だいたいの主人公は火属性になりがち
ヴェーノが剣を振るう。
何度も、勢いよくスノーゴーレムを斬りつけた。
だが——。
「効いてない……!?」
手応えが、まるでない。
氷の塊でできたその巨体は、多少砕けてもダメージが入ってる様子がない。
氷の破片が舞うたびに、その瞳の奥に宿る冷たい光はますます鋭さを増していた。
どうする。
このままじゃ、ヴェーノが消耗する一方だ。
俺は慌てて荷物の中から、ギルドで支給された冒険者ガイドブックを引っ張り出す。
何か役に立つ情報はないのか。
「えーと、スノーゴーレム……スノーゴーレム……あった!」
記載されていた情報はこうだ。
――
《スノーゴーレム》:氷の魔力で構成された魔獣。打撃攻撃はほぼ無効。
【弱点:火属性攻撃】
――
弱点は、火か。
でも、俺は魔法が使えない。
当然、火属性武器もない。
「ここまでか……」
逃げるにも、雪原の中ではゴーレムの方が足が速い。
このままだと全滅もあり得る。
その時だった。
「私に任せてくださいっ」
場違いな明るい声が響いて、思わず振り返る。
手を挙げていたのは、ロアだ。
「さっき、祈っても何もならなかっただろ!」
「そうよ。邪魔だから引っ込んでなさい」
俺もヴェーノも、ロアを軽くあしらう。
今は、悪ふざけに付き合ってる場合じゃない。
だが、ロアは言われっぱなしなのが気に食わないのか、頬っぺたを膨らまして抗議する。
「私だって、やれば出来ますからねっ!」
「コズミックレイ!!」
ロアがパチンと指を鳴らすと、そこからビームが発射された。
轟音とともにスノーゴーレムの肩を貫き、氷の腕が吹き飛ぶ。
「うおっ、マジで!?」
その瞬間だけ、時間が止まったかのようだった。
俺たちは一斉にロアを見る。ヴェーノも唖然としている。
まるで漫画の世界から飛び出したような威力の一撃。もうデスビームじゃん!
戦闘力53万の人ですやん……。
「使えるなら、最初から使ってくれよ!」
「ロア様!すごいです!」
リリスがきらきらした目で拍手している。
とはいえ、あれだけの威力なら、このまま押し切れるかもしれない。
「これなら……いけそうだな!」
俺は希望を見出しかけた。だが——。
「魔力をほとんど使っちゃいましたっ」
てへ、と舌を出して笑うロア。
「いや、可愛さでごまかすな!戦略性ゼロか!」
期待させておいて、裏切るまでの時間が早過ぎる。
やっぱり、ファイアーボールのような、炎魔法じゃないと効かないのか。
俺が後ずさりかけたその時——。
「次は、私に任せてください!」
今度は、リリスが元気よく手を挙げた。
そして大きめのリュックを背負っているのに気づく。
……あれ、あんなの持ってたか。
疑問に思った瞬間、リリスが説明を始めた。
「はい!森で出会った番人さんからいただきました!」
「……って、それ山本さんの荷物じゃねぇかあああ!!!」
どさっと中身を床に広げ、容赦なく物色していくリリス。
寝袋、パンの残り、謎のフィギュア、乾燥ミカン、オイル、領収書の束、布切れ。
あれこれと意味不明な私物が散らばっていく。
「リリスちゃん、そんな汚い物持ってきたらダメよ」
「おい!汚物扱いするな!」
容赦ないヴェーノ。
「いや、そうだけど!? なんでその判断になる!? 追い剥ぎの発想じゃん!」
ゴチャゴチャした荷物の中から、リリスは黒色の長い物体を取り出した。
引き金を引くとパチン、と火花が走る。
「……チャッカマン?」
スローライフの必需品だったのか。
焚き火とかしていたのかもしれない。
これはでも、火が使える……!
「行きます!」
リリスは恐れる様子もなく、ズンズンとスノーゴーレムに近づいていく。
そして、落ちていた布の切れ端に火をつけ、それをゴーレムの足元に投げ込んだ。
メラメラと燃え上がる火。
スノーゴーレムは一瞬びくりと体を震わせたかと思うと——
「ヴォオオオオオオオッ!!」
悲鳴とも怒号ともつかない絶叫をあげ、全身がグラグラと揺れる。
蒸気が上がり、氷の体が一気に溶けていった。
次の瞬間。
パキンッ——
音を立ててひび割れた身体が崩れ落ち、そのまま灰のような氷の粒子となって風に舞った。
……倒した。
信じられないくらい、あっけなく。
あんなに、物理攻撃もデスビームも効かなかったのに、最後はチャッカマンで勝利とは。
「なんか、あっさり終わっちゃいましたねっ」
「山本の遺品、めっちゃ役立ったな……」
魔法も剣技も何もいらんかった。
文明の利器が最強だった。
ロアが魔力を使い果たしたため、一度ハウラスに帰る事になった。
目的のアイスクラブはまた日をあらためて行くことにしよう。




