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転生ヒロインとレベルダウン無効スキル  作者: 相馬あさ
第一章 呪われた国のサムライ
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新たな任務(後編)

 廊下を歩きながら旅に必要な物のリストアップを頭の中でしていたら、後ろを歩いていた伊吹さんに呼び止められ、別の座敷へと連行された。夕陽さんがよく使っていた座敷だ。


 伊吹さんと向き合う形で俺と弥生さんが座らされる。


「健之助君のリンドラム帝国行きが決まりましたが、弥生には健之助君の護衛をしてもらいます」

「はい」

「俺が蓮さんの護衛なのに、その俺を弥生さんが護衛するんですか?」


 俺と弥生さんの二人を蓮さんの護衛に付けるなら分かるが、俺の護衛に弥生さんが付くのは変だと思う。


「健之助君。あなたはあなたで、リンドラム帝国へ到着したら弥生と一緒に世界を見て回りなさい」

「へ?」


 予想外の言葉に、俺は間の抜けた声を上げた。


 リンドラム帝国に付いたら、再び日ノ本へ引き返すと思っていたのに、弥生さんと一緒に世界を旅しろと言われても困ってしまう。


 何より、その言葉の真意が掴めない。伊吹さんは俺と弥生さんに何をさせるつもりだ?


「ど、どういうことですか?」

「理由は蓮さんと同じですよ。あなたは男なので日ノ本だと婿入りしか結婚の手段がありません。ですが、弥生は一振家の三女。結婚できる立場ではありません」

「えっ?」


 弥生さんは結婚出来ないと言われて、俺は先ほどの会話を思い出した。


 日ノ本での結婚は家が基準になっている。跡取りである伊吹さんには土地が相続されるが、華火(はなび)さんや弥生さんには何もないということかもしれない。であれば、二人はエラさんと同じように土地も家も持っていないことになるので、結婚出来ないということか。


 そういえば、華火さんが長女の伊吹さんが羨ましいと荒れていた時期があると聞いた気がしたが、あれはそういう意味だったのか。単純に恋人がいる姉が羨ましいという意味で受け取ってしまっていた。


「弥生の気持ちには気付いているでしょう? それに私から見て、君も弥生に少なからず好意があると思っています」

「そ、それは……まあ、その…………ありますけど」


 弥生さんが好きかと聞かれたら、それは好きだ。ここで照れて違うと言ってしまう事で弥生さんとの関係が変化して欲しくなかったので正直に答えたが、本音を言うと弥生さんが居ない場で聞いて欲しかった。


 伊吹さんに聞き出されるような形で俺の気持ちを知ってしまったからなのか、弥生さんは隣で黙って俯いている。顔は赤いので動揺はしているようだけれど、何と声を掛けたら良いかが分からない。


 俺はこんな形で気持ちを伝えたくなかったのだが、伊吹さんは眉一つ動かさずに平然とした顔で話を進めていく。


「それなら、君には国に認められるほどの功績をあげてもらう必要があります」

「……話が見えないんですけど?」


 外国を旅する次は功績をあげる必要があるなどと、伊吹さんは一体何を言っているのだろう?


