を締め上げ、口を開けないように固く縛り上げた。
「おおっ!これであのブレスは出せないな!」
「ですが……そう長くは持ちませんよ!」
口を封じられたドラゴンが悲鳴のような唸り声を上げ、空中でもがき狂う。背に乗っていたヴェロニカ様も落とされまいと必死にしがみついた。
「くっ!こんな影くらい引きちぎりなさい!それでもドラゴンなの!?」
「ナイスだ、フェリクス様」
カイル様が両手を前に掲げ、身体中の魔力を放出させる。風魔法と水魔法を高度に複合させると、彼の周囲にバチバチと凄まじい紫色の電撃が発生した。
さらに土魔法を同時に発動し、空気中に二本の長いレール状の物質を生成。その隙間に、同じく土魔法で作り出した弾丸のような金属塊をセットする。
「エンシェントドラゴン。お前の時代には無かったものだ。レールガン!」
バシィィィィンッ!!!!
耳を裂くような重爆音が響き渡り、電撃を帯びた弾丸が目にも留まらぬ超高速で放たれた。
弾丸は一直線にドラゴンの翼の根元を貫き、片方の巨大な翼が肉飛沫とともに胴体から綺麗に切り離された。
「グアァァァァッ!?」
バランスを失ったエンシェントドラゴンは、空中を旋回することもできず、そのまま重音を立てて地上へと墜落した。
ドカァァァンッ!!
激しい土煙が舞い上がる中、地上へ叩きつけられたドラゴンと、必死にしがみついていたヴェロニカ様がいた。
「待ってたぜ!ドラゴン野郎!!」
全身に魔力を込めて身体強化を施したレオン様が、真っ先に飛び出した。全魔力を流し込んだ大剣を頭上高く振りかぶり、落ちてきたドラゴンの首筋目掛けて一閃する。
ガキンッ!!
恐ろしい手応えとともに、剣が深々と首筋に突き刺さる。……だが、ドラゴンの強靭な皮膚と肉体に阻まれ、それ以上深くへ刃が進まない。
「グラァァァッ!」
ドラゴンが苦悶の絶叫を上げ、暴れ回ろうとする。しかしフェリクス様の影が即座に地表から伸びて全身を縛り上げ、カイル様も土魔法でドラゴンの足を岩盤に固定した。
「クソッ!魔力が足りねぇ……!もっと力を……っ!」
レオン様が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ダメです!これ以上魔力を注ぎ込めば、レオンさんが魔力暴走を起こします!」
フェリクス様が制止の声を上げた、その時だった。
「おい!!平民!!いつまでボーッとしてんだ!!」
ガシッと肩を強く掴まれ、激しく揺さぶられた。ノア君だった。
「っ……!?」
ハッと正気に戻り、目の前の凄惨な光景が視界に飛び込んでくる。
「アリス!レオンの魔力を引き上げてくれ!」
カイル様の叫びが届く。
「は、はいっ!」
私は弾かれたように立ち上がり、レオン様の背中へ両手をかざして光魔法を全開で注入した。
「おおおっ!これならいけるぜぇぇぇっ!!」
レオン様の手に圧倒的な力が蘇る。
「させないわ!!」
ヴェロニカ様が狂乱した様子で、レオン様へ向けて激しい火魔法を放とうとした。
しかしその瞬間――ヴェロニカ様の周囲に瞬時に強固な結界が展開された。放たれた火魔法は結界の内側で反射し、そのままヴェロニカ様自身へと襲いかかる。
「きゃああっ!?何……!?」
「てめえは大人しくしてろ……!」
ノア君が最後の気力を振り絞り、ヴェロニカ様を結界の中に閉じ込めていた。
「いけぇぇ、レオン!!」
カイル様の咆哮に応えるように、レオン様は限界を超えて身体強化を引き上げた。
「これで、どうだ!!」
ズザァァァッ!!
レオン様が大剣を引き抜き、渾身の力で一閃。咆哮を上げるドラゴンの巨首が、綺麗に胴体から切断されて宙を舞った。
どさりと音を立てて首が落ち、やがてエンシェントドラゴンはピクリとも動かなくなった。
……勝ったのだ。
レオン様、カイル様、フェリクス様、ノア君は一斉に魔法を解除し、その場に力なく崩れ落ちた。
「マジで……ドラゴンを倒しやがった……」
ノア君が虚ろな目で呟く。
「は、ははっ!だから言っただろ……ぶった斬ってやるって……」
レオン様は完全に力を使い果たし、大の字になって地面に倒れ込んでいた。
「あのエンシェントドラゴンを討伐できるなんて……思いませんでしたよ」
フェリクス様が荒い息を吐きながら肩を揺らす。
「封印から復活したばかりで……まだ力が完全ではなかったんだろうね」
カイル様が汗を拭いながら深々と息を吐いた。
「そんな……まさか、エンシェントドラゴンが倒されるなんて……。ゲームじゃ国が滅ぶバッドエンドになるはずなのに……っ!」
ヴェロニカ様が茫然と呟いていた。
「で……この女はどうするんだよ」
ノア君が不機嫌そうにヴェロニカ様を睨みつける。
「……!まだよ!魔力のない貴方たちくらい、私が殺して差し上げますわ!!」
ヴェロニカ様が立ち上がり、再び残された魔力で魔法を練り上げようとした、その時――。
彼女の足元から突如として太い黒影が這い上がり、一瞬で全身を締め上げて自由を奪った。
「なっ……!?なになに!?まだこんな魔力が……っ!?」
ヴェロニカ様は必死に抵抗したが、動くことすらできずその場に激しく倒れ込んだ。
「フェリクス、無事だったか」
静かに姿を現したのは、フェリクス様の従者であるミハエルさんだった。
「ありがとう、ミハエル兄さん。……残念でしたね、ヴェロニカ。ミハエル兄さんはただの従者ではなく僕の兄で、僕と同じ闇魔法の使い手なんですよ。ゲームとやらをおっしゃっていましたが……ご存じなかったのですか?」
フェリクス様が冷ややかに言い放つ。
「そんな……そんな設定知らないわよ!!放しなさい!!」
ヴェロニカ様が叫び散らす。
「ふう……一時はどうなることかと思ったが、何とかなったな」
カイル様が安堵の息を吐いた。……けれど。
「でも……っ!ユリアン様が……っ!!」
私は駆け寄り、冷たくなりつつあるユリアン様の傍らに膝をついた。
重い沈黙が、その場を包み込む。どんなに協力して敵を倒そうと、ユリアン様が命を落としてしまったという事実は変わらない。
「あははっ!ユリアンが死んでどんな気持ちかしら?……エリクサーでもあれば生き返ったかもしれないけれどねぇ!」
影によって縛られているヴェロニカ様があざ笑うような声を上げる。
「黙れよ……!おい、こいつの口も塞いでくれ!」
レオン様が不快そうに吐き捨てると、ミハエルさんは影を伸ばしてヴェロニカ様の口元を完全に覆い隠した。ヴェロニカ様は喋ることもできず、うめき声を上げている。
絶望に暮れる私の元へ、カイル様がゆっくりと歩み寄ってきた。
「……アリス。君の光魔法だが……それを使えば、何とかできるかもしれない」
「え……?私の……光魔法で……ですか?」
私は涙に濡れた顔を上げ、カイル様を見つめた。




