表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/64

真実?と勇者

「驚かせてすまない」


 青白い肌。

 落ちくぼんだ目。

 不自然に乾いた唇。

 そして、どう見ても生者ではない雰囲気。


 目の前にいるのは、どう見てもゾンビだった。


「信じてくれ、俺は人に危害を加えたりはしない」


 そう言っているのは、レクングナイ王国の死んだはずの第三王子――アルブラミリンだった。


「この姿になったのは、訳があるんだ」

「いやいや、そういう問題じゃないから! もうこっちは、お腹いっぱいなんだよ!」


 俺は思わず椅子から後ずさった。

 

 もう十分だ。

 今日だけで、面倒な王子、宿敵の王子、犯人の執事、黒幕の国王、そしてゾンビ。

 どんな面接だよ。


 仲間募集って、もっとこう、剣士とか魔法使いとか、回復役とか、そういう人たちが来るもんだろ。

 なんで知らない国の事件関係者だけが押し寄せてくるんだ。


「劇団か!? 劇団『レクングナイ』なんだろ!? これ何のドッキリだ!」

「信じられないのも無理はない。元王子のゾンビだなんて言われても、普通は信じられないだろうからな……」

「そっちじゃないわ!!」


 確かに、ゾンビなのも驚いた。

 だが問題はそこじゃない。


 そもそも、ゾンビがパーティメンバー募集に来ていること自体がおかしいのだ。

 しかも、それが殺された第三王子ってどういうことだ。


 一瞬でも、まともな応募者が来たと思った俺の期待を返してほしい。

 

 劇団『レクングナイ』による王族暗殺事件編は、まだ終わっていないらしい。


 分かっている。


 ゾンビの仮装までしている時点で、ふざけている。

 いや、仮装じゃなくて本物かもしれないが、それはそれで余計にふざけている。


 本来なら、今すぐ追い返すべきだ。


 だが、困ったことに――俺はもう、話の続きが気になってしまっていた。

 

 一体、誰が黒幕なのか。

 国王は本当に操られていたのか。

 そして、死んだはずのアルブラミリンは、なぜ今こうして目の前に立っているのか。


 ミステリー小説を途中まで読まされたまま本を閉じるような気持ち悪さがある。

 結末を知らずに終われない。


「それで……ゾンビになってまで、何で来たんだ?」


 俺が尋ねると、アルブラミリンは静かに頷いた。


「実は、我が父チニマーノを操り、俺の暗殺を仕組んだ者がいる」


 やっぱり国王は操られていたのか。

 ステータスの“国王(傀儡)”は、どうやら冗談ではなかったらしい。


「その犯人を捕まえるためにも、私はこうして地獄の底から甦ったんだ」

「はあ……それで、その犯人って誰なんだ?」

 

 俺が問いかけると、アルブラミリンはわずかに口を閉ざした。

 青白い顔に、怒りとも悲しみともつかない影が落ちる。


 そして、ゆっくりと顔を上げると、はっきりと答えた。


「犯人は、第七王子プラハププラムだ」

「ええ!? プラハププラムが!?」


 まさかの名前が出てきた。


 一番最初に面接に来て、復讐に燃えていた第七王子。

 兄を殺したシオンを許さないと語っていた、あの男がまさかの黒幕候補。


「奴が国王を操り、第三王子である私を暗殺するよう仕向けた」

「でも、あいつはあんたのことを慕っているようだったぞ。なんでそんなことを?」

「表向きはそうだろうね」


 アルブラミリンは、どこか苦々しげに目を伏せた。


「だが、第七王子ともなれば、王位継承権などあってないようなものだ。それに、奴には剣も魔法の才能もなかった。そんな男が、一発逆転するには、自分より上にいる王子を消すしかないだろう?」

「雑な理由だな!」


 とんだ迷推理だった。

 しかも、なんか毒もある。


「そこで、プラハププラムは今回の計画を思いついた。国王を操り、王位継承権が上にある王子たちを順番に消していく。そして最後に、自分が王位を手にするつもりだったのだろう」

