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その仲間①

「新しいメンバーを募集する!」


 ハウラスの街に戻り、翌朝。

 俺は、パーティの面々を集めて、開口一番そう告げた。


 今の俺たちのパーティ構成は、圧倒的に前衛不足。戦闘面での火力が致命的に足りていない。


 というか、ヴェーノ以外まともに戦えない。

 俺はもちろん論外。

 このパーティ、いつ全滅したっておかしくない。


「それ、あんたのせいよね?」


 ヴェーノから棘のある一言をいただく。


「たしかに、レイジさんは頼りにならないですもんねねっ」


 さらっと、笑顔でロアも爆弾を投げてきた。

 消え去りたい……。


「レイジさまはすごいですよ! 誰よりも、声がよく通りますし!」

「リリスちゃん……。それって何もしてないのと同義なのよ」


 リリスの励ましが逆に刺さる。俺のライフはもうゼロよ。


 それでも、俺のことをずっと凄いと思ってくれているリリスだけが心の支えだ。


「それで、どうするつもりなの?」

「ギルドの掲示板を利用してみるつもりだ」


 冒険者ギルドではメンバー募集も自由に行える。

ギルドの掲示板には、クエスト用とは別に、メンバー募集の貼り紙用スペースが設けられている。


 俺たちはすでにCランク相当のロア、Dランク相当のヴェーノがいる実績ある(?)パーティ。前衛募集の張り紙を貼れば、多少の応募は来るだろう。


というわけで――


『前衛募集中! 初心者歓迎! アットホームな雰囲気でお出迎えします!』


と、いかにもな文言を書いた紙を掲示板にペタッと貼ろうとした、まさにその瞬間だった。


「それ、前衛の募集か?」


 ぐい、と肩口から声がかけられた。

 振り向くと、そこには赤茶色のボサボサなロングポニーテールを揺らした少女が立っていた。


 身なりは村娘と戦士の中間といった感じで、片手にはサイズの合っていない大剣がぶら下がっている。何より、目がキラキラしていた。


「あたしはポポナ!今日、村から出てきたばっかりの新米冒険者なんだけどさ、今まさにパーティ探してたところなんだ!もしよかったら、仲間に入れてくれないか?」


「てことは……初心者か?」


 つい口に出すと、すかさず横から声がかかる。


「良いんじゃない?あんたより使えそうだし」


 うるせぇよ、ヴェーノ。


 とはいえ、見た目はゴリゴリの前衛タイプ。確かに即戦力に見える。やる気だけはありそうだし、少なくとも俺より打たれ強そうだ。


「本当か!?やったーっ!よろしくなっ!」


 ポポナは無邪気に微笑んだ。

 なんだ、良い子じゃないか。

 この子なら、安心して前衛を任せられる気がする。


 ヴェーノも反対してないので、パーティに参加してもらうことにした。


「俺は、レイジ。それに、リリス、ヴェーノとロアだ。よろしくな」

「よろしくお願いします!」

「レイジより期待できそうね」

「頑張りましょうねっ」


 こうして、新しい仲間戦士のポポナがパーティに加わった。

  


◆◇◆


 その日のうちに、俺たちはさっそくクエストへ出かけることにした。

 選んだのは、Fランクのオーガ討伐。

 初陣にしては少し難易度が高い気もしたが――ヴェーノもいるし、まあ大丈夫だろう。

 