「一から説明します」


 俺が説明を求めているのが目を見て分かったのか、伊吹さんが順序立てて説明を始めた。


 まずは、この国の置かれている状況の話。


 土地の呪いの影響で日ノ本の外へ出ると男女の力関係が逆転する関係上、日ノ本は守りに強いが攻めに弱い国になってしまっている。


 外国の情報にも疎いので使節を送りたいが、呪いの無い土地を女性であるサムライだけで行動するのは危険であり、誰も行きたがらないという。


 日ノ本の男性を外国の男性のように強く育てようにも、呪われた土地ではレベルアップもままならならず、将軍様は困り果てていたらしい。


 そこで偶然にも、一振家の娘が一人の男をどこからか見付けて来た。

 つまり、俺の話だ。


 強力なスキルや魔法を女性顔負けの速度で習得し、その気性も男性より女性に近く、松葉夕陽が戯れに鬼討伐をさせたところ、見事に中級鬼を討伐してみせた。


 その話を聞いた将軍は俺の事を使節として使えるのではと考え、男のサムライとして抱え込んで教育するように命じたという。


 話を聞いて、愕然とした。出来る限り関わりたくないと思っていた将軍様に、俺は最初から目を付けられていたのだから。


 考えてみれば、女性上位のこの国で、男の俺が簡単にサムライになれたのがおかしな話だったのだ。


 夕陽さんが面白がって俺をサムライにしてくれたのだと思っていたのだが、将軍様のちゃんとした命令で動いていたということらしい。


「――話は分かりましたけど……。じゃあ俺は、上様の命令で外国の視察に行くってことですか?」

「そうなります。そして持ち帰った情報が日ノ本に有益であれば、上様は健之助君に土地を与えると約束してくださいました」

「俺に土地を?」

「ええ。驚くほどに広大な土地です。領地と言っても良いでしょう。一振家の当主である私の母にこの話を伝えたところ、もしも本当に健之助君がその土地を得る事が出来た暁には、弥生を嫁に出すと約束してくださいました」


 弥生さんを嫁にという言葉が出て、俺の心臓はドクンと強く脈打った。

 一振家の当主から許しが出たのだ。それはつまり、条件付きの婚約と言っても良い。


「や、弥生さんを……嫁に?」


 隣に座る弥生さんへ顔を向けると、これまでに見たことが無いほどに赤面した弥生さんがそこにいた。

 耳まで赤く染めた弥生さんの潤んだ瞳と視線が交差する。


 結婚なんて、この前まで高校生だった俺には想像もできない話だ。俺はせいぜい弥生さんと付き合いたいとか、これからも一緒に過ごしたいとか、その程度の事しか考えていなかった。


 俺はここで頷いても良いのだろうか?


 そんな重大な話を、二つ返事で受け入れるほど俺は達観していない。


「結婚に関しては、今決める必要はありません。健之助君はまだ何一つ成していないのですから」


 伊吹さんの言葉で、浮付いていた俺の心が一気に引き戻され、頭が冷静さを取り戻していく。


 そうだ。結婚を許すのは、俺が土地を得る事が出来たらの話だ。そして、土地を得るには国に有益な情報を持ち帰らなければならない。

 それは並大抵の話ではなく、現状では夢物語と言っても良いほどに実現の難しい話だ。


「そういった褒美もある事を心の支えにして、この難しい任務に全力で取り組んで欲しいということです。理解出来ましたか?」

「……は、話が壮大すぎて理解の追い付かないところもありますけど、とにかく俺は弥生さんと一緒に外国を旅して、日ノ本のためになる情報を得て帰ってくれば良いんですね?」


 伊吹さんは軽く頷くと、真剣な目で俺を見据えた。


「そうです。やってくれますか?」

「上様に認めて貰えるほど有益な情報を持ち帰れるかは分かりませんけど、俺にしか出来ない仕事だって事は分かるので、やってみます」


 土地とか、結婚とか、先の事に悩むよりも、まずは目の前にある大仕事に集中しよう。


 初めての外国で、頼れるのは弥生さんだけという状況なのだ。二人で支え合って、知恵を絞りながら、外国の人々と交流して情報を集める。

 とても難しい任務だが、ここまで期待されてやらないなど言えるわけがない。


「あまり気負わなくても良いですよ。上様から土地を頂けなかったとしても、その時は蓮さんと同じような道を辿れば良いですから」

「いや、それは……」


 外国で弥生さんと共に暮らすという未来を示唆されているのだと分かり、俺は二の句が継げなかった。


 世が世なら一国の姫だったはずの一振家の娘さんを捕まえて、外国に駆け落ちなど出来るはずがない。俺は蓮さんほど無鉄砲ではないつもりだ。


「とにかくやってみます。ちなみにですけど、もしも上様に認めて貰えたら、俺はどの辺りの土地を貰えるとか決まっているんですか?」

「蝦夷という日ノ本の最北端に位置する巨大な島です。ほとんど人の住んでいない土地ですし、かなり極寒だとは聞いていますが、あそこは日ノ本で唯一呪いの無い土地ですから男の健之助君には適していると思いますよ」

「――っ!? え、蝦夷?」


 大きい土地だとは聞いていたけれど、俺の想像の100倍は大きな土地名出されて思考が止まりかけた。


 蝦夷って、北海道ですよね?