「ちょっと待てよ。あいつ、魔法が使えないんだろ? それなのに、どうやって国王を操ったんだ?」


 俺が尋ねると、アルブラミリンは少しだけ考えるように顎に手を当てた。


「分からない。おそらく、支配の腕輪とか、呪いの首飾りとか、そういった類いの魔道具を使ったのだろう」 

「いや、雑!!」


 そこは大事なところだろ。

 ダメだわ、この人。ただの陰謀論者と変わらない。


「もっと証拠とかないのか?」

「ないな」

「ないのかよ!」


 アルブラミリンは、なぜか自信ありげに続ける。


「そもそも、こういうときは大体、第七王子が犯人だろ?」

「知らねえよ! どこのミステリー世界の常識だよ!」


 結局、また迷宮入りか。


 本人は、なぜか自信満々に語っているが、何の説得力もない。

 そもそも、この事件の登場人物たちは全員、どこか推理が適当なんだよな。


 やっぱり、ドッキリだ。

 これは壮大なドッキリだ。

 こんな事件、最初から存在しないってことでいいや。


 俺はそう雑に結論づける。


 しかし、なぜかアルブラミリンは真剣そのものだった。


「とにかく、プラハププラムは次に、第四王子であるシオンを狙っているはずだ!」


 そして熱く語り出す。


「だから頼む。プラハププラムを止めてくれ!」


 アルブラミリンは、腐りかけた手を机について、深く頭を下げた。


「これ以上、兄弟同士で争ってほしくないんだ」

「いや、知らねえよ! 俺、仲間募集してるんだよ? なんで、そんな雑な設定の推理ドラマに乗っかってやらなきゃいけないんだ! もう勝手にやってくれ!」

 

 これ以上、コイツらとは関わらない。

 仲間募集は、また後日しっかりやろう。


 そう固く決意した――その時だった。


「きゃあああああああああっ!!」


 突然、ギルドのホールから女性の悲鳴が響き渡った。

 俺たちは一斉に顔を上げる。


「今の声は……?」

「外の方だ!」


 俺は慌てて応接室の扉を開け、ギルドのホールへ飛び出した。


 離れた控室の前には、騒然とする冒険者たちがいた。

 誰もが一点を見つめ、ざわめき、ある者は顔を青ざめさせている。


 受付嬢が、口元を押さえて床に座り込んでいた。

 明らかに震えている。


 俺は冒険者たちの間をかき分け、部屋の中を覗き込んだ。


 部屋の中には――一人の男が倒れていた。


 高そうな装備。

 やたら長い名前。

 面倒くさいノリ。

 そして、ついさっき黒幕候補として名前を挙げられたばかりの男。


 プラハププラムだった。


 床に倒れた彼の胸には、一本の細い剣が深々と突き刺さっている。

 刃はほとんど根元まで沈み込み、服の上から赤黒い血がじわじわと広がっていた。

 血だまりは石床を濡らし、部屋の中には重苦しい鉄の匂いが漂っている。


「プラハププラム!?」


 兜を被り直して遅れてきたアルブラミリンが、驚愕の声を上げる。


「おい、どうなっているんだ、レイジ!」

「知らねえよ! こっちが聞きたいわ!」


 展開が急すぎる。

 俺には何が何だかさっぱり分からなかった。


 さっきまで黒幕候補だった男が、今度は被害者として転がっている。

 状況から考えて、殺人だった。

  

 まさか、これ……連続殺人事件なのか?

 

 呆然と立ち尽くす俺に、受付嬢が震える声で説明を始めた。


「こ、この部屋は、レイジさんが使っていた応接室から三つ隣にある控室です。プラハププラム様は、レイジさんとの面接が終わった後、“ある方と話がある”とおっしゃって、この部屋を使われました」


 受付嬢は、青ざめた顔で続ける。


「ですが、扉が閉まったまま、一向に出てこられる様子がなくて……。何度かお声がけしたのですが、返事もありませんでした。それで不審に思って鍵を開けたら、この状態で……ぐすん。ちなみに、窓も内側から鍵がかかってました。扉にも、無理やりこじ開けられたような跡はありません」


 なぜか涙ぐみながらも、事件の状況を事細かに説明してくれるお姉さん。

 もしかして、そういう役割のモブキャラなの?


 だが、彼女の話を整理すると――


 プラハププラムは、誰かと話すために控室へ入った。

 その後、扉は閉ざされたまま開かなかった。

 窓も内側から鍵がかかっていた。

 部屋に外から侵入した形跡はない。

 そして、その密閉された部屋の中で、プラハププラムは剣で刺されて死んでいた。

 

 つまり――

 

「密室殺人ですね」


 どこから現れたのか、リリスが目を輝かせながら告げた。


「うわっ! って、どこから出てきたの!?」

 

 俺が反射的にツッコむと、リリスははっとしたように両手で口を押さえた。


「す、すいません……。どこかの本で読んだことがある展開だったので、つい……」

「ダメよ、リリスちゃん。見てはいけないわ」


 そのリリスを後ろから抱えるようにして、遅れてヴェーノがやってきた。

 彼女はリリスの視界を手でそっと塞ぎ、そのまま現場から引き離そうとする。


「ちょ、ちょっと待ってください……」

「待たないわ。子どもが見るものじゃないの」

「で、でも……密室が、トリックが……」


 ヴェーノは容赦なくリリスを引っ張っていく。

 リリスは名残惜しそうにこちらを振り返っていたが、ヴェーノの腕から逃れることはできなかった。


 二人のやり取りを横目に、俺は深くため息をついた。


 そして、嫌でも気づいてしまった。 

 どうやら俺は、まだこのミステリーの世界から抜け出せないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