黒幕と勇者
「私は、レクングナイ王国の第64代目国王バルトドット・チニマーノ・セルン・フツレート・メラ・ムーナスである!」
「黒幕きちゃった!!」
俺の叫びが、応接室にむなしく響いた。
なぜ次々と関係者が出てくるんだ。
王族暗殺事件のミステリー小説の世界に入り込んでしまった気分だ。
ここまでいくと、もはや盛大なドッキリなのではないかと疑いたくなる。
どこかに隠し魔道具でも仕込まれていて、俺の反応を見て笑っている連中がいるんじゃないだろうな。
「一国の王がなぜこんなところに……?」
念の為、機嫌を損ねないように慎重に尋ねる。
「実は、私の大事な息子がある者によって暗殺されてしまってな。その犯人を追っている」
「あんたじゃないのかよ!?」
「んん? なんだって?」
「あ、すいません。何でもないです」
思わず本音が漏れた。
危ない危ない。王様相手に「あんた」呼ばわりはさすがに不敬すぎる。
だが、ますます分からなくなってきた。
この国王が黒幕じゃないなら、いったい誰が黒幕なんだ。
クローツは国王の命令で暗殺したと言っていた。
シオンはクローツが怪しいと言っていた。
プラハププラムはシオンを第三王子の宿敵だと言っていた。
もう関係図がぐちゃぐちゃだ。
誰か相関図を作ってくれ。日曜ドラマのホームページにある分かりやすいやつを。
「それで……国王様は、誰が犯人だとお考えで?」
「息子である第三王子を殺したのは、執事のクローツだ」
「そこは一致するのか……」
シオンの推理も、クローツ本人の自供も、そこまでは同じだ。
問題は、その先だ。
「執事が、なんで暗殺なんか?」
「もちろん、私の命令だ」
「いや、あんたの命令かい!」
即座にツッコんだ。
国王は、まるで当然のことのように言ってのけた。
「ちょっと待って! 今、自分で命令したって言ったよね!? じゃあ、あなたが黒幕じゃん!」
「それが問題なのだ」
チニマーノは、重々しく首を振った。
「なぜ私がそんな命令をしたのか、まったく覚えていないのだ」
「はっ?」
「私は、第三王子アブプラミリンを愛していた。あの子は優しく、賢く、民からも信頼されていた。王としても、父としても、誇りに思っていたのだ」
兜の奥から聞こえる声は、確かに悲しみに満ちていた。
少なくとも、息子を失った父親の声に聞こえた。
「それなのに、ある日突然、息子を殺さなければならないという衝動に駆られたのだ」
「いやいやいや、何言ってるんだよ……」
怖い。
普通に怖い。
王族の陰謀とか、そういう話かと思っていたら、急にホラーになった。
“息子を殺さなければならない衝動”って何だ。
呪いか? 洗脳か? それともただのヤバい人か?
俺は、これ以上関わると確実に面倒なことになると判断した。
さっさとお帰りを願おう。
「分かりました。合否は追って伝えるので、今日の面接はこれで……」
「待ってくれ!」
チニマーノが、突如立ち上がった。
「ちょっ……びっくりした! なんだよ!?」
フルプレートの鎧がガシャアンと音を立て、応接室の机がわずかに揺れる。
迫力だけはすごい。
「私のステータスを見てくれ」
「ステータス?」
「ああ……私がパーティに相応しいということを証明させてくれ」
「いや、あんた……執事探しに来てるだけだろ!」
俺は深いため息をついた。
なんなんだ今日は。
パーティメンバーを募集しているはずなのに、誰一人としてまともな応募者がいない。
みんな勝手に事情を語り出す。
「分かったよ。ステータスだけ見る。見たら帰ってくれよ?」
「ああ」
俺はチニマーノから冒険者カードを受け取った。
そこに表示された内容を見た瞬間、俺の目は点になった。
『第64代目国王バルトドット・チニマーノ・セルン・フツレート・メラ・ムーナス』
レベル3
職業:国王(傀儡)
HP:18
MP:5
攻撃力:54
防御力:29
魔力:7
素早さ:23
統治力:2
人望:-30
黒幕率:20%
「国王、操られてるぅぅ!!」
俺は思わずカードを二度見した。