 そんな馬鹿でかい領地貰っても、運用しきれませんって。

 しかも、たぶんまだ開墾もされてないだろうし、将来性はあるけど現状の住み辛さはトップクラスだと思います。寒さで死にます。外国から仕入れる情報の最優先は暖炉とかの暖房器具だと今決めました。


「おや? フランメギド育ちの健之助君でも、蝦夷は知っていますか?」

「は、はい。知ってますけど……蝦夷には呪いが無いんですか?」

「1000年前は日ノ本ではなかった土地なので、妖魔族の呪いに蝕まれなかったのだと考えられていますね。リンドラム帝国の男性は日ノ本の本土へ上陸したがらないので、会談などをする場合は蝦夷で行っています」

「なるほど。でも、蝦夷を現在治めているサムライの家系があるんじゃないんですか?」


 日本で言えば、松前という家が治めていたのではなかっただろうか?


 詳しくは知らないけど、松前漬けの名前はそこから来ているはずだ。スルメと昆布と数の子などが入った醤油漬けで、俺はかなり好きな料理だ。


「あそこは将軍家の直轄地です。健之助君は上様から土地を与えられるのですよ」

「直轄地から与えられるって……もしかしなくても、かなり栄誉な事じゃないですか?」

「現代では有り得ないほどの栄誉ですよ」

「ですよね。でも、それだと逆に、全然期待はされていない感じですか?」


 出来なさそうだと思うからこそ、それだけ重要な土地を俺に与える約束をしたのではないか。そんな気がして尋ねてみたら、伊吹さんは渋い顔で頷いた。


「……そうですね。上様のお言葉をそのまま伝えるのなら、『日ノ本の男にそのようなことが出来るとは思えんが、もし出来たのなら蝦夷の地を与えてやっても良い』、とのことでした」

「なんか勢いだけで言ってません? 後から冗談だったとか言われそうですけど」


 どんな横暴も許される立場だと思うし、周りのサムライたちからしてみても、男の俺に蝦夷の土地なんて分不相応だと思われているだろう。


 功績を上げたとしても、何だかんだ理由を付けて取り上げられる気がする。


「どうせ出来ないだろうと思っているからこその言葉だと私も思いますが、上様は前言を撤回されるようなお方ではありません。健之助君が本当に日ノ本のためになる功績を上げた時は、渋々ながらに約束を守って下さると思いますよ」


 伊吹さんの言葉から、将軍様に対する信頼が感じられたので、俺はそれ以上の追及を止めた。

 今はその褒美が貰えることを信じて、任務にあたるだけだ。


「分かりました。日ノ本のためにも、頑張ってみます」

「……姉の私としては、そこは弥生のためと言って欲しいところですね」


 痛いところ付いて来る。

 けれど、そういった歯の浮くようなセリフは俺のガラじゃない。


 弥生さんとのことは、一緒に外国を旅しながら、じっくり考えたいと思う。


「ともかく期待しています。出発まで時間もありませんから、二人には三日後まで暇を与えます。長旅の準備をしっかりとしてくださいね」

健之助の知らぬ間に裏で壮大な計画が練られていました。

将軍は出来たらラッキーくらいの感覚、伊吹は出来ても出来なくても弥生のためになると思っています。


健之助にとっても良い話に見えるかもしれませんが、将軍は国のため、伊吹は国と弥生のために動いているだけであり、健之助のために動いてくれているのは弥生だけだったりします。世知辛い。


次回から江戸を出発します。

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