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気づいたら神々の戦いの中にいた件  作者: beck2026


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第2話:神々の大乱闘と、愛の美神の「誤算」

「――おい、だから、なんで俺がこんなところにいるんだって聞いてるんだよ!」

未だに神々の戦場のど真ん中で叫び続ける佐藤ケンタ。

その頭上では、雷神トールが振るう大ハンマーから放たれた放電が、まるで夜空を焦がすオーロラのようになって弾け飛んでいる。少し離れた場所では、軍神アレスが「我が矛にひれ伏せ!」と叫びながら、一撃で小惑星サイズの隕石を粉々に砕いていた。

一歩間違えれば、物理法則の余波だけで分子レベルに分解されそうな極限状態。

そんな中で、ケンタを背後(正確には、かろうじて張られた隙間だらけのピンク色の結界の中)に庇っているのが、ギリシャ神話の美と愛の女神――アフロディーテである。

「そんなに怒らないで、愛の使徒くん。人間界の男って、強気なところがまたチャームポイントだったりするし?」

「感心してんじゃねえよ! ここ、地球じゃないだろ!? 俺、さっきまで普通に残業帰りでスーパーの惣菜コーナーにいたんだぞ!」

「スーパー?」

アフロディーテは、完璧に整った整った眉をキュッと寄せ、首をかしげた。

「なにそれ、神々の新しいアリーナの名前? それとも、私に捧げるための新しい神殿の隠語?」

「ただの地元密着型の安売りスーパーだよ!! 豚の生姜焼き用肉が2割引で買えるんだよ!!」

話がまったく通じない。

いや、通じないどころか、アフロディーテの脳内では「この異世界の使徒は、何か壮大な試練を乗り越えて私の前に現れた神秘的な存在なのだわ」という方向に勝手に美化されて変換されているらしい。

「ふふ、いいわ。その『ぶたのしょうがやき』とやら、今度私にも奉納しなさい。きっとネクターに勝るとも劣らない甘美な味がするはずだわ!」

「奉納品じゃねえよ、俺の今夜の晩酌のメインだ!」

絶望的な状況なのに、目の前の女神がマイペースすぎてツッコミのカロリーが追いつかない。

ケンタは心の中で深く溜息をつきながら、自分の足元に転がっているビニール袋をそっと確認した。

中には、さっきアフロディーテに差し出したおこぼれ――ではなく、まだ無事だった**「特売の惣菜コロッケ(2個入り)」**が、パックの中でしっとりと油を滲ませて鎮座している。

「……待てよ」

ケンタの脳裏に、一つの仮説が閃いた。

周囲の神々は、お互いの権能や概念をぶつけ合って殺し合っている。周りにいるのは、人間を虫けらほどにも思っていない狂気の超越者たちだ。

そんな中で、なぜ自分はこのポンコツ美神にだけは保護されているのか?

(――こいつ、もしかして「人間界の食べ物(油と炭水化物)」に釣られてるだけなんじゃねえか……?)

「ねえ、アフロディーテ様」

「なぁに? 愛の使徒くん。そんなに私に愛を囁きたくなったのかしら?」

「囁かねえよ。あのさ……この結界、さっきから隙間風がすごくて背中がめちゃくちゃ寒いんだけど。もう少し出力上げてくれないと、俺は神々の争いに巻き込まれる前に、単純に低体温症と熱中症のダブルコンボで死ぬぞ」

アフロディーテは「あ」という表情をした。

「そうね、愛のバリアの出力調整、昨日の夜にネットフリックス観ながらやったから少し甘かったかも……」

「神様もサブスク観るのかよ! ていうか仕事しろ!」

「わかったわよ、ちょっと待ってね。ええと、愛の出力スイッチはどこだっけ……」

アフロディーテが両手を慌ただしく宙に走らせるが、彼女が焦れば焦るほど、周囲のハート型結界が「ピカッ、パチパチ……」と頼りなく明滅する。そのたびに、外側の軍神の攻撃の余波が「ゴォッ!」と容赦なく吹き込んできた。

「おい、消えかかるな結界! 今のはマジで髪の毛がチリチリ焦げたぞ!!」

「ちょ、ちょっと待ってってば! 私も今、全力を――」

「ほら、これやるから! だから出力全開にしろ!!」

ケンタは耐えかねて、ビニール袋からコロッケを1個取り出し、アフロディーテの目の前に突き出した。

ソースの染みた衣の香ばしい匂いが、殺伐とした神々の戦場にふわりと広がる。

アフロディーテの動きが、ピタリと止まった。

彼女は、じっとその茶色い衣を見つめ、ゴクリと小さく喉を鳴らした。

「……それ、は……?」

「神聖マニュアルの3ページ目だ! 早く受け取って、全力でバリアを張れ!」

次の瞬間、美と愛の女神の瞳に、神々しいまでの光が宿った。

「――承知したわ、愛の使徒くん!!」

ドォォォン!! と、戦場の地平線が大きく揺れた。

しかし、アフロディーテがコロッケ(に魅入られて)本気を出したその瞬間、ふたりの周囲を覆う「愛の結界」は、かつてないほどの眩いピンク色の光を放ち、神々のあらゆる攻撃を完璧に弾き飛ばし始めたのだった。

(……あれ? 俺、もしかしてこのポンコツ女神を手玉に取れば、この戦場を生き残れるのでは……?)

社畜としての生存本能が、奇妙な方向へとエンジンを全開にさせ始めた瞬間だった。

お読みいただきありがとうございます!


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