職業欄に堂々と、**国王(傀儡)**と書かれている。
嫌すぎるだろ、これ。
ステータスカードに政治的立場を暴露されてる王様、初めて見たわ。
「しかも、人望なさすぎだろ!」
人望がマイナスって……絶対、誰かに裏切られてるだろ。
統治力も2だし。国民からの信頼されてないどころか嫌われてるだろ。
そして、最後の黒幕率ってなんだ。
そんなことまで教えてくれるの?便利だな、おい。
でも、20%の確率はあるんだな……。微妙に疑惑を残すなよ。
「どうかしたのか?」
チニマーノは不思議そうにこちらを眺めている。
いや、どうかしたどころじゃない。
あなた、自分のカードに“傀儡”って書いてありますよ。
あと人望マイナスです。
王国がすでに乗っ取られている可能性もありますよ。
……とは、さすがに言えない。
「いや、なんでもない。とにかくステータスは見たから帰ってくれ」
「そうか。では、良い返事を期待している」
「期待しないでいいから!」
俺は何とかチニマーノを応接室から送り出した。
鎧の音が遠ざかり、扉が閉まる。
その瞬間、俺は机に突っ伏した。
「ろくなやつが来ない……」
俺は、机に突っ伏しそうになりながら呟いた。
ここまで四人。
全員、レクングナイ王国の関係者。
しかも全員、王子暗殺事件に何かしら関わっている。
仲間探しをしているはずなのに、気づけば国家陰謀のど真ん中に片足どころか、腰まで突っ込んでいる。
意味が分からない。
このまま続けても、また変なやつが来る気がする。
いや、むしろ変なやつしか来ない気がする。
でも、次が最後か。
ここまで来たら、もうどうにでもなれ。
俺は完全に死んだ目をしながら、最後の応募者を呼んだ。
「じゃあ、最後の方。どうぞ……」
扉が、ゆっくりと開く。
入ってきたのは、鎧兜を身につけた騎士風の男だった。
全身を覆う金属鎧はよく手入れされており、腰には剣。
背筋は伸び、足取りも落ち着いている。
無駄な動きはなく、立ち姿だけならかなり頼れそうに見えた。
またフルプレートか。
さっきの国王の悪夢が脳裏をよぎる。
だが、目の前の騎士は、こちらに向かって丁寧に一礼した。
「失礼する。こんな格好ですまないが、パーティメンバー募集の面接、よろしくお願いする」
……おお。
なんだ。
まともそうじゃないか。
少なくとも、いきなり王国の関係者を名乗り出さない。
それだけで、今の俺には高得点だった。
「いや、問題ない。これまで変わった応募者が多くてな。少し驚いただけだ」
「そうなのか。私も常に兜で顔を隠しているから、初対面では怪しまれることが多くてね」
「まあ、素顔を隠す冒険者なんて珍しくないだろ? 訳アリの奴も多いし」
「そう言ってもらえると助かる」
声は落ち着いている。
礼儀もある。
態度も穏やかだ。
いいぞ。
これは、もしかすると本当にまともな応募者かもしれない。
「ただ……実は、人前で顔を見せられなくてね」
「そうなのか」
「だが、面接の場で隠し事をしたままというのも失礼だろう。最初に正直に話したい。だから、この兜を取っても驚かないでくれないか?」
「ああ、分かった」
人に見せたくない古傷でもあるのだろうか。
戦場で負った火傷か、魔物にやられた傷か。
そういう事情なら、こちらも配慮しなければならない。
俺は真面目な顔で頷いた。
「感謝する」
騎士は、ゆっくりと兜に手をかけた。
金属が擦れる音が、応接室に小さく響いた。
そして――兜が外される。
その瞬間、俺は言葉を失った。
青白い肌。
落ちくぼんだ目。
不自然に乾いた唇。
そして、どう見ても生者ではない雰囲気。
それは――どう見てもゾンビだった。
「驚かせてすまない」
ゾンビが丁寧に謝ってきた。
俺は、ただ呆然と目の前の光景を見つめることしかできなかった。
脳が理解を拒否している。
騎士は、腐敗しかけた顔で、しかし誠実そうに名乗った。
「私は、レクングナイ王国の第三王子トマム・アルブラミリン・ディルラン・フランソ・メラ・ムーナスだ」
「死人が来ちゃった!!」
応接室に、今日一番のツッコミが響き渡った。