 ポポナは、ブンク村という片田舎の出身らしい。

 かなり山奥の村で、外の世界に出る機会は少なかったとのこと。


「あたしの村、山と川と畑しかなくってさ!よく畑に猪が出て退治してたな!」

「それ、猪との戦闘経験値あるってこと?」

「うん!小さい頃は木剣で戦ってたよ!」


 いや、頼もしいのか不安なのか、判断に困るんだけど。


 話によると、ポポナの父親は村一番の刀鍛冶で、彼女が冒険に出る日に合わせて大剣を打ってくれたらしい。

 その剣を肩に担ぎながら、ポポナは胸を張っていた。


「この剣には、父ちゃんとあたしの絆パワーが詰まってるんだ!」


 まるで日曜の朝にやってそうな戦隊モノの設定。

 でも、満面の笑顔でそう言われたら、さすがに何もツッコめなかった。


 ハウラスの街を出て、およそ15分。

 目的地の森林地帯に到着した。

 このあたりは魔物の生息密度が高く、時折オーガのような中型の魔物が発生しては、村人や旅人を襲うこともあるため、定期的な駆除が必要だ。


 森に一歩踏み込むと、辺りは静まり返り、空気がひんやりと肌を刺す。

 木々の合間から差し込む光がちらちらと揺れ、いかにも魔物が潜んでいそうな雰囲気を醸し出していた。


 しばらく警戒しながら進んでいると――


「いました、オーガです!」


 リリスが木陰の先を指さした。

 

 視線の先に、ずんぐりとした巨体が蠢いていた。

 2メートルはあろうかという巨大、土色の肌に、丸太のような腕。ぶよぶよした筋肉に覆われた体躯。


「ポポナ、前を頼む!」


 俺がそう指示を飛ばすと、ポポナはびしっと背筋を伸ばして、大剣を抜き放った。


「よしっ!任されたッ!」


 彼女の目に、闘志の火が灯る。

 ポポナは重そうな剣を軽々と構え、ぐっと地を踏みしめた。大剣を構える姿は、まるで戦場に立つ歴戦の女騎士を思わせた。


「いくぞぉぉおおおおおおおおっ!!」


 叫びと同時に、地を蹴って一直線に突撃。

 風を切る音とともに、葉っぱが舞い上がり、土埃が視界を霞ませた。


 その速度と気迫に、一瞬こちらが圧倒される。


 そして――


「くらええええぇぇえええっ!!」


 ポポナの大剣が、オーガの肩口を目がけて振り下ろされる。


 しかし――


 ポンッ!!


 緩い金属音とともに、大剣が止まった。

 オーガはその巨大な腕で、剣の一撃をまるで木の枝でも払うかのように軽くいなしていた。


「……!?」


 衝撃で腕を少し痺れさせながらも、ポポナは歯を食いしばって体勢を立て直す。


 しかし彼女の目に、諦めの色はない。


「まだだっ! これでどうだ! 超・乱撃ぅ!!」


 気合の掛け声と共に、ポポナは大剣をぶん回し始めた。

 大振りな斬撃がオーガの胴体や肩にと次々とヒットした。

 だが、オーガは一歩も動かない。

 まるで攻撃を受けていないかのように、無表情でポポナを見下ろしている。


「なんで、攻撃が効いてないんだ! あれ、本当にオーガか!?」


 異常事態に、俺は思わず声を上げる。


「いえ、ただのオーガよ」

「ええ、そこらによくいるタイプですねっ」


 ヴェーノとロアが、まったく動じた様子もなく言い放つ。

 よくいる……?

 オーガってそんな最強だったのか!?


 いや待て。それって――


「ポポナ、大丈夫か!?」


 思わず心配になって声をかけると、彼女は元気よく返事をする。


「全然平気です! あたしに任せてください!」


 その顔に、一点の曇りもない。むしろやる気がさらに上がっている。


「トドメだ!あたしの力は、絆パワーで100倍だ!!」


 さらに助走を取るポポナ。

 今度は大剣を大きく振り回しながら、円を描くように回転し始めた。


「大回転クラッシャー!!」


 そんな技名を叫びながら、体を回転させて突っ込むポポナ。

 勢いに任せた回転斬りがオーガの胸元にヒットする――が、


 ズゥゥン。


 オーガは、やはり一歩も動かない。

 血どころか、筋肉の一部も削れていない。受けた場所を軽く払っているだけ。


 返ってきたのは、攻撃した方。

 目を回したポポナが、ふらふらとその場に立ち尽くしていた。


「……え。すごい大技だったのに、全然効いてなくない? なんか、この前の自分の姿を思い出して恥ずかしくなってきたんだけど!」


 目を回しながらも、ポポナの闘志はまだ失われていない。


「やるな、オーガ! だが、あたしは負けない!!」


 そう言って再び立ち上がる。

 俺は気付いた。


「ダメだ……あの子、残念な子だ!!」


 俺のツッコミが、森の中に響き渡った。

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