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名探偵リリス

「いや、タイトル変わってんじゃねえか!」


 俺は天に向かってツッコミを入れた。

 

 ちょっと待て。

 前回まで、これは俺の物語だっただろ。


 無理やり異世界に召喚されたかと思えば、ツッコミ勇者とかいうわけの分からない職業に就かされ、散々この世界に振り回される。

 そんな可哀想な俺の物語だったはずだ。

 

 直近の数話だと、劇団『レクングナイ』の連中による王族暗殺事件に巻き込まれ、仕舞いには密室事件の発生。

 意味不明なミステリーの世界に迷い込んだままに、前話は終わっていたはず。


 なのに、突然の路線変更。

 これまで、〇〇と勇者とかだったじゃん。

 それが、なんで『名探偵リリス』!?


 俺はもう用済みってか? この野郎。


「どうしたんですか? レイジさま」

「あっ、ごめん。なんだか今回のタイトルに悪意を感じた気がして……」


 不思議そうに首を傾げるリリスに、俺は小声で答えた。


 もちろん、リリスは関係ない。

 悪いのは、この世界そのものだ。

 いや、もっと言えば、俺をこんな展開に放り込んでいる見えない何かだ。

 

 覚えてろよ、この世界のクソ神が。

 すぐに事件を解決して、主人公の座に舞い戻ってやるからな。


 そう心の中で固く誓った、その時だった。


「で、犯人は、あなたなんでしょ? さっさと自白したら?」

 

 すぐ横から、ヴェーノの冷たい声が飛んできた。


「やってねえよ!」


 俺は咄嗟に叫んだ。

 この女、ひどい。

 仲間を当然のように犯人扱いしてきやがる。

 しかも、目が本気だ。

 全く冗談で言っている感じがないのは、どういうことですかね。

 

「そもそも、俺に動機がないだろ」


 俺は、当然の正論で返す。

 だが,ヴェーノはわざとらしくため息をついた。


「あるでしょ。自分より立派な装備をしているから奪おうとしたとか、イケメンだからムカついたとか」

「めちゃくちゃな動機やめろ! あと、その汚物を見るような目もやめろ!」


 相変わらず、ヴェーノ様は容赦ない。


 リリスは心配そうにこちらを見上げているが、ヴェーノは完全に俺を容疑者の一人として見ていた。

 本当どうなってるんだ、このパーティは。


 とはいえ、目の前で起きたのは紛れもない殺人事件。

 それも、扉も窓も内側から閉じられていた密室殺人だ。


 おそらく、この謎を解かない限り、俺はこの奇妙なミステリー世界から抜け出せないのだろう。

 面倒くさいが、さっさと解決するしかない。


 とりあえず、こういう時は手かがりを探すものだよな。


 俺は慎重に、プラハププラムの遺体へ近づいた。


 胸には、細い剣が深々と突き刺さったままだ。

 高価そうな服は血で汚れ、床には赤黒い染みが広がっている。

 しかし、死に顔は不思議と穏やかだった。


 争ったような形跡はない。

 部屋の中も、ぱっと見た限りでは荒らされていなかった。


 机の上には、飲みかけのお茶が一つ。

 その隣には、小さな紙袋が置かれている。


 中を覗いてみたが、すでに空だった。

 袋の内側には、うっすらと甘い匂いが残っている。


 それから、他にも手がかりはないかと部屋中を探してみる。

 壁、床、窓、机、扉、椅子。


 だが、見れば見るほど、何も分からない。


「ダメだ! 全然分かんねえよ!」


 あっさり限界が来た。


 俺は元々、ミステリー小説を読むタイプの人間ではない。 

 そんな奴が、いきなり密室殺人に遭遇したからといって、ぱぱっと解決できるわけない。


 そもそも、密室ってなんだ。

 ギルドの人間が合鍵を持っている時点で、密室とは言えないんじゃないか。

 密室の定義からして、もう怪しくなってきた。 


 俺が前提条件すら疑い始めた、その時だった。


「あれれ〜? これ、なんか変ですよ」


 聞き覚えがありすぎるようなセリフが聞こえてきた。


 振り返ると、リリスがプラハププラムの遺体をじっと覗き込んでいた。

 しかも、なぜか赤い蝶ネクタイをつけ、丸いメガネまでかけている。


 それはどう見ても、『見た目は子ども、頭脳は大人』の名探偵の姿そのものだった。


「完全に世界観に入り込んでるぅ!!」


 俺は反射的に叫んだ。


 いつの間にそんな小道具を用意したんだ。

 さっきまでいつも通りだったはずなのに、もう完全に探偵モードである。


 まずい。

 始まっている。

 新番組『名探偵リリス』が、完全に始まっている。


 このままだと、なんちゃって勇者の俺なんて最初からいなかったことにさりかねない。

 目の前では、すでに土曜夕方枠の国民的アニメの放送が開始されようとしていた。


「何に気づいたの? リリスちゃん」


 ヴェーノが、やけに優しい声でリリスに問いかける。

 さっき俺を犯人扱いした女とは思えない声色だった。

 俺とリリスで、本当扱いが違うよな。


「それはですね〜」


 リリスは、いかにも名探偵らしく一拍置いた。

 丸いメガネの位置をくいっと直し、得意げにプラハププラムを指さす。


「この人、さっきまでシュークリームを食べてました!」

「へえ?」

 

 あまりにも予想を斜めにいく発言に、俺の口から間の抜けた声が出た。

 だが、名探偵リリスは自信満々だった。


「見てください。この口元。カスタードクリームが付いています。それに机の上の紙袋が何よりの証拠です。間違いありません。この人は部屋でシュークリームを食べていました。羨ましいです。私も食べたいです!」

「ん?」

「さすがだわ、リリスちゃん! あとで私と一緒にシュークリームを食べましょうね」

「わあっ、ありがとうございます、ヴェーノさま!」


 ダメだ。

 この二人に任せていたら、一生事件は迷宮入りだ。

 突如始まった新番組も、一話で打ち切り待ったなしだ。


 俺が呆然としていると、隣にいたアルブラミリンが、そっと声をかけてきた。


「なあ、レイジ」

「ん? どうした? 主人公の座ならやらんぞ」

「違う、そうじゃない。こういう時は、容疑者からアリバイを聞いて回るといいんじゃないか?」

「的確なアドバイス!?」


 さっきまで根拠のない陰謀論を語っていたアルブラミリンが、急に至極真っ当なことを言い出した。


 たしかに、その通りだ。

 現場を見ても何も分からないなら、関係者に話を聞くしかない。


 陰謀論者の助言に従うのは少し癪だが、今の俺にはそれが唯一の手がかりに思えた。


「よし。容疑者から話を聞こう」


 俺は、カスタードにするかホイップクリームにするか楽しそうに話し合うリリスとヴェーノを横目に、そう結論づけた。


 当然、容疑者は劇団『レクングナイ』の連中だ。

 プラハププラムと面識があり、なおかつアルブラミリンの暗殺にも関係している者たち。


 シオン。

 クローツ。

 チニマーノ国王。

 そして、一応アルブラゾンビ。


 俺は、さっきまで面接をしていた応接室に、劇団員を順番に呼ぶことにした。

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